第15話 商人
ダンジョン管理ギルドの建物の中にメブスタさんが経営する『アキンド商会』の店が出来た。そこにはメブスタさん一家や護衛の方も居たので久しぶりに会い挨拶してきた。
昨日『ものマネ』のスキルのレベルが上がりその時『スロット』が一つ増えたので、メブスタさん達が忙しくて一人暇そうにしていた娘のワサちゃんにメブスタさんの顔をマネて驚かせてあげた。
最初はビックリしていたけど俺のスキルの能力だよと教えてあげたら喜んで一緒に遊んでくれた。
しばらく遊んでいるとワサちゃん以上に驚いた顔をしたレダさんが来たのでワサちゃんにバイバイし、いつもの様にダンジョンに潜ることにした。
ただいつもと違って今日はレダさんと正式にパーティーを組んでいる。今朝ギルドに行った時レダさんから頼まれたからだ。どうやら二十階層のボスを攻略したいらしい。
ここ最近ゴーレムのコアを売って結構お金も稼いだので、俺もそろそろ下階層に行こうと思っていたので丁度良かった。
「すまないな少年、付き合わせてしまって」
「いえ、でも今日のレダさんは案内人じゃないから、料金が発生しないんで俺は嬉しいんですけど、ただ俺と二人より、レダさんの部下の方と四人パーティーを組んで攻略した方が良かったのでは?」
「ふふ、随分現金だな、いや、私の部下は少年ほど強くはないから」
「え?」
「ん? なんだ分かっていないのかい、あまりに謙遜が過ぎると逆に嫌味に見えるぞ――少年はかなり強い」
「うっ、まあレダさんからマネしたスキルも有りますし、強くはなっていると思いますが、最近レダさんと行動を共にすることが多くて、比べちゃうとあまり強くなった実感がないと言うか――すいません」
「そうか、ふふ」
俺達はいつもの様に弁当やポーションを買ってダンジョンの入り口に来た。
レダさんが先に中へ入って行き、俺もレダさんに続いて入ろうとした時――
ん? 今誰かの視線を感じたが……気のせいか――。
俺達は十五階層に転移し階段を降りた。
十六階層からはトラップが床だけではなく壁や天井にもあり、転移用のトラップもあるから余計なものには触らないようにとレダさんに注意されている。
二十階層まではまた洞窟型のエリアになっていて出てくる魔物も今までに比べると2ランクほどアップした種族になっていてかなり強い――ただ俺達の方がもっと強いけど。
俺達はトラップに気を付けながら二十階層の『セーフティエリア』に到着した。
「二十階層のボスはクイーンスライムが一匹だけだが、スライム種の中ではかなり上位のスライムだ、物理攻撃はほぼ効果なし、スライムに有効な鋭利な武器を使っても核までほとんどの武器は刃が届かない。そして弱点は雷属性だけだ」
「ああ、前にレダさんが言っていた雷属性が弱点のボスってこいつだったのか、それにしても二十階層なのにこんなに強いボスが出るんですね」
「うむ、このダンジョンを作った者が居たとしたら配置間違ったんじゃないか? と言いたくなるような事は、他のダンジョンにも結構あるのだよ」
「ダンジョンって誰かが作ったんですか?」
「いや、例えばだ、例えば」
「そういえば前から気になっていたんですが、ボスの種類とか弱点とかのダンジョン内の情報って何処から入手しているんですか?」
「ん? 勿論攻略した冒険者からだよ、情報料もきちんと支払っているぞ」
「攻略したって言うのはダンジョンカードに記録されるから分かるけど、ボスの種類とか弱点って実際他の人が確認しないと嘘か本当って分からないですよね? でも確認するには実際にボスと戦って勝たなければいけませんよね、だって勝つか死ぬかしない限りボス部屋から出られないのだから」
「うむ、確かにその通りだが……、嘘の情報を伝える意味もないだろう、後からばれた場合その者達の信用は無くなり、最悪ダンジョンカードの剥奪になるわけだから」
「だからですよ。後からばれない様にすればいいんですよ」
「どうやってだ?」
「簡単ですよ、嘘の情報を流し嘘の対策をさせてボスに返り討ちにさせるとか、それでもボスに勝てそうなパーティーはボスに挑戦させる前にどこかで始末するか、お金でも払って協力者にするとか色々策はありますよ」
「それは随分と性格がねじ曲がった考え方ではないか?」
「そうですかね? 正直俺はゴーレムのコアが高値で売れた時一人占めしたいから他の冒険者は来ないでほしいと思いました、そういう考えをする人間が俺以外に居ないとは思えませんよ」
「ふむ、ではクイーンスライムは嘘情報だと」
「いえ、そうは言っていません、真実の中に少しの嘘を混ぜることはよく商売人と詐欺師が使うやり方ですよ、例えば弱点は雷属性じゃないとか、クイーンスライムが一匹じゃなく他にもお供として魔物がいるとか、後は……」
「――ん? 商売人? 詐欺師?」
「え? あれ?……商売人?」
なんだこの思考は……? 俺は商売なんか全然詳しく無いし詐欺師でもない。商売――まさかメブスタさんの顔マネをしたから? いや今もスロットにセットしているからか! 思考が引っ張られている?
「どうした? 急に考え込んで」
「実はですね……」
…………
「なるほど……私の『顔マネ』をした時、女性みたいに悲鳴をあげたのもそのせいかな?」
「え? あっ! ははっ、それは違う気がしますが……そんな事もありましたね」
「まあそれはそうとさっきの話の続きだが、クイーンスライムの弱点は雷属性と言うのは正しいぞ。他のダンジョンでもクイーンスライムは出現するからな」
「そうですか、メブスタさんの思考に引っ張られて考えすぎたのかも」
「まあ、ここであれこれ考えても仕方がない、実際行ってみればわかるだろう」
「そうですね、ある程度は色々対策もして来ているし――行きましょう」
「待て、忘れているぞ!」
忘れているぞ? 俺は何のことか分からずレダさんを観る。ちょんちょんと指で道具袋を指す。ああ、お弁当か!
今日の俺の弁当は『トンカツ弁当』という肉の弁当。ちなみにレダさんは『サラダ弁当』という野菜しか入っていない弁当を食べていた――足りるのだろうか?
レダさんが僕の食べているトンカツを物欲しそうに見ていたので『食べますか?』と聞くと、すごい勢いで首を横に振った……。
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