第36話 その後の話をしよう

さて、俺が先生をボコボコにした入学初日から早三か月の時が経った。

その間にも色々あったが、毎回毎回そこに焦点を当てて話す必要があるかと言われればそうでもない程度なので、今回は今日にいたるまでをダイジェスト風に振り返って行こうと思う。


――まず初日の出来事。

先生の怪我は俺が権限主張で回復させ、その後は当初予定されていたであろう通りに学校の説明をしてもらった。

校舎は外観通り煌びやかで気品があって、なんだか自分の存在が場違いなような気がする程だった。


しかし問題なのはこの後。

俺含む皆は校舎を巡る途中に雑談をしてある程度仲良くなったのだが、そんな俺らがこれから最低三年間は生活する事になる寮が、噂以上に酷い見た目だったのだ。


雰囲気は暗いながらも一応建物は高級感があり、虫とか幽霊とかも気にしなければ問題ない程度…と聞かされていたはずが、実際に到着した俺達を出迎えたのは燃え尽きた炭の塊と、説教される先輩らしき人達の集まりだった。

どうやら、寮内で発生した先輩同士の喧嘩が全生徒に広まり、誰かが放った炎の魔法が寮を全焼してしまったらしい。


野蛮過ぎないかな、とその時思ったのは、きっと俺だけではなかっただろう。


しかし全焼してしまったのは事実。

このままではしばらく全生徒野宿…となるところだったが、そこに待ったをかけたのが俺。

そう、俺。

もう一回言おう。――俺だ。


困り果てた様子の彼らに、「俺なら何とかできますよ」と軽い調子で声をかえ、『時を換金タイム・トゥー・マネー』を発動。

取り合えず俺好みの豪華な建物を、と思って時を消費してみたら、なんか和風の巨大な建物ができた。

お城、というよりは高級な旅館みたいな。


で、これで良いですかと質問したら皆大喜び。

特に先輩たちは涙を流して抱き合っていた。

――そんなに酷かったんすね、今までの寮。


そして次。

題してダニエルの逆襲事件。

事件と言ってもそれほど大きな出来事ではなく、入学してから二週間が経過した辺りの授業中のどうでもいい話だ。


なんでも入学初日に俺に大敗したのがプライドを傷つけただか何だかで、冒険者時代の仲間を呼んで俺にリベンジする事を画策していたらしい。

自分自身も全員が集まるまでに鍛え直し、万全の状態で授業中に奇襲を仕掛ける事にしたのだとか(その時の授業はトーマスという年寄りの先生による薬学の授業だった。結構楽しい)


ただ、俺相手に奇襲を仕掛けられるような奴はいない。

俺自身の気配察知能力もさることながら、そもそもスマ子がいるので大抵の事は何でも報告してくる。

それ以外にも危機報告系スキルはいくつも持っているので、突然現れて攻撃されても裏切られても即対応できるのだ。


だからまぁ、結果として彼らは俺に成すすべなく敗北し、荒縄で縛られて学校長に手渡される結果となったのだ。

それでも翌日には復活して担任としての業務を再開した辺り、彼の生命力というかなんというかは高い。


そして三つ目。

俺、教会の人間から嫌われ過ぎ事件。


この世界には前世同様沢山の宗教があるのだが、バンデルセン王国…いや、この大陸全体で一番信仰されているのが『カーレニウス教』という宗教なのだ。

カーレニウスは創造主、という意味の単語なので、直訳すると『創造主教』となる。

結構ありがちではなかろうか。

因みにかつてマルティナさんが言っていた『大母テルミア』もこの神話に登場する神である。

一神教じゃ無いんだよね。


聖地はリステード…エリーセと出会う前に、シェスカから教えられた場所だ。

前世でいうエルサレムのようなイメージ。

いくつかの宗教の聖地として扱われているが、理由はよくわからない。

神学は苦手なのでね。


で、そんなカーレニウス教のお偉いさんがこの学校に出向しているらしく、その人から直々に神学の授業を受ける事になったのだが…まぁ俺の当てられる事当てられる事。

そして言い淀むたびに鼻で嗤うわ嫌味は言うわ他にも色々と、小姑ばりにいびってくる。

俺が何をしたというのか。

神学が苦手なのがダメなのか。


だからって去り際に「神の御心を理解しようともしない愚物が」とかいう必要は無いと思う。

――前世からそうだけど、やっぱり宗教関係の人は苦手だな、俺。

母さんが一時期ノイローゼ気味になった(昔住んでいた場所の近所の人が、全員あるカルト教団にのめり込んでいて、毎日のように布教しにきたのだ)のもわかる気がする。


最後に四つ目。

これが今日の出来事。

先生が俺に挑んで大敗し、傷も癒えぬままに連絡事項を話していた時の事。


その話の中に、来月中旬に行われるというとあるイベントの話があったのだ。

その名も大御前試合。

国王含むお偉いさんが沢山見に来るらしく、そこで生徒たちがチームを組んだり、個人で出場したりして戦い、もっとも優秀だと判断された生徒は国王様達から直々にお言葉を貰えるという素敵イベントである。


因みにこのイベント、ケイ兄さんが在学中の間はずっとケイ兄さんが最優秀だったとか。

先生がその話をするとき、「もしかしてこのケイってヤツとお前は…?」とか聞いてきたので「俺の兄さんです」と答えておいた。

いや、ルーデンスって所で気づけよ。


で、御前試合は本来チームを組むか個人で出るかを自分で選べるのだが、先生の意向により全員個人出場になった。

理由は「お前らは協調性がねぇから、下手に大勢で行って恥を晒すより一人で行ってやりたいようにやった方が良いだろ」とのこと。

全員ぐうの音も出なかった。


…とまぁ、こんな感じで、俺達はその御前試合とやらに向けて各々修練に励む必要ができたわけだ。

俺は他に比べてかなりの余裕があるわけだけど。


ま、来月を楽しみに待っておくとしますかねー。


※―――


「…で、どうしてこーなんの?」


放課後。

きっと皆御前試合に向けて各々特訓に励むのだろうなぁと思っていたが、真っ先に俺の席に集合してきた。

理由はまぁ、聞かなくても大体わかる。


この三か月間、色々やって来たからなぁ、俺。

規格外の擬人化状態だよ。

大まかにやったことまとめても『実力はトップクラスの生徒を軽くあしらい、入学初日に担任教師をボコボコにし、全焼した建物をより豪華に新しく作り直し、Sランク相当の冒険者のチームに奇襲されても一人で全て倒した』とか、明らかに一般人のスペックじゃないような事をしてるんだよ。


因みにSランクは冒険者のランクの事で、下からF、F+、E、E+、D、D+、C、C+、B、B+、A、A+、S、S+、SS、SS+、SSS、SSS+の18段階に分けられている。

+がついているランクは、昇格試験を受けられるという意味を持っているだけで、別にDとD+とでは実力に差があるとかそう言う事は無い。

SSS+は純粋に評価規格を完全に超越したという扱いらしいけど、他は純粋に活動歴や、内容の差だ。

まぁいくら頑張ったってSランクレベルになると簡単には成れないんだけどな。

SS以上なんて、噂で聞くくらいだし。

実際SSSは世界に三人しかいないって言うし(うち一人はドルマータ帝国にある冒険者ギルドのギルド長をしているらしい。今度会ってみたい)SSS+なんかは今はいないし。

…でも学校卒業して冒険者登録したら、絶対SSS+になってやる。


――とまぁ、Sランクというだけでも十二分に凄いのだ。

大災害に勝てるとまでは言わないけど、その下くらいだったら、チームで挑めば勝てる程に。


そんな連中を、俺はあろう事か一人で相手してしまったのだ。

はっきりといおう。そんな学生はいるはずがない。

なんで存在してるんですか?レベルだ。


そんな奴が身近に居て、戦いに役立つ情報を聞きに行かないわけが無い。

聞かなきゃ馬鹿だ。参考書を好きなだけ使っていいと大図書館ばりの蔵書を手渡されて一冊も見ずに試験に挑むような物だ。


「…まぁそりゃ来るよねー」

「な、なんか一人で納得してる…」

「――ん、んんっ。なぁ、アレイスター。お前がもし良ければなんだけど…俺に戦い方をだな」

「あっ、ずるい!アタシも格闘術とか教えて欲しいし!」

「ぼ、ぼくも魔法のコツとか色々…き、聞きたいなって」


四方から声をかけらる。

気分はさながら聖徳太子。

――あれ、本当はいないって説が有力になったんだっけ?あんまり覚えてないけど。


「そんな大勢で来られてもなぁ…一応一か月ちょっと期間があるとは言え、この人数に一人一人適切な指導なんて、教員でも難しいだろ」

「え、えぇ!?そこを何とか!」

「頼むよ、俺達だって下級クラスだけど強いって思われてぇんだよ!誰もがお前とかヴォードンみたいなわけじゃねぇんだからさぁ!」

「…そのヴォードンすらこの大群の外周にしっかりといるんだけどな。――わかった、わかったから一旦落ち着いてくれ。詳しい話は黒板使いながらするから」

「いや教師かお前は!俺の立つ瀬がどんどんなくなってくんだけど!?」


いつ何時でも襲ってきてその都度酷いやられ方をする先生に、もはや威厳だとかそう言った物は残っていないと思うんですがね。


そんな冷たい一言が口から出てきそうだったが、視線と小馬鹿にした嗤いにとどめて満足しておく。

貴族なんだからな。人前では紳士的に、ベッドでは獣のように。

――いや、後者は貴族関係ないか。俺が性欲溢れっぱなしなだけか。

昨日もシェラがだな……ってその話をしたら長くなるか。


「えーっと、取り合えずここにいる全員は俺の指導を受けたい、と?」


全員が頷く。

ヴォードンすら頷いているのが少しツボだが、先生にまで頷かれると笑いしか込み上げてこない。

プライド無いのかこの人。


「じゃあ、何を学びたいかで挙手してもらう。まずは武器や素手での直接戦闘だな。手挙げて」


手を挙げたのは合計で11人。

クラスの半分に満たない程度だが、まぁ妥当だろう。

実際このクラスで近接戦闘を好んでやってるヤツって少ねぇし。


「んじゃ魔法は?」


こちらは23人。

合計すると、しっかりクラスの全員が手を挙げた事がわかる。

先生含む、クラスの全員が。


――もうあの人の事呼び捨てにしよっかな俺。


「一応弓矢とか使ってるヤツいれば聞くけど……いないか。オーケーわかった。取り合えず早速王都の外に出て全員の今の実力測るよー」

「え、王都の外?」

「こっから外まで、結構距離あるよ?」

「ん、大丈夫大丈夫。移動は短縮するから」


『権限主張・移動』を発動し、全員を王都の外…前に俺がハルバチェンジャーの性能実験をしたあの広場に転移させた。

突然景色が変わった事に、全員驚きで言葉にならない様子だ。


でも空間転移系の魔法って一応周知されてるんじゃなかったっけ。

俺が別の魔法と勘違いしてるだけかな。


「な、な――っ」

「ここは『捕食者たちの休息地』って呼ばれる場所でな。ここら一帯の魔物の中でもより強力なヤツがこぞって休憩しに来る場所で有名なんだ。並大抵の冒険者…そうだな、Bくらい?のランクの人でも一人で来たら危険ってレベルの場所だぞ」

「『捕食者たちの休息地』!?お、お前なんてとこに生徒連れてきてんだよアレイスター!?」

「まぁまぁ、見ての通り魔物、いないでしょう?今は安全だって知ってるから連れてきたんです」


考え無しじゃ無いんですよ、と胸を張ると、先生は「なるほど、ここから魔物が一切いなくなる時期とかもあるのか」と的外れな納得の仕方をした。


間違った知識をそのまま定着させるわけにもいかないし、訂正しておいてあげよう。


「先生、違いますよ。俺があまりに殺し過ぎたせいで魔物達が恐れてここを訪れなくなっただけです。時期とか関係ないですよ」

「何してんの!?」

「あぁ、別にここからいなくなった分が王都に近づいて…とかは危惧する必要ないですよ。そもそも彼らは俺が来るまでここを離れませんし」


実際は俺が移動してきたのを察知すると同時に逃げ出しているのだ。

わざと魔物以外の時を止めて逃亡する様を見せないようにしたけど。


だって、逃げ惑う姿を見せたら、絶対誰か「逃げ出すくらい臆病な弱い魔物なのか」って勘違いするだろうし。


その旨を説明すると、先生は勿論、同級生たちも絶句した。

…あぁ、時を止める、ってのがわからねぇか。支配魔法なんて御伽噺でしか聞かないもんな。

敢えてそこを説明する気はないけど。


「――とにかく。今から皆には制限時間以内に好きな魔物を好きなだけ討伐してきて欲しい。その過程は俺がここでから、戦闘の様子とかで適切な内容を考える死、危険があればすぐに助けにいく。質問、異論等々あれば今だけ受け付けるけど、ある?」


返事はない。

一部はまだ現実を受け入れられていないだけだろうが、俺の設けた質問タイムは終わった。

聞き流した君たちが悪いんだよ、という事で、諦めて魔物討伐に向かってもらうとしよう。

勿論、先生も。


「よしっ。質問も無いようだし早速開始!終了したら強制的にここに連れ戻すから、そのつもりで!んじゃ、頑張って!」


我ながら無責任気味な発言と共に、全生徒+先生を森の中へランダムに配置。

先生以外は誰も一人にならないように配慮したから、問題ないはず。


――んじゃ、時間までのんびりと日光&森林浴しましょうかねー。

いやぁ、何をしなくても問題ない時間って、ほんと最高。

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