第9話 弁当

 この『プロプスダンジョン』はよくある洞窟(地下迷宮)型のダンジョンだ。

 ダンジョンに入るとすぐ右側に大きな部屋があった。

 その部屋の中央に石の様な素材でできた、俺の胸辺りまである細長い台座があった。何かの装置だろうか? そしてその装置を中心にして床に大きな魔方陣が描かれていた。


 レダさんにこれが何か聞いてみたところ、攻略済みの階層に行き来できる操作装置と転移用の魔方陣、通称『転移陣』とのことだった。


「今は関係ないが今日予定通りボスを倒し終えたら、帰りはその転移陣から現れる事になるはずだ、楽しみにしておくといい」


 俺が先頭を歩き、その少し後ろからレダさんが『次は右だ』、『その次は左だ』と指示飛ばす。しばらく歩くと前方に敵が現れた。ゴブリンが二体いる。ゴブリン達は俺達に気付くと手に持った棍棒を振り上げ変な奇声を上げ、同時に襲い掛かって来た。


 ギャギャ


「『二連斬り』!」


 俺は棍棒ごと二体のゴブリンを斬り倒した。後ろにいたレダさんが少し驚いたような声を上げ、何かを言おうとした素振りを見せたが口を噤んだ。


 しばらくするとゴブリン達の死体と、武器に使っていた棍棒が消え、その場所に光る小さな石が現れた。俺は手に取ってみた、たぶん魔石だ。


「これは魔石ですよね? 魔道具に使われているのは見た事があるんですが、こうやって現れる瞬間は初めて見ました」


「その通り魔石だ。『ドロップアイテム』は二つとも魔石だったようだな」


「魔石は良いほうなんですか?」


「そうだな、この階層に居るゴブリンの固有ドロップアイテムは小さな『魔石』か『ゴブリンの棍棒』だ。でも棍棒など要らんだろ? まあどの魔物も大きさの違いはあるが大抵は魔石を落とす」


 その後もゴブリンが数体現れた。全て倒したが、全部魔石だった。


「倒しても、倒してもゴブリンって出て来ますね、どこから来ているんですか?」


「ダンジョンには魔物が減ると時間とともに魔物を生み出して、補充する場所がいくつかあるのだが、ただ一定以上の数の魔物は生み出さないので、基本的にその階層が魔物であふれることは無い」


「基本的に、ですか?……スタンピードですね」


「ああそうだ、スタンピードは例外だ。まあ発生する原因は色々あるようだがな」


 階段を見つけ二階層に進んだ。ここも洞窟型のエリアだった。

 レダさん曰く、出てくる魔物は一階層と同じでゴブリンのみとの事なのでサクッと倒して進んだ。


 更に階段を降りた。三、四階層に出てくる魔物は盾と剣を装備したゴブリンナイト、両手剣を装備したゴブリンソードだという。


 ギャギャ


「『パリイ』!」、「『二連斬り』!」 


 ゴブリンより少し強い程度だった。何度目かの戦いで、ゴブリンナイトとゴブリンソードも剣術スキルを使ってきた事があった。しかしランクの低い技だったので特に覚える必要もなく先に進んだ。

 ちなみにドロップアイテムはゴブリンのよリも、少しだけ大きい魔石だった。


 五階層に着いた。ここも洞窟型のエリアになっていて、出てくる魔物はゴブリンウィザード。杖を装備していて魔法を使ってくるゴブリンだ。


「この階層のゴブリンウィザードは『火炎魔法』を使ってくる、気を付けてくれ」


 ギャギャ


 早速ゴブリンウィザードが二体現れた。二体ともギギャギギャと何か呪文のようなものを唱えだした。杖の先が光り出し、それを俺に向けて飛ばした。


 ボォォォォ、ボォォォォ


 火の玉が二つ俺に向かって飛んできた。


≪ピコン! 『ファイヤーボール』をマネました≫


 よし、スロット4に『ファイヤーボール』を入れて。


「『ファイヤーボール』!」、「『ファイヤーボール』!」



 俺は飛んできた火の玉二つを『ファイヤーボール』で相殺した。

 ただゴブリンウィザードが放った火の玉より俺が放った火の玉の方が明らかに大きい。これは魔力量の違いなのだろうか。


 ゴブリンウィザードが再度呪文のようなものを唱えだしたので、その前に俺が『ファイヤーボール』を数発撃ちこむ、詠唱が不要な俺の方が早く魔法を撃てるのだ。


 魔法が当たったゴブリンウィザード達はプスプスと黒い煙を出しながら消え、コロンッと二つの魔石が地面に落ちる。


 「うーん、また魔石ですね、ははは」


 反応が無いのでレダさんの方をみると驚いた顔をしている、そして一瞬戸惑った様子を見せたが口を開いてこう言いだした。


「少年は魔法も使えたのか、てっきり剣士系のジョブだと思っていたのだが――ああそうか魔法剣士か。結構レアなジョブだから考えつかなかった、初めて見たぞ」


「えっ? えぇと……」


 どうする? 正直に話した方がいいのかな? 悪い人じゃなさそうだし、それにスキルを覚える協力をしてくれるかもしれない……。


「ああ、すまない、他人のジョブやスキルの詮索するのはマナー違反だよな、忘れてくれ」


「いえ、お話しします、ただ少し長くなりそうなので」


「いいのかい? ふむ、わかった。もう少し進んだ所に『セーフティエリア』がある、そこで休憩しつつ話を聞かせてくれ」


 その途中でもゴブリンウィザードが出たので倒して魔石を貰っておいた。しばらく歩くと青白く輝いている部屋があったのでそこに入った。


「ここが『セーフティエリア』だ、適当に座ろう。予定していたよりあっさり五階層に着いてしまって弁当も不要だったが、せっかく買ったのだし食べてしまおう」


「そうですね」


…………


 『唐揚げ弁当』という名前のお弁当を食べた。初めて食べたがすごくうまかった。弁当を食べ終わり一息ついたところでレダさんが話を切り出した。


「さてと、それで少年のジョブは結局なんなのだい?」


「俺のジョブは『ものマネ士』です、そしてスキルは『ものマネ』です」


「ものまね? 聞いたことのないジョブとスキルだな。でも名前からして――もしかしてさっきの『ファイヤーボール』は?」


「はい、『ものマネ』スキルを使ってマネました、剣術スキルもそうです」


「ふーむ、それは私のスキル、『東洋剣術』をマネできるという事かな?」


「『東洋剣術』ですか? 聞いたことが無いスキルですね、ジョブが『上級騎士』だと言っていたのでスキルはてっきり『王宮剣術』か『宮廷剣術』だと思っていました」


「いや、私の師匠が東にある小さな島国の出身でな、そこの剣術だ」


「なるほど、レベル6までの技なら多分出来ると思います」


 そう、俺の『ものマネ』スキルは冒険者ランクを上げる為『プロプス』で依頼をこなしているうちにレベル6になっていたのだ――。

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