第16話 小嘘
「この扉の向こうにボス、クイーンスライムがいる。準備は良いかい?」
ここのボスは多分、俺が今まで戦った魔物と比べて数ランクも上の敵だろう。
ただ今回は案内役としてではなく、仲間としてのレダさんと一緒だ。大丈夫、絶対倒せる。一度深呼吸し、ボス部屋のヒヤリと冷たい扉を開けた。
ボス部屋の中に入ると白い霧が立ち込めっており、それが晴れると小屋ぐらいの大きさのピンク色のスライム、クイーンスライムが視覚に入った。と同時に俺達が入って来た扉がゴォォォと音を立てて閉じた。
ポヨンポヨンと上下左右に身体を伸ばしたり縮めたりしている。準備体操のつもりだろうか。ただ少し可愛い。
突然体の一部を腕の様に伸ばして俺に攻撃して来た。
早いな! 俺は半身で躱し『円月斬リ』でそれを斬り落とす。丸太くらいの太さはあったがこれぐらいなら剣でも斬り落とせるようだ。
「少年、気を付けろよ、そいつに捕まり取り込まれたら溺れ死ぬぞ」
「わかっ――」
――今度は四本分の腕を作り伸ばしてまた俺に攻撃して来た。すかさず『円月斬リ』で斬り落とす。不味な、これ以上増やされたら対応できない、今の俺では一度に斬れるのは四本が限界だな、それにしてもなぜか俺だけを的にしている気がする――またゲルを動かし腕の様に伸ばそうとしてきた。
「『ライトニング』!」
その部分に雷を落とす。雷が当たった部分が少し溶け、伸ばそうとしていたゲルを引っ込めた。
やはり雷属性の攻撃は嫌がっているようだな。
「レダさん、行けそうです、作戦通り仕掛けますね」
「頼むぞ」
「『ライトニング』」、「『ライトニング』」、「『ライトニング』」、「『ライトニング』」、「『ライトニング』」、「『ライトニング』」、「『ライトニング』!」
『ライトニング』を当てた所がドロリと溶ける、しかし急がないと再生されてしまうので俺はそこに何度も何度も魔法を当てていく、核までギリギリ武器が届きそうになるところまで何とか削り終ると同時にレダさんに叫ぶ。
「今です、レダさん!」
レダさんがクイーンスライムに向かって走り出す。そのまま刀で核を斬ろうとしたとき『ピュー、ピュー』と鳴き声が聞えた!
なっ!? まさか、これはもしかして。
「――レダさん下がって!」
レダさんがバックステップでその場所を離れた。すると今までレダさんが立っていた場所に魔方陣が浮かび上がり、そこから
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
~プロプスダンジョン内 スクロイ視点side
ディオ達が二十階層の攻略を開始したと情報を受けた俺様達は、既に攻略済みの十五階層の転移陣から二十階層のボス部屋まで急いで移動していた。
ジャヴェロットの手下達は既に二十階層の転移陣を使って先回りしている。
「ジャヴェロット、このダンジョンは三十階層まで攻略済みと言っていたな、やはり一番強かったのは三十階層のボスなのか?」
「無駄話している暇があるとは随分余裕だぜ、まあでも俺っちが一番、手こずったのは二十階層のボスのクイーンスライムだぜ、あれは中途半端な剣士や魔術師にとっては初見殺しもいいところだぜ」
「二十階層のボスだと? おい、最初の作戦を変更して、今から俺様のパーティーだけで倒さなきゃならなくなったボスじゃねーか」
「そうだぜ、予想以上にこちらの進みが遅く、その前にあちらさんが動き出してしまったから作戦を変更したんだぜ。とりあえずトラップがあるから二十階層のボス部屋の前まで案内するぜ、その後、俺っちは戻って二十階層の転移陣に先回りするぜ、上手く挟み打ちに出来るかは時間との勝負だぜ」
「ちっ、悪かったな、だか俺様が持っている、この最上位級の雷魔法を封じ込めた『雷神の玉』をぶつければそいつは一撃なんだろ?」
「旦那ぁ そのアイテムが一体幾らすると思っているんだい、クイーンスライムごときに使うなんて割りが合わないんだぜ、旦那がもっと強ければ無駄な出費しなくて済むんだけどな、しかもあんな眉唾物の短剣まで買って、まあ金を払ったのは旦那だし別にいいが、ただ一つしかない『雷神の玉』を投げて外したら旦那達は生きて出られないから気を付けるんだぜ、あっはっは」
「外したらどうなる?」
「ん? だから終わりだと言っているぜ」
「助けには来てくれないのか?」
「それは無理だぜ、ボス部屋の扉が一度閉まったら、中のボスを倒すか、倒されるかしないぜ、外からは開けられないぜ、常識だぜ」
「くっ、そうか……それで初見殺しとはどういう事なんだ?」
「旦那は『
「レアしゅ? なんだ、それは?」
「見た目は同じなのに特別な能力を持っている個体のことだぜ。例えば見た目は普通のゴブリンと変わりないのに異常に身体能力が高いとか、どうみてもタダのスライムなのに魔法攻撃してくる、そういう魔物のことだ、まあ滅多に居ないぜ」
「そんな魔物が居るのか、じゃあもしかして二十階層のクイーンスライムは?」
「ああそうだぜ、俺っちは、ある検証の為、数十回ほど戦ってみたが奴は『
俺様はゴクリと生唾を飲んだ。
「そ、それでどんな特別な能力を持って要るんだ?」
「奴はピンチになると仲間を呼ぶんだぜ、だから初撃で倒さないとどんどん増えていくんだぜ、俺っちもこの槍を持っていなかったら危なかったんだぜ」
ジャヴェロットは自分の持っている槍に頬ずりしながらニヤリと笑い更にこう続けた。
「だからここのダンジョン管理ギルドにはその事を報告しなかったんだぜ、今のところ二十階層のボスを攻略できているのは俺っちらのパーティー
――ボソリと一人の男が呟いた。
「どこで選択を間違ったんでやんすかねぇ……、前にスクロイ様の兄さんを襲った時、あっしは別に舐めていた訳ではないでやんす、それなのに剣筋が全く見えなかったでやんす、勝てる気がしないでやんす……まだ死にたくないでやんす、逃げ出したいでやんす……こうなったのはやっぱりあの時に、まっとうに生きることを選択しなかった報いでやんすかね……」
その声が聞こえた二人の男は静かに頷いた。
その声が聞こえなかった二人の男は更にスピードを上げた――。
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