第8話 騎士
俺は朝早くから乗合馬車に乗り『プロプスダンジョン』へと向かった。
ダンジョンの入り口付近は街や村になっている訳ではなく、頑丈そうな大きな建物が一軒建っているだけだった。ダンジョン管理ギルドの建物だ。
建物の中には窓口のほかに食堂や道具屋、そして関係者や警備の兵士が寝泊まりする部屋が備わっているが一般客が泊まれる宿屋は無い。
宿屋があればわざわざ早起きして乗合馬車に乗って来なくてもいいのだが、無い理由は
スタンピードとは通常ダンジョンから外に出て来る事はあり得ない魔物達が、稀に何かの原因で一斉にしかも大量に外にあふれ出す
長年存在しているダンジョンならまだ魔物のレベルや数、スタンピードの前兆などがある程度わかり対策も打てるが、ここは最近できたばかりのダンジョンなので開拓が進むのはもう少しダンジョン攻略をして様子を見てからになると言う。
その為ダンジョンの入り口付近には村や宿屋などは作らず、なるべく非戦闘職の人を置かない様にしている――と前に冒険者ギルドの窓口のお姉さんから聞いた。
重い扉を開け中に入り窓口へ向かう。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」
何となく冒険者ギルドの窓口のお姉さん達より硬そうな印象を受けた。
「ここのダンジョンに潜りたいのですが、あっ初めてです」
「それでは身分を証明できるものか、冒険者カードの提出をお願いいたします」
俺は冒険者カードを差し出した。
―――――――――――――
ディオ (男、15歳)
種族:人間族
冒険者ランク:D
ジョブ:ものマネ士
スキル:ものマネ
―――――――――――――
「冒険者ランクDのディオ様ですね、確認できました、ダンジョンは初めてという事ですが、ご説明は必要でしょうか?」
「お願いします」
「ではご説明させていただきます」
ダンジョンの中は専用の規則が存在するとの事で、お姉さんから聴いた内容を簡単に要約すると。
一つ、ダンジョンに入場料が掛かる。ダンジョンのランクにより異なる。
一つ、ダンジョンは基本的に洞窟(地下迷宮)型になっている。稀に塔や城型のダンジョンも存在する。
一つ、ダンジョンの中は階層ごとに色々な空間になっている。洞窟、回廊、森、草原、砂漠、海など様々ある。
一つ、ダンジョンの壁、床、天井を破壊することは出来ない。
一つ、ダンジョンの中は地上と同じように空気が循環しており酸欠状態に陥る事はない。
一つ、魔物を倒ししばらくすると『ドロップアイテム』と呼ばれる、倒した魔物が持っている固有のアイテム数種類のうちの、一つを残し死骸は
一つ、冒険者が死んだ場合、死体は数日中にダンジョンに取り込まれる。
但しダンジョンカードは取り込まれない素材で作られている。
一つ、ダンジョンの中には『魔物部屋』と呼ばれる大量の魔物が密集している部屋があるので気を付けること。ただしそれらの魔物は良い宝箱を守っている場合が多い。
一つ、ダンジョンの階層の移動は基本的には階段となっている。
一つ、ダンジョンの中には『セーフティエリア』と呼ばれる魔物が寄り付かない不思議な場所が存在するので、そこを有意義に利用するべし。
一つ、ダンジョンには基本的に五階層ごとにボスが居り、ボスを倒すと奥の小部屋に続く扉が開き、そこには次層へ続く階段とダンジョンカードに攻略状況を記録できる装置があるので忘れずに記録する事。また『転移陣』と呼ばれる時空を曲げて瞬時に移動する魔方陣が描かれており、それを使って入り口にある『転移陣』へ移動できる。
逆に入り口にある『転移陣』からダンジョンカードに記録されている攻略済みの階層の『転移陣』へ移動して、そこから攻略を開始できる。
一つ、ダンジョン内で入手したアイテムなどの総額から一割をダンジョン管理ギルドに納めなければならない、また新しく攻略した階層やボスは報告しなければならない。
一つ、ダンジョン最下層にある『
他にも色々細かい規約はあるが大体こんな感じになる。ただ国によっては微妙に違うらしい。
それとパーティー登録は冒険者ギルドと同じく
ダンジョンの規則もそうだけど、パーティーの方も抜け穴は色々ありそうだな。
説明を聞き終わりダンジョンに向かおうとすると、受付のお姉さんに一人では無理だと言われる。冒険者ランクは『D』なので問題ないのでは? と聞くと、それでも初めてのダンジョンでしかもソロなら危険だと注意された。
様子を見るだけなので、そんなに深い階層までは行かないから大丈夫と答えるも、ならせめて案内役を雇って下さいと言われた。
この建物の中には案内人や荷物持ちを斡旋してくれる窓口があり、案内人や荷物持ちにはそれぞれ冒険者ギルドと同じように『F』~『S』までのランクが有り、行ける階層や荷物量、料金が違う。
荷物持ちはある程度の実力と実績のあるパーティーにしか紹介は出来ないし予約制になるが、案内人の場合は予定が空いていればすぐに紹介できるとの事。
余談だが昔は『マッパー』と呼ばれるダンジョンの内部を自分の足で歩き回り、羊皮紙に地図を描き、それを販売する職業もあったのだが、命がけで書いた地図をもう不要になった冒険者達が安く転売したり、複写して販売したりするので『マッパー』達は割りが合わなくなり、今では『マッパー』を生業にしている人は、ほぼ居なくなってしまったと窓口のお姉さんが愚痴っていた。
俺は少し悩みとりあえず今日は五階層のボスを倒すとこまでの攻略をしようと思い、そこまで案内出来る人を一名お願いした。
「その条件で今ご紹介できる方は、Fランクの女性だけですがよろしいですか?」
「女性ですか?」
「はい、通常ですと男性のみのパーティーの場合は女性の案内人や荷物持ちはご紹介しないのですがディオ様はソロで……その、冒険者ランクもDですので……」
「冒険者ランクが何か関係あるのですか?」
「えぇと……少々言いづらいのですか、ご紹介する女性のほうがお強いかと」
話を聞くと一番低いFランクの案内人だからと言って戦えないわけではなく、最低でもソロで五階層のボスを倒せる実力を持っているという。
だがいくら強くても案内人は文字通り案内する人なので基本的には戦闘には加わらない。この人達はそもそも訓練の一環として国から命令され、派遣されている見習い騎士達で、まあ上級階級の貴族のご子息は含まれていないようだが、ほとんどが戦闘系のジョブやスキルを持っていて、案内人の仕事が無い場合は、この周辺の警備やダンジョンに異変が無いかのなどの調査をしているらしい。
ただし『プロプスダンジョン』は最近できたばかりのダンジョンの為、派遣されている見習い騎士の数はまだまだ少ないとの事。
見習い騎士か……見習いでも騎士なら、『宮廷剣術』や『王宮剣術』スキルを持って居る可能性もあるな、まあ最低でも剣術系は持って居るだろうし、新しいスキルをマネるチャンスがあるかもしれない――。
「ではその方でお願いします」
「かしこまりました、今から連絡を取りますので向うで座ってお待ちください」
…………
しばらく待っていると俺より少し年上だろうか、露出が少し多めの装備をし、金髪の長い髪を後ろで束ね、俺と同じくらいの身長の美しい女性が現れた。
「初めまして、私の名前はレダだ。宜しく頼む」
「ディオです。Dランク冒険者でダンジョンは初めてなので宜しくお願いします」
「ふむ、実は本来ここへ来る予定だった案内人、まあ私の部下なのだが、ダンジョンの調査中に怪我をしてな、それで代わりに私が来たのだが構わないかな?」
「あっはい、でも部下って事は、レダさんは見習い騎士ではないって事ですか?」
「ディオ様、実はレダ様は『上級騎士』様でここの騎士様達をまとめていらっしゃるお方なのですが、人手が足りない時などは
「趣味ですか……、それでも俺の方は助かりますがいいのですか?」
騎士でしかも仕事中なのにその露出度の高い装備も趣味なのか? と一瞬聞こうと思ったが俺の第六感が辞めておけと警鐘を鳴らした。
「勿論だ、ではまず今回の契約内容の確認だが、目標は五階層のボス。期間は本日の夕刻までで良いのかな?」
「はい」
「後は――説明されたかもしれないが案内人は自分の身は自分で守れるだけの戦闘能力はあるが、基本戦闘には加わらない。勿論危なくなった場合は助けるがその場合はその時点でダンジョンから帰還してもらうし違約金も発生する。いいかな?」
「わかりました――ちなみにレダさんは何階層まで潜ったことがあるんですか?」
「私か、私はソロで二十階層だな。ただそこのボスを攻略したのがまだ一つのパーティーしかいなくてな、他のパーティーが攻略するまで私もボス討伐を保留しているところだ」
「ソロで……すごいですね、この『プロプスダンジョン』で一番進んでいるパーティーは何階層まで攻略されているのですか?」
まあソロでどれくらい攻略できるのが普通なのかは、よく分からないけど……。
「三ヶ月経ったがまだ三十階層のボスは攻略出来ていないはずだ。理由はただ単に上級ランクのパーティーがこの『プロプスダンジョン』の攻略をしに来ないから。ちゃんと情報は流しているから、ここの事は知れ渡っているはずなんだがな」
あまりうま味が無いダンジョンなのかな? まあ俺は初めてなのでうま味とかは二の次だし、まずは打倒五階層のボスだな。
俺はまず食堂でお弁当が売っていたので購入し、次に道具屋に行き五階層までなら毒系の魔物は居ないとレダさんが教えてくれたのでポーションのみを購入。
道具屋の品ぞろえは少なかったが、そのうちメブスタさんの『アキンド商会』もここに入るのだろうか?
そして俺達はダンジョンに入った。
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