第17話 合体

『ピュー、ピュー』と鳴き声が聞えた!


 なっ!? まさか、これはもしかして。


≪ピコン! 『クイーン・スライムの鳴き声』をマネました。スロットに空きがありません。入れ替えますか?≫


 俺は素早くスロット5の『メブスタ・アキンドの顔マネ』と入れ替えた。


―――――――――――――

クイーン・スライムの鳴き声』:仲間を呼ぶことができる。

―――――――――――――


「――レダさん下がって!」

 

 レダさんがバックステップでその場所を離れた。すると今までレダさんが立っていた場所に魔方陣が浮かび上がり、そこから別の・・クイーンスライムが現れた!


 現れたクイーンスライムは体の一部を手の形にして伸ばし、体制を崩しているレダさんを捕まえようとしてきた。


「『スライムの鳴き声』!」、「ピュー、ピュー」× 百


 レダさんの前に一つの魔方陣が浮かび、そこから一斉に百匹ものスライムが現れた。


「(スライムの鳴き声マネ解除)お前達! 壁になってレダさんを守れ!」


 俺の指示に従い百匹のスライム達は重なり合いレダさんの壁になった。

 そしてレダさんの代わりにクイーンスライムに捕まり取り込まれた。

 おかげでレダさんは無事だったが、取り込まれたスライム百匹はクイーンスライムの体の中でもがいている。


「少年助かった!」


 そう、俺はこのダンジョンで最初は俺一人で、その後はレダさんと一緒に『スライムの鳴き声』の研究をした。スキルレベルが上がったからなのか三つほど出来る事が増えた。

 一つは、込める魔力の量を増やすことで一つの魔方陣から一回の鳴き声で複数のスライムを召喚できる。

 一つは、召喚したい場所をある程度自由に決められる。

 一つは、召喚してから最初の数分間だけ俺の命令を聞いてくれる。その後、騙したなぁって顔をして襲ってくるけど。


 最初にレダさんに見せた時は、俺の召喚獣だから安全だと思ったらしく『キャー可愛い』といいながら大量のスライムに向かってダイブしたらえらい目に合ったのも良い思い出だ。


「まさか『稀有種レアしゅ』だったとはな、これが少年の危惧きぐしていた嘘か」


「レダさん、先に最初から居たクイーンスライムを倒さないと多分また仲間を呼びます」


「分かった、あの技で行こう、但し刃の付いていない部分で攻撃だ」


「刃の付いていない部分? なるほど分かりました」


 俺とレダさんは一匹目のクイーンスライムに駆け寄り、レダさんは横から刀ので、俺は正面から剣の横っ腹・・・で『『燕返し』』を同時に発動。

 クイーンスライムの体は斬られることなく、叩きつけた場所を中心に上下にゲルが移動し、まるで瓢箪ひょうたんの様な形になっていく。

 更にそこから二度『『燕返し』』を発動する。クイーンスライムを見ると、せり上がったゲルに口の様な部分が圧迫され鳴き声を出すことができないようだ。


「少年!」


「はい! 『円月斬リ』!!」


 俺はクイーンスライムの核を真っ二つにした。パリンと音が聞えしばらくするとクイーンスライムは溶けて消えた。

 ちなみにこの合体技は十五階層のボスのゴーレムを討伐している時、レダさんと『どれくらい早く討伐できるか』とちょっとした余興で編みだした技だ。


 もう一匹のクイーンスライムを見ると先ほど取り込んだ百匹のスライムの消化に忙しいのかゲル状の体をウニョウニョと動かしている。


「少年、そいつも『稀有種レアしゅ』だと思うか?」


「俺の経験上違うと思いますが、念のため今と同じ方法で一気に倒しましょう」


「……すまない、さっきの攻撃で『燕返し』を多用したのでまだあまり体が動かせない、暫くはさっきのような三連続攻撃は無理だ」


 俺は少し考え。


「レダさん、俺のスキルランクが足りなくてマネれなかったあの技、前に見せてくれたあの刀の先から攻撃を飛ばす技は今使えますか?」


「あれか……一度だけなら――少年! 上だ!」


 まだ作戦が決まっていないのに消化し終えたクイーンスライムが体を潰れたんじゃないかと言うくらいに縮こませ、その反動をバネの様に利用して俺の頭上高くまで飛び上がり俺を押し潰そうとしてきた。俺は地面を転がるようにして避けレダさんに向かって叫んだ。


「レダさん! 俺が『ライトニング』で核までの道を作ります! そこにアレ・・を打ち込んでください!」


「分かった!」


「『ライトニング』」、「『ライトニング』」、「『ライトニング』」、「『ライトニング』」、「『ライトニング』!」


『ライトニング』を当てた所がドロリと溶ける、俺は続けて『ライトニング』を当てていく、核までの道は出来たが溶けた所が再生し始めた。レダさんを見ると利き手で持った刀の先をクイーンスライムに向けたまま刀を引き、足を踏ん張り構えている。


「レダさん! 今です、任せました!」


「任された!『刺突放鷹しとつほうよう』はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 レダさんが刀を素早く真っすぐに突き出すとヒュンと風を突き進む音が聞えた。

 その音がクイーンスライムの核に届きそして貫く――しばらくするとピキピキと音をたて、核に亀裂が入っていき、最後にクイーンスライムは溶けて消えた。


≪ピコン! 『刺突放鷹しとつほうよう』をマネました。スロットに空きがありません。入れ替えますか?≫


 あっ?――スロット1の『スライムの鳴き声』と入れ替えて。


≪スロット1の『スライムの鳴き声』を消去し代わりに『刺突放鷹しとつほうよう』を入れました≫

―――――――――――――

刺突放鷹しとつほうよう』:切っ先から力を込めた突きを音速で放つ。

―――――――――――――


 レダさんを見ると片膝を付いて息を整えていた。


「レダさん!」


「だ、大丈夫だ、心配するな、少し休めば……。すまないが消える前にドロップアイテムを回収しておいてくれないか」


 見ると拳よりすこし大きな魔石が二つ落ちていた。それを拾い二つともレダさんに渡した。レダさんは不思議そうな顔をした俺を見た。


「実はさっき勝手にレダさんの技をマネしてしまったので――そのお詫びです」


「なんだそんな事か気にするな、どうせ後からマネさせようと思っていたんだ、それに少年が居なかったら倒せなかった」


 そう言い魔石を一つ俺に差し出した。

 

 ゴオォォォ


 ボス部屋の奥の扉が開いた。


「少し休んだから、もう大丈夫だ。さあ帰ろうか」


 俺達は奥の部屋に入り、中にある操作装置に向かおうとした。その時、下の階層に続く階段から一人の男が姿を見せた。


「いやぁ、間に合わないかと思って急いで来たんだが、結局待つことになっちまったぜ、はは、お二人さん、ちょっと話があるんだが、ここは狭いから俺っちの後について来てほしいぜ」


 その男、いやおっさんは恰好だけなら普通の軽装した冒険者に見えるが何か雰囲気が異様だ。右手にはと呼ばれる刀身とうしんの部分に、黒い布をグルグルと巻いた槍を持っている。


「誰だ、貴様は?」


「ああ自己紹介はまだだったぜ、俺っちはジャヴェロットと言うちんけな男だぜ」


「そちらは私達の事を知っているようだし、自己紹介は不要でいいかな?」


「つれないけど、別に良いぜ」


「それで、なぜ私達が得体のしれない男について行く必要があるのだ?」


「ならもっと俺っちの事を詳しく話すぜ、このダンジョンに強い冒険者パーティーが来ない秘密を知っている男だぜ」


「なに?」


「気になるだろ? 特にそっちのお嬢さんは。詳しい話が聞きたいなら俺っちについて来なよ」


 俺とレダさんはお互いに顔を見合わせ頷くと、その男の後をついて下の階層へと続く階段を進むのだった――。

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