第43話 ゴーレム

アレイの言っていた魔物の所へ行くのに、一秒もかからなかった。

アイツの魔法で、一瞬でそこに移動したから。


移動込みでアタシがやっても良かったんだけど、せっかくなら自分の力(体力こみ)が万全な状態で挑みたいし、ここは素直に連れてってもらった。


「――で。これがその、ねぇ」


大災害ではないがある程度強いという話のその魔物は、実際強そうな見た目をしていた。

その正体は、ゴーレム、と呼ばれるタイプの魔物。

基本は石でできた動く像だが、強い奴になると特殊な鉱石でできていたりする。

その癖動きが素早くて、Cランク冒険者以上でなければ戦わずに逃げるのが一番だと言われるような魔物。


なるほどね。確かにアタシの相手に相応しいじゃない。

速度、破壊力。どっちもアタシの得意分野よ!


「さぁ、見てなさい!アタシの!!」


※―――


言葉と同時に彼女が握ったのは一振りの剣。

刀に酷似した見た目の、バスタードソードに近い性能を有しているソレが、突然二人の人間が現れたことに驚き動けずにいるゴーレムを容赦なく襲う。


並の魔物なら致命傷になってしまうような一撃を、ゴーレムは回避も防御も出来ずに受けた。


…しかし。


「ッ〜〜!?か、硬すぎでしょコイツ!!」


刃は通らず、ゴーレムには傷一つつかなかった。

寧ろ思い切り叩きつけた分返って来た衝撃が、シェラの両手を襲う。

ビリビリとしびれるような感覚に苦々し気な表情を見せる彼女に、ゴーレムの拳が、空を裂く音と共に襲い来る。


素早くその場を離れ攻撃を回避するも、地面にそれなりに大きなクレーターを作ったその拳には流石に冷や汗を流した。


「…ま、流石にスキルも何もなしの攻撃じゃダメよね。なら次は――」


シェラの言葉を遮るように、ゴーレムはタックルを繰り出す。

まるで砲撃のような一撃が、彼女を狙う。


「無駄よ」


しかし、当たらない。

暖簾を力いっぱい殴りつけたかのように、するりと攻撃が躱される。


これこそシェラの戦い方。

華麗に躱し、苛烈に攻める。


例えるなら水だ。

攻撃を流れる水のように受け流し、滝のように激しく攻める。


「『竜人流爪剣術ブレード・オブ・クロー』!!」


攻撃直後の隙を狙い、シェラの刃がゴーレムに再び振るわれる。

先程とは違い、スキルとして繰り出した攻撃。

さながら竜の爪による一撃のようなソレは、頑強なゴーレムの体に傷をつけて見せた。


「まだまだ行くわよ!」


一撃、また一撃とそのを振るう速度を上げていく。

もはやその姿は竜巻のようだ。

ガギギギギギッ!!という音と共に、ゴーレムの体からどんどんと破片が飛び散っていく。


――しかし。


「きゃあっ!?――に、二体目!?」


一方的に攻撃を続けていたシェラの脇腹を、突然現れた二体目のゴーレムが殴りつけた。

偶然剣がぶつかり致命的な一撃とはならなかったものの、それなりのダメージは受けてしまった様子。

元々攻撃を受け止めるようなタイプでもないから当然だ。

寧ろ、良く立っていられると言えるだろう。


「…流石に二体となると厳し……え、三体目?四、五…いやいや増えすぎじゃないの!?」


脇腹を庇いながらも剣を構えた彼女の視界に、木々の奥から追加のゴーレムが顔を出す。

その数、七体。

合計九体となったゴーレムが、その巨体を木漏れ日に輝かせながら佇む。


流石のシェラもこの状況は想定外な上対処しきれないらしく、縋るような目をアレイスターへ向ける。

少し数を減らして、という願いを込めての視線だ。


無論自称冊子の良いできる男であるアレイスターがその意図に気づかないはずがない。

彼女の呟きを加味し、取り合えず新品二体にしようかと手首の関節をパキパキと鳴らす。

そして。


――次の瞬間には、七体のゴーレムは全て砕け散った。


「は、はぁっ!?瞬きすらしてないのに!?」

「おっ、いいぞその俺の強さに驚く感じ!普段からそういうの欲しいな俺は!」


驚きに目を見開くシェラに、能天気な発言をするアレイスター。

だがそのコンマ数秒にも満たない期間に行われた殺戮は、あまりに人間離れした所業であった。


ゴーレム。

最も低級の物ですら、その硬さ故に長期戦を覚悟せねばならないと言われている魔物。

その中でも一際硬いとされているゴールドゴーレムが、今現在シェラとアレイスターが対峙しているゴーレムだった。


そう、一際硬い。

だというのに、この結果。

ハルバチェンジャー武器すら使わず、ただの拳だけで。


因みにゴールドという名称ではあるものの、実際は金は関係なく、超合金という方が正しい。

結局硬いことに変わりはないが。


「ほら、新品二体にしておいたから、続きやっていいぞ。――気づいてるとは思うけど、回復もしておいたから。万全な状態でリスタートって事で」

「え、えぇー……」


何とも言えない表情をする他無かった。

サムズアップして見せる自分の旦那は、ゴーレム二体の攻撃を見ずに回避し続けるという、自分でも流石に不可能な芸当を平然としている最中なのだ。

自分だって強いんだぞという所を見せるという目的のはずが、なんだかやる気もそがれるという物。


そんな脱力しきっている彼女に「もしかして飽きたのかな」とちょっと的外れな考えに至ったアレイスターは、当たることのない攻撃を延々と続けるゴーレムの両腕と両足を破壊し動けなくして、一言。


「ゴーレムが嫌なら、違う奴でも探すか」


違う。全然違う。

以心伝心がまだまだ未熟な証拠であった。


※―――


シェラの戦闘に水を差すような真似をしてくれた七体のゴーレムをして以来、なんでかシェラの機嫌が悪い。

今でもゲシゲシと俺の足を蹴り続けてくる。

ただ尻尾は俺の腕に巻き付けて甘えてきているので、デレの強いツンデレにしか思えない。

大方怒ってはいるけど嫌いになったわけではないと言外に伝えているのだろう。


…だからと言って、不機嫌そうな顔をさせっぱなしにもいくまい。

何か機嫌がよくなりそうなものはないか。

というかなぜ今機嫌がすこぶる悪いのか。


「……もしかして、俺がゴーレムを倒したのが悪かったのか…!?」

「今更?」


頬を膨らませ、蹴りを少し強くしてくる。

ぐぅ、これが答えか。全然気づかなかった。


確かにそうだ。

シェラは元々俺に「自分も強いんだ」という所を見せようと同行してきていた。

そこで丁度いい相手としてゴーレムを選び、しっかりと善戦していた時に追加ゴーレムが乱入。

数が多すぎるから減らそうと俺が拳を振るった結果、シェラと俺との力の差が余計に浮き彫りになってしまったというオチになってしまったんだ。


俺に数を減らすようにとアイコンタクトで頼んできたのは確かにシェラだが、それでももう少し配慮した戦い方とかあったと思うな我ながら。

かといってここら辺に丁度いい相手なんていないような――あっ。


「そうだよ。相手がいないならいいんだ」

「……え、何?今度は何するつもりなの?」


蹴りをやめ、なんかちょっと怯えた様子で尋ねてくる。

別にそんなぶっ飛んだことはしないけども。

ただちょっと、この世界に存在しないゴーレムを手作りするだけで。


「アダマンタイト、ミスリル、ヒヒイロカネ…後なんかそれっぽい硬そうなのを適当に――」

「なんか不穏な単語が聞えてくるんだけど!?本当に何してるの!?」

「だからゴーレムを作ってるだけだって」

「作る!?」


アイテムボックスから素材を取り出し、『合成』を発動。

一つの塊に加工された素材たちを、今度は『造形変化』でそれっぽい形に変える。

その後『エンチャント』で魔力を吸収し強くなるという効果や砕かれるたびに速度が上がるという効果などなどを付与し、『贈魂の儀ドネーション・ソウル』で新たな命として誕生させる。


自作スキルの大盤振る舞いだ。

こうして沢山一気に使うと気分が良い。


「な、なっ、んなぁぁっ…!!」

「じゃーん!どうよ、俺の手作りゴーレム!アダマンタイトを筆頭に、全七十の希少鉱石を惜しまず使って、俺の戦闘パターンを組み込んだ自信作!そこら辺に流れている魔力を吸収して硬度を上げたり、体が砕かれるたびに速度が増す効果も付与してあるから、それなりに手強いはずだぜ!」


これなら喜んでくれるだろう、と思ってシェラの方を向くと、思いっきり殴られた。

腹を。

ダメージはないが心が痛かった。

締めつけが良くなるからって、行為中にスパンキングした事に対する報復だろうか。

でもアレはシェラの方も喜んでるし違うか。


――ていうか、はい。わかってますよ。

どうせ俺の作ったゴーレムが気に入らなかったんでしょ?

冷静に考えたら、コイツ並大抵の『大災害』より強いし。

スペックもうちょっと下げておくべきだったわ。


「…しぇ、シェラ。不貞腐れるなって。今調整して、さっきのゴーレムに毛が生えた程度の強さにしておいたから。アダマンタイトとかその他諸々の理不尽要素抜いたから」

「……アタシでも十分勝てる相手?」

「うん、勝てる勝てる。俺のサポート無しでも全然勝てる」


俺の返答に、なおも訝しむような視線を向けてくる。

それに対し、俺はただ無言で見つめ返す。

何も後ろめたい事がないからな。そりゃ堂々としますよ。


数秒間そうしていると、シェラは根負けしたというように大きくため息を吐き、剣に手をかけた。


――おっ、やる気になったぽいな。


「――やったろうじゃない!!今度こそ、今度こそ良い所見せてあげるわ!!」


※―――


「はぁあっ!!」


稲妻のような一撃。

それがアレイスター・ゴーレム(仮名)とシェラとの戦闘開始の合図だった。


「ッ――効いてはいるけど、やっぱり硬いわね…」


痺れを誤魔化すように手を振り、先程攻撃したゴーレムを見る。

傷がついているようには見えない。

一応スキルを利用しての攻撃だったのだが、それでもダメだったようだ。

先程に比べ、明らかに硬度が増している。

毛の生えた程度の強さしかないというのは何だったのか、と少し思う。


「ま、関係ないけど……ねっ!」


別に自分の全てを出し切ったというわけではない。

スキルを使って攻撃しているとはいえ、まだ魔力での強化や他のスキルの併用、何なら竜人の本領ともいえる竜化もしていない状態。

勝負が決まったと考えるには、まだ早すぎるタイミングだ。


刃を振り下ろし、返ってくる衝撃に従ってそのまま後方へ移動する。

その手には、莫大な魔力。


竜人にのみ許された特殊な魔法、『竜人魔法ドラゴニック・マジック』の発動に必要な魔力。

その総量は、実に火球900発分。

一般的な人間の魔力量が100~500とされるこの世界では、もはや神話級の魔力量だ。


因みに彼女が大量の魔力を扱えるのは『天上天下唯我独尊yes!Me!!』という異能タレントあってこそだが、本人はソレを知らない。


「『激・暴牙轟爪獄滅撃ぶっ壊れなさいッ』!!」


『竜人魔法』は、属性に縛られない特殊な魔法。

魔法とは言ってもその本質は異能に近く、使用者によって効果が大きく変わる。

同一の物もあるが、基本はバラバラだ。


シェラの『竜人魔法』の効果は、端的に言えば『強化』。

普通の魔力でもできる事ながら、その効果は里で一番とされる程強力。

200込めれば大地を砕き、500込めれば山をも穿つ。


では、900今回は?


その答えは、綺麗に二等分されたゴーレムの残骸を見ればすぐにわかる。

モノのついでとばかりに地面まで綺麗に割かれている所が、いかにオーバーキルだったのかを思い知らせてくる。


「ふふん!竜になるまでも無かったわね!」

「凄いじゃねぇか。それなりに硬く作ったつもりだったのに」


自慢げに胸を張るシェラを、流石に真っ二つにされるとまでは思っていなかったアレイスターは純粋に称賛するのだった。

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決めた。異世界行くわ。 マニアック性癖図書館 @kamenraita

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