第41話 邪神教団
魔族の侵入という異常事態はあった物の、御前試合はなんだかんだ無事に終了した。
あの後直ぐに俺が発見したダニエル(本物)を連れてきて、一応戦っておくかという事でボコボコにし、今回の勝者は俺という事で決定された。
――の、だが。
話はそう簡単には終わらなく。
俺としては「魔族の侵入はあったけど何とかなったし出場者の中で一番強いのはアレイスターって決まったんだからそれで良いじゃん」としてもらいたかったのだが、大人たちは「いや団体戦勝者と教員戦勝者に勝ったのは中々ファンタジーだけど、それより魔族の侵入がインパクト大きいんだわ」となっており、現在は国王様も含めたお偉いさんたちが俺によって無力化された魔族の男の処遇に頭を抱えっぱなしという状態。
要するに、俺の優勝が目立たなくなってしまったと言う事だ。
これは非常によろしくない。
自分の力の一端を見せつけ、観客全員から「すげーすげー」と持て囃され、エリーセ達に「きゃー素敵三日三晩くらい抱いて」と言われる事を最終目標としていた俺としては、この状況は大変不本意な物なのだ。
しかも今は、魔族と交戦した事や魔族から狙われていた事もあって、俺も拘束されて詳しい事情聴取を受けている始末。
話を聞くと、どうやら俺のこの異常な強さは魔族と関係しているのではと考えられているらしい。
これもまた非常によろしくない。
あの性欲との戦いを生き抜き、ありとあらゆるものの限界値を超越した存在に自力で至った俺を、あろうことかあの程度の力しか持たないヤツのおかげで強くなれたと邪推する等もってのほかである。
お前等速で俺の修行パート(カット無し)を何もない空間で見せつけられるの刑に処してやろうかオイ、という暴言が出てくる一歩手前になってしまったのも致し方なかろう。
「って訳でさ。ケイ兄さんからもなんか言ってやってよ。俺の強さは生まれつきだって」
「その時点でおかしいのだがな。――ただ、お前のあの強さを魔族と何らかの契約を行っての物と考えるのは流石に無理がある」
「…む、無理がある…ですか?」
言葉を繰り返すようにして聞き返してきた部下らしき男(先程まで俺に尋問を行っていた)に肯定の意を込めて頷き、ケイ兄さんは続ける。
「アレイは魔族に力を分け与えられた程度で説明がつくような、そんな強さの男ではない。――恐らく、根本が違う。人間、魔族、獣人…そんな程度の尺度じゃ説明がつかないような『何か』が、コイツの力の理由だ」
おぉ!凄いな兄さん。
真実にたどり着くまであと少しって感じじゃないか!
部下の人は「嘘だぁ」みたいな顔をしてるだけだけど。
普通はそう言う反応しちゃうよね。
今回はケイ兄さんがあってるんだけど。
「…妄想でしかないが、な。――とにかく、コイツに魔族との関わりが無い事は俺が保証する」
「おっ、流石ケイ兄さん!わかってるぅ!」
「ほ、本当に保障してしまって構わないので…?」
「あぁ。コイツが魔族に頭を下げるようなヤツじゃない事は良く知っている。――それに、もし仮にコイツが魔族に魂を売るような真似をしていたなら、その時は俺が始末するだけだ。魔族に頭を下げる程度のヤツだったとしたら、今の俺の敵になり得ないからな」
堂々とそう言い放ったケイ兄さんに、部下は困ったような顔をしたまま、何かを紙に記入し始めた。
しばらくの間ペンが紙を走る音だけが響き、それが止まるとケイ兄さんの部下が顔を俺の方に向けて、「まだ俺は疑っているぞ」的な眼差しで「もう戻っていいぞ」といってきた。
両手両足を拘束しているという事を忘れているのだろうか。
或いは、「お前ならこの程度難なく外せるだろう?」という挑戦だろうか。
もし後者なら、いいだろう。この魔法発動を阻害する魔法が込められた魔道具の鎖なんか、素の力で砕いてやる。
因みにこの魔道具、素材にアダマンタイトが入っているので普通は素の力では砕けない。
あの空間で巨大なアダマンタイトの立方体を素手で破壊する特訓を行っていた俺だからできる芸当なので全員真似しないように。
「――んじゃ、俺は戻るけど…受賞?というか王様からの…なんだろ、お褒めの言葉?みたいなのってどーなんの?」
「無論いただける。何せお前は実力であの戦いを勝ち抜いたのだからな。一年の下級クラスの生徒だというのに、だ」
言外に「なんでお前下級クラスなんだ」と聞いてくるケイ兄さんを愛想笑いであしらい(ケイ兄さんの部下に「コイツ神学できないとか頭弱すぎだろ」と思われる可能性があるため)独房的空間から外に出る。
暗い空間から明るい空間に出たせいで目が馴れず、少しの間視界が白一色になった。
そしてその時ふと、こんな事を考える。
「――俺、ケイ兄さんに神学がダメだったって話してなかったっけ?」
※―――
「アレイスター・ルーデンス。此度の大御前試合において、個人戦、団体戦、教員戦の全てを制し頂点に立った事をここに認めよう」
頭を下げ、王様の言葉に聞き入る素振りを見せる。
大勢の視線を感じて、非常に気分が良い。
陰キャを自称する俺だが、意外と目立つことは嫌いじゃないのだ。
わかってたと思うけど。
「個人戦の勝者が優勝者と成るのは、滅多にない事だ。これからも修練に励むと良い」
つっても、基本準備期間中は教えてばっかりで、最後の方で微調整をした程度なんだけどな。
まぁ生前に何年分も鍛えておいたんだし良いだろ。
これから先励むはずだった分ももう頑張ってるって事で。
「――そして、この御前試合の功績だけでなく。魔族を単独で無力化した事についても賞賛しておく必要がある」
王様の言葉に、観客たちが少々騒めく。
なるほど、魔族の話もここでするのか。
――そういやアイツどーなったんだろ。正直ヴァルミオンの話とか聞きたいし生かしておいてくれれば助かるんだけど。
…あれ?ヴァルミオン?
俺、魔族との関与は一切ないみたいな事言っちゃったけど、さりげなーく大嘘ついた事になってない?
ヴァルミオン、第一婦人だけど?
ハーレムメンバー最古参なんだけど?
……まぁ、なんとかなるなる!
もしあれなら別の国まで逃げよっと!
…でも兄さん達置いていくのはなぁ…いくら前世の両親+愛犬が来る(そのための条件は未だ明かされず)とはいえ、こっちの世界の家族も中々情が移ってるっていうか。
「魔族とは本来、騎士団が束になって相手しなければならない程強力な存在。ソレをたった一人で相手取り、勝利して見せたのは素晴らしい功績だと言える。――いずれは、この国を守る剣として。是非活躍してもらいたい」
騎士団志望って訳じゃ無いんだけどな、俺。
つーか頭の中で国外逃亡を考えてる時に言うかね普通。
…いや、普通は人の頭の中なんてわからないか。
――でも卒業後、か。
冒険者になって、皆と一緒に世界を回ろう…とは思ってたし、何よりまずはヴァルミオン探しをしたい所なんだけど…具体的なプランがなー。
昔っから先の事を考えるのが苦手なんだよな俺。
昔の事を思い出して落ち込むのは得意なのに。
…あぁっ、今になって中学生の時の痛々しい思い出がっ!
今すぐにでも大声を出して(自分の中で)誤魔化したい!
――ん?
『ハルバチェンジャーッ!!』
「国王様、下がって」
「な、何?下がる?」
まだ国王様が何か喋っている途中だったがソレを遮り、ハルバチェンジャーを手に立ち上がる。
困惑している様子の彼を、殺気の来る方向から庇うように立ち、気を練る。
…あの魔族より、強いな。
ジャーバルと同レベルかどーかって感じか?いや気配だけでそこまで考えちゃアレか。
ここは……スマ子!
『はいはい呼ばれて飛び出て以下省略っ!早速ですがお相手さんの強さを一言でまとめましょう!ぶっちゃけ「弱い」です!』
「それは一般人と比較した場合か?それとも俺と?」
『あっ、ついうっかりマスター基準で。一般人比較だと、そうですね…大体Aランク冒険者相当かと。それがざっと5人。遠距離からこちらを見ているだけの存在も含めれば7人ですね。そいつらの強さはー……おぉっ、まさかのSSランク冒険者相当!不敵な笑みが悪役感満載で面白いですね!』
「最後の情報はいらないなー……後これからはできるだけ俺と比較しない場合を教えてくれよな。俺より強い奴がいる時以外」
しっかし困ったな。
エリーセ達やステラさん達に切っ先すら向けさせないのは大前提として、国王様を守る、子供もいるのであまりグロテスクな結果にしない、というかその他の戦力外たちを守る等々の条件付きでAランク相当五人って、結構きついんじゃねぇの?
今まで守る戦いをしたことが無かったからわかんねぇんだけど。
「さ、先程から誰と?」
「その話はいつの日か。今は賊が優先です。陛下はご自身の身を第一に」
「ぞ、賊!?」
「――ひ、ひひ、きひひひひひゃっひひははは!!ん-だよっ、気づいてんのかよォ!」
空間が揺らぎ、狂ったような笑い声と共に何者かが姿を現す。
白と黒のツートンカラーのフード付きローブを着た男だ。
その手には、血の色が染みたノコギリを持っている。
隣には同じ服装をした者が四人並んでおり、そいつらもまたそれぞれ違う武器を持っていた。
「どうも、初めまして皆さま。我々は邪神教団。――偽りに満ちたこの世界を破壊し、真なる救済を行う者です」
狂気的な笑いをした男とは違う男が一歩前に出て、観客全体に話すように両手を広げた。
ローブで目元は見えないが、口元が三日月のように裂けているのが見える。
うわ、歯並び悪いなアイツ。
…っと、やっと兵士たちが前に出てきたか。
ちょっと遅いんじゃないの?
ケイ兄さんなんか、あの歯並び悪男が口を開くより先に移動開始してたんだぞ?
まぁ連中を刺激しない為かゆっくりな移動だったけど。
「邪神教団だと…!?」
「あ、ケイ兄さん。陛下よろしく。――で、アイツ等なんなの?邪神教団とか聞いたこと無いんだけど」
「…邪神教団。神だの教団だのと言っているが実際は神自体に興味は無く、自分たちが世界を『救済』すると好き勝手言っているだけの連中。だがその行為の残虐さや並大抵の騎士や冒険者では太刀打ちできない程の戦闘力を信者の誰もが持ち合わせている点から、どの国家からも危険視されている存在だ」
「残虐ぅ?好き勝手ぇ?きひ、きひひひっ!笑わせんな、笑わせんなよォ、騎士サマぁ?俺達からいわせりゃ、お前らの方が残虐非道な連中だーねぇっ!こんな腐った、間違った世界で人々を生かし続けてるんだからさぁぁっ!!」
あー、はいはいそういう系ね。
死は救済タイプね。
唾をまき散らしながら叫ぶ男に、ちょっと後ずさる。
狂人はちょっと。
男なら猶更。
「…まぁそっちの考え方を頭ごなしに否定するつもりはねーけどさ。なんでいきなりここに来たわけ?その理由によっては――そうだな、お前ら風に言うなら救うことになるんだけど」
「我々の目的はただ一つ。この国の愚かな王を、大勢の前で救済する事。無論観客たちも共に救います。えぇ、この穢れ切った世界から逃れられるなら、できる限り早い方が良いでしょう?」
うーん、話が通じなさそうなタイプ。
というか愚かな王とか言っても『救済』しちゃうんだ。
その辺結構適当なんじゃない?
…つっても、信じる神も居ないのに邪神教団とか名乗っちゃってる時点でおかしいんだけど。
「まぁその辺は俺にとってどーでも良い訳だけど。――あのさ、一応聞くけど…観客席には俺の家族も、大事な嫁たちもいる訳。ついでに言うならすぐ隣に立ってるのは兄さんだし。もしかして、皆も救うつもり?」
「えぇ、えぇ、勿論ですとも。あぁ素晴らしい!貴方は幸運なようだ!何せ今この場に貴方の大事な、そう大事な人達が揃っているという事それはつまり共にこの穢れ切った世界を脱し救われるという事なのだからあぁ羨ましいなんと素晴らしい事なのでしょう愛する者大事な家族それら全てと共に
柔らかい果物を潰すかのような音と共に、壊れたテープのように言葉を紡ぐ男の首が弾ける。
脳漿と頭蓋骨と血液、その他複数の体液。
糸の切れた操り人形のように、その場に崩れ落ちる体。
手に伝わるのは、一つの命を奪った感触。
あの空間で何度も味わい、この世界に生まれ直してからも何度か味わった感触。
ソレを知覚して、ようやく自分が何をしたのかを冷静に理解する。
「…やっべ、子供もいるから健全に終わらせようと思ってたってのに。ダメだな俺、キレやすくなってる」
ハルバチェンジャーから滴る血液は、俺が先程殴殺した男のモノ。
視線を下に向ければ、まだ残っている首から下がビクビクと痙攣している。
…前々からわかっていた事だが、やっぱりだめだ。
どうも超えて欲しくない一線を超えられると、理性が仕事を放棄するらしい。
それは性欲だけではなく、その他の感情でも、だ。
「…ま、コイツ等にとっちゃコレが救いな訳だ。なら俺は良い事をしたんだよ、対外的に。つーか魔物殺したりしてる時点で同じ同じ。命という意味では同じなんだし、何より一部魔物は人語も介したし。倫理観とか知ーらねって事で」
早口で言い訳をし、武器の血を振り払う。
子供たちの記憶からこの衝撃映像を消すのは、後で魔法でやっておくとして。
取り合えず今は考えるより先に、コイツ等全員まとめて救ってやる方が良いだろう。
どーせ後になって「ルフェイ達に嫌われてないだろうか」とか「マルティナさん達に怖がられないだろうか」とか考え込むんだし、一人殺せば二人以上殺すのも同じだし。
「き、さま…貴様ァ!!」
「怒るなよ、お前らもしっかり殺し――いや。『救って』やるからさ」
数秒後、ローブ姿の連中の内息をしているモノは一人も残らず。
返り血に染まり、その後の事に頭を抱え始める俺と、ソレを遠巻きに見つめるだけの観客や騎士たちが残るのだった。
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