第5話 人参事件の真相

 次の試合まで俺様が控室で休憩しているとドアがノックされ一人の風馬族の男が入って来た。初めは仇討ちでもするのかと思い警戒していたのだが……。


「レグルス様三回戦進出おめでとうございます」


「ああ、それで何の用だ?」


「恥を忍んで聞いていただきたい事が……キタルファ様は最期に何も言えなかったので、いえ生きていてもきっと自らは言わないと思いますので」


「……なんだ、言ってみろ」


「はい、ただの言い訳に聞こえるかもしれませんが……」


 この風馬族の男の話を要約するとこうだ。


 キタルファが親父を裏切ったのは、そもそも馬族という種族は他者に仕える事に生きがいを持つ種族で、風馬族は更にその気質が高いと言う。そして俺様の家系は『獣王祭じゅうおうさい』で負け知らずの為結果的に代々獣王の家系になる。


 俺様の爺ちゃん達が獣王だった時はずっと主君と崇め風馬族は忠義を尽くしてきたが、俺様の親父が獣王になった時に“獣人国に住む者達の種族に序列や格付けなど不要“と言い、宰相や大臣などの役職や人間族で言う貴族制を廃止し、何かあった時は各種族の代表が集まって多数決で決めればいいという国政に舵を切った。


 それにより風馬族は主君に使える事が出来なくなった。親父に裏で動く種族、役職などもう要らないと言われたから。だからウォルフに協力した。ただ親父を獣王の座から引き下ろすだけで毒殺するとは思わなかったらしいが……。


 そうか……だか毒殺する事は知らなかったと言われても親父はもう生き返らないし、裏切ったのは確かだ。だから許す気はない。『いにしえの掟』に従い死で償ってもらった。キタルファを殺した事は謝る気もないし後悔もしていない。


 それにしてもいくら一族の気質の為とはいえキタルファがした事は仕えられるなら誰でもいいと言う事になるんだが……それでよかったのか? それともウォルフは俺様が思っているような奴では無くて仕えるに値する男なのだろうか?


「今更私達風馬族を許していただきたいとかそんな都合のいい事は申しません、ただ最後にキタルファ様の事情を、いえ私達の事情も知っていただきたかっただけです……では」


 最後ねぇ……俺様はキタルファと約束したから、獣王になってもそれは守るつもりだから安心しろ。


 席を立ち上がり帰ろうとしていた風馬族の男をしり目に俺様は羽兎族のアルネブの言葉を思い出した。ついでにこの男に聞いてみるか。


「ちょっと待て、俺様も実はキタルファに聞きたい事が有ったんだが、お前でも分かるかな?」


「何でしょうか?」


「禁止されているのに人間族と貿易をしていると小耳に挟んだのだが」


 その男は少し驚いた顔をした。


「……はい、どうしても人間族から手に入れたいものがありまして……」


 どうしても? おや? もしかしてアルネブと同じ理由って事はないよな?


「それはお前達の言う主君が決めた事に逆らってまでやることなのか? まさかと思うが人参って事は無いよな?」


「ど、どうしてお分かりに?」


 こうなると人参嫌いの俺様の方が間違っているのではと思って来る。


「そんなに我慢できないほど好きならば、羽兎族の行動も理解できるだろうに、なぜ足元を見るように『十倍と同じ値段なら売ってやる』なんて事を言ったんだ?」


 そう、今まで接してみた感じから風馬族は他族にそんな安っぽい嫌がらせをする様な種族に見えないのだ。


「十倍ですか?……十倍? あっ、もしかしてアルネブさんの件ですか、なるほど出場理由はそういう事でしたか……まさか聞き間違いをしていたとは」


「聞き間違い?」


「はい、私もその場に居ましたがキタルファ様がアルネブさんに言ったのは『十倍・・と同じ値段なら売ってやる』、ではなく『十兵衛・・・と同じ値段なら売ってやる』です」


「ん? 十兵衛?」


「はい、十兵衛とは私達一族の商人で人間族と裏で貿易をしている商会の名前にもなっています。この国の西側にある私達の領地では結構有名なんですけど『十兵衛商会』。勿論他の領地にも店を出していますが、人参を売っているのは風馬族の領地にある店だけです、無論こっそりとですが」


「言われてみれば聞いた事が有る店の名前だな」


 と言う事は風馬族の領地の店で売っている値段と同じでいいならって事か。


 まあ確かにキタルファからしたら自分の領地のしかも同族の商人だし、アルネブに比べたらかなり安い値段で手に入るだろうし、だからそんな言い方をして勘違いされてしまったって事か。


 うーんなんかキタルファが浮かばれないなぁ、殺したのは俺様だけど。それにしても羽兎族の耳はあんなに大きいのに聞き間違いするんだな――。


 ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽



~獣人国コロシアム選手控室 キリン亀族トナティウ視点side


「そろそろミーの出番なのね、それより二回戦ではどんな戦い方をしていたのね?」


 ミーは同族の部下の一人に尋ねた。


「戦い方ですか? 今回から他の出場選手の試合を観覧する事は可能になりましたがなぜ控室で待機されていたのですか? 気になるなら試合を観に行かれた方がよろしかったのでは?」


「一回戦は観客席で座って観ていたのね……後ろの観客に見えないと苦情を言われてしまったのね、ミーは目が悪いから後ろの席には行きたくないのね、それで無視して観続けていたら大会委員の人が来て観客席を出禁にされたのね……」


「そ、そうですか……それで試合の方ですが情報に有った『不死身』スキルはどうやら本当だったようです。逆にキタルファ大臣が……殺されました」


「ええっ!?……それは悲しいのね、でも試合は非情なのね、仕方がないのね」


「そうですか、それでもあのような子供が相手を殺すとは正直私は思っていませんでした」


「その考え方は甘いのね、まるで前獣王の様な考え方なのね、ミー達は相手を殺す気で今回の試合に臨んでいるのね」


「はっ、申し訳ございません」


「そうなのよね、殺すか殺されるかなのよね……折角この国で新参者のミー達キリン亀族の序列が上がったのに、みすみす手放す気はないのね」


「序列ですか? そんな人間族のような格付けは今のこの国にはないのでは?」


「あるのね、皆、口に出さないだけで種族による順位づけは存在するのね」


 あるのね……獣人社会は結局、力なのね。力の無い種族は舐められて力の有る種族にいいように使われ奪われるだけなのね。だから、だからミーは五年前に協力したのね――。

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