第13話 不味

 中に入ると白い霧が立ち込めっており、それが晴れると巨大な土の塊、いやゴーレムが視覚に入った。と同時に俺達が入って来た扉がゴォォォと音を立てて閉じた。


 実際に見ると2m以上はありそうな大きさだな。ゴーレムは両拳を握り、拳をぶつけあってガンガンッと威嚇する様に音を響き渡らせている。やる気満々の様だ。


 ランクの低い魔法は効かないがゴーレム自体も魔法は使わなかったはずだ――それなら。


 俺はゴーレムの周りをぐるぐると走り回り、様子を見ながら少しずつ距離を詰めて行ったりフェイントをかけてみたりした。時折ブンブンと腕を振り回し攻撃してきたが、うん、反応はそれほど早くないな、それにスピードも遅そうだ。これならいけるか。


「『ライトニング』!」


 流石にダメージは無いようだが一瞬だけゴーレムの反応が遅れた。今だ!

 俺は正面から一気に距離を詰め、剣を抜いた。それに気づいたゴーレムは両腕を伸ばして俺を捕まえようとしてきた。


「『円月斬リ』!」


 捕まるより先にゴーレムの両腕を斬り落とす、よし、剣が通る! 更に。


「二連斬り!」


 ガラ空きになったゴーレムのコアがありそうな心臓辺りを剣で一度だけ・・・・斬りつけた。


 しかしどうやら浅かったようだ。それよりも俺は『二連斬り』は入れ替えた為、すでにスロットから消した事をすっかり失念していた。


 ズズズズズズズゥ


 余計な事を考えていた為、折角切り落としたゴーレムの両腕が再生し、土でできた巨大な拳を握りしめ、俺を殴りつけようと接近していた。


「少年!」


 レダさんの声にハッとし、素早く剣で防御したが俺はそのままぶっ飛ばされ壁に叩きつけられた。


「ぐはっ――くそっ、痛っ、ペッ」

 

「大丈夫か? 無理なら手伝うが」


 口の中に鉄の味が広がる。俺は腰にぶら下げている道具袋の中からポーション取り出し、一気に飲み干した。


「ぐぼっ、まずっ――大丈夫です、心配かけてすいません」


 初めてポーションを飲んだが不味いな、いやそんな事よりも情けないところを見せてしまった。しかし思った以上に再生スピードが速い。よし、もう一度だ。俺がレダさんならどんな作戦で行く? 考えるんだ――俺はまた距離を取りゴーレムの周りをぐるぐると走り回る。


 先程と同じように『ライトニング』で一瞬怯ませ、俺を捕まえようと伸ばしてきた両腕を『円月斬リ』で斬り落とす。あれ? もしかしてこいつ学習能力は無いのか? ん? いや違う、斬り落としきれていない! 両腕とも手首から上は無くなっているがゴーレムは先ほどとは違い両腕をクロスして防御をしていた。


「ちっ『燕返し』!」


 残った両腕部分を斬り落とし、更に背後に回って心臓辺りを先ほどより深く斬りつける。くっ? コアが見えない。場所はココ・・じゃないのか。ならばもう一度。


「『燕返し』!」


 そのまま背中から腹の辺りを斬りつける。中から何か光るものが見えた。コアか? そのまま正面に回ってコアらしき物が見えた腹の部分に深く剣を突き刺す。


 ゴーレムの動きがピタリと止まり、砂が流れるようにザザァァァァと崩れて行き――消えてなくなった。そこには破壊したコアが、いや新品のコアがあった。あれ? これはもしかして? そう初の魔石以外の『ドロップアイテム』だ。


「ふむ、流石だ、少年、一瞬ヒヤリとしたが終わってみれば圧勝ではないか」


「いえ、ギリギリですよ、運よくコアの場所を見つけられたから」

 

 ゴオォォォ


 ボス部屋の奥の扉が開いた。コアを拾い奥の小部屋へと進んだ。

 中にある操作装置にダンジョンカードを置くとピカリとカードが光る。

 記録完了っと。


「今回も予定より随分早いが地上に戻ろうか」


「はい、流石に今回は疲れました」


「よし、でも最後まで気を抜かないようにするのだぞ、ここではダンジョンを出るまでが冒険だぞ」


 足元の転移陣が青く光り出し俺達の身体も青白く光り出した。ダンジョンの外に出るとまだ太陽の位置が高い。――そうだ! せっかく買ったお弁当を食べるのを忘れていた。ちなみに今日は『チキン南蛮弁当』というものにした。


 ギルドに戻りゴーレムのコアを買取してもらったところ、今はかなり需要があるらしく結構いい値段で売れたので、その後も一五階層ボスのゴーレムの討伐を繰り返すことにした。何故かレダさんと一緒に……。


▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


~プロプスダンジョン管理ギルド前 スクロイ視点side


「やっと着いたか、くそ面倒くさい場所にありやがるな」


 俺様は今三人の使えない部下と『プロプスダンジョン管理ギルド』の前に居る。

 闇ギルドで雇った奴ら四人は近くの森の中の小屋にいる。


「よしいくぞ! 打ち合わせ通りお前達は余計な事は言うなよ。分ったな!」


「「「……へいっ」」」


 重い扉を開け中に入り窓口へ向かう。


「いらっしゃいませ、本日はどのような――あれ? ディオ様?」


「いえ、俺様――僕はディオ兄さんの双子の弟でスクロイと言います」


 後ろで部下共が息を殺して笑いをこらえているのが伝わって来た――後で殺す。


「あっ失礼いたしました。ディオ様にお顔は似ていらっしゃるのに、雰囲気が全然違ったので少し驚いてしまいました」


「実は兄さんを探していまして、知り合いからここで見たと聴いてやって来たのですが」


「ええ、はい、朝にギルドに顔を出されたので、ディオ様は本日もダンジョンに潜っていらっしゃるはずです」


「ああよかった、それで今何層くらいまで進んでいるのでしょうか?」


「申し訳ありませんが個人情報に当たりますのでご家族の方でも私からお教えすることは出来ません。ご本人に直接お聞きください」


「えっ?」

 

 くそっ、なんだよ、融通が利かねぇな、流石に無理やり聞き出す訳にもいかねぇし、どうする?


「実はですね、僕は小さい頃から病気がちで、最近までずっと部屋で床にせっていたのですが、最近良い薬が手に入ってそれを飲んだところ病気もすっかり良くなって、兄さんにそのことを伝えに来たんです」


「まあ、それは、ディオ様もきっと喜ぶと思いますよ」


「はい、それでただ伝えるだけなのも味気ないので、ダンジョンの中で兄さんより先回りして驚かせてあげようと思って――」


「……」

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