第12話 真似

~『プロプスダンジョン』十三階層。


 おかしいな? 案内人は基本戦闘に参加しない決まりなのに、レダさんは俺と同じくらい、いや先頭にいるから俺以上のペースで現れる敵をどんどん倒して進んでいる。しかも魔物を倒す度に何かどんどんレダさんが元気になっていく気がする。 それにしてもドロップアイテムを無視して、勿体ない。拾える分だけ拾っとこう。


「あのー、レダさん。確か十一階層からトラップが仕掛けられている可能性があるんですよね? 今のところ一度も見ていないんですが」


「ん? だからさっきから言っているだろう、私の足跡と同じ道を踏んで進んで来いと」


「え? トラップって足元さえ気を付けていれば大丈夫なんですか?」


「その通り、十五階層までのトラップは全部、床に設置しているタイプだけだ、しかも即死タイプのトラップも無いから、もし発動しても当たり所だけ気を付けていれば、まあなんとかなるだろう」


 そう言いレダさんはさらにスピードを上げると、あっという間に十五階層にある『セーフティエリア』に到着した。


「さあ、見せてくれ、さぁ」


 何か分からないけど、レダさんがすごく興奮している。


「ちょっと落ち着いてください、とりあえず『空きのスロット』がないんですよ、えーと、ですね『スロット』と言うのは俺のスキルの一部でそこにマネした技を保存しておくのですが、『顔マネ』をする為には一度どれかを消さないといけなくて、でも一度消してしまうとですね、えーと」


「――なるほど、わかった」


 レダさんは説明の途中に割り込んできた。


「後で私がまた技を披露しよう。それでどうだ?」


「いいのですか?」


「勿論だ」


「分かりました、――ではいきます」

 

 俺はレダさんの顔をじっと見つめて、マネしたいと念じた。


≪ピコン! 『レーダー・スパルタの顔』をマネました。スロットに空きがありません。入れ替えますか?≫


 「え?」――ああ、とりあえずはスロット3の『二連斬り』と入れ替えてくれ。


≪スロット3の『二連斬り』を消去し代わりに『レーダー・スパルタの顔』を入れました≫


―――――――――――――

『レーダー・スパルタの顔』: 顔がレーダー・スパルタになる。

―――――――――――――


「『レーダー・スパルタの顔』!」


「なっ!?」


 レダさんが自分のフルネームを言われて驚いている。そしてさらに俺の変わった顔を見て驚いていた。


「どうです? ちゃんとレダさんの顔になっていますか?」


「ああ、いつも朝に鏡で見ている顔だ」


 そしてレダさんは手を伸ばし――俺の胸を揉んだ。


「きゃぁ!?」

 

 思わず女性みたいな変な声をあげてしまう俺。


「な、なんだこれは? ペッタンコではないか? 少年には私がこんな風に見えていた・・・・・のかい?」


「え? いえ、だから最初に言ったじゃないですか! 顔だけだって」


「そ、そうだったか? ごほんっ、それはそうとなぜ私のフルネームが分ったのだ? それも『ものマネ』スキルの能力か?」


 なんか誤魔化すように話を変えてきたな。


「すいません、そうみたいです」


「いやまあ、私も隠していた訳じゃないから別にいいのだが、偽名を使っている犯罪者などの対抗策として便利な能力だな」


「はは、そうですね、俺もそれ思いました」


「そういえば、声もマネられるのだったな?」


「はい、マネしましょうか?」


「いやいい、あまり自分の声は好きではないのだ、うむ、ありがとう中々面白かったぞ、では約束通り私の技を披露しよう、レベルが上がったと言っていたから今のレベルは7かな? だとすればおすすめは『燕返し』だな」


「『燕返し』ですか?」


「うむ、正面から敵を斬りつけたあと、更に背後に回って斬りつける技だ」


「すごそうですね、ぜひそれでお願いします」


「では、部屋を出て通路にいる魔物に技を仕掛けるからマネてくれ」


 俺達は通路にでた。丁度前方から二体の魔物、シールドオークとオークソルジャーが向かって来ていた。シールドオークは大きな盾を持っていてオークソルジャーは大きな剣を持っている。俺達より二回りほどでかく両方とも顔が豚の魔物だ。


「すまないが、オークソルジャーの方を頼む」


「分かりました、『レーダー・スパルタの顔』マネ解除」


 俺達の声に気が付いた二体はドタドタドタとこちらに向かって走って来た。


「『ライトニング』!」


 俺はオークソルジャーの頭上から雷を落とした。黒こげになり地面に倒れピクピクしている。おっ? まだ生きているようだな。念のためもう一発。


「『ライトニング』!」


 オークソルジャーは消え、コロンと魔石が現れた。


「次は私の番だな、ちゃんと見ているのだぞ。『燕返し』!」


 レダさんが刀を振るがシールドオークはそれを盾で防いだ。が、その次の瞬間、

背後に回ったレダさんに胸の辺りから真っ二つにされ上半身が斜めに崩れ落ちた。


≪ピコン! 『燕返し』をマネました。スロットに空きがありません。入れ替えますか?≫


 スロット3の『レーダー・スパルタの顔』と入れ替えてくれ。


≪スロット3の『レーダー・スパルタの顔』を消去し代わりに『燕返し』を入れました≫


―――――――――――――

燕返つばめがえし』: 正面から敵を斬りつけ、更に瞬時に敵の背後に回り斬りつける。

―――――――――――――


「どうだ、ちゃんとマネられたか?」


「はい、早すぎて一瞬見失うところでしたが、無事マネれました」


 俺は地面に落ちている二つの魔石を拾った。


「よし、ではこのままボス討伐に行こうか、ボスはゴーレム。いわゆる泥人形で、数は一体だ」


「ゴーレムって確か土や石とかで作られた、自動で動く巨大な人形ですよね?」


「そうだが、大きさはピンキリだ。5cmほどのゴーレムも居れば、10m以上もあるゴーレムも居る。要はゴーレムを創った者の技量や裁量、魔力量によりけりだ。それでここのボスのゴーレムは2mくらいだな」


「2mか、それならいけそうです」


「ふむ、しかしゴーレム全般に言えるが、ランクの低い攻撃魔法は効かないぞ」


 基本物理攻撃のみで戦えって事か。――たしかゴーレムはどこかにコアと呼ばれる人間で言う心臓みたいな物があってそれを破壊しない限りは再生するって聞いたことがある。レダさんはこのボスを倒しているはずだし、攻略方法を教えてもらうか? いやだめだ、そもそもレダさんはただの案内人なのに俺は甘えすぎている。


「さて、この扉の向こうにボスがいる。準備は良いかい?」


 考えているうちにボス部屋の前に到着したようだ。自分を信じるんだ――すぅぅ、ふぅぅ、俺は一度深呼吸し、ボス部屋の冷たい扉を開けた。


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