第32話 無双しよう

さて、意気揚々と飛び出してから早十数分。

当然と言えば当然だが、俺は殆どのチームを壊滅し終えた。

今は残るは四チーム。俺のチームをカウントすれば五チームだけ…という状況だ。


「…まさか、その24人から囲まれることになるなんてな」


マップを見ると、俺を囲うようにして二十四人の受験生が綺麗に等間隔で並んでいるのがわかる。

と言っても現在地が木の一本も無い開けた場所なので、マップ無しでも大体わかるのだが。


――しかし、残ったチーム全員で俺を囲うか。

誘導されてたのはわかってたけど、まさかこの規模で来るなんてなぁ。


「どうやって合流したんだよ、お前ら。俺の強さをどうやって共有したのかも気になり所なんだけど」

「はんっ。ここにいる全員、他のチームの連中が下級ゴブリンみたいに薙ぎ払われてったのを見てたんだよ。そこで共同戦線を張ることにしたって訳さ」

「へぇ…まぁ、一か所に集まってくれたのは楽で助かるけど、それだけだぜ?」

「ばーか。デカい口叩いてビビらせようとしたって無駄だぞ。流石のお前だろうと、この人数相手に戦えるわけがねぇ」


武器の性能実験って言って、冒険者ですら滅多に訪れないような魔物の密集地帯に一人で突っ込んでいった挙句全滅させて無傷で帰って来た経歴の持ち主なんですけど、俺。


いや、人と魔物とは違うって意見もあるだろうけどさ。

流石にあの数を難なく撃破しつくした俺がこの程度の人数の(肉体年齢的には)同年代の子供に負けるわけが無いと思うんだけど。


…慢心は、ダメか。


「んー…魔法使い11人、近接特化6人、その他弓兵等が7人、か。まぁ、別々のチームだったにしてはかなりバランス取れてると思うけど…やっぱ足りないと思うぞ?」

「――っ」


全員のステータスを閲覧し、その情報から戦術のタイプを表示。

今回はスマ子ではなく自分の力でやってみた。

いざって時の為に、脳の処理能力を強化してかないとね。


俺との会話に応じていた男は、余裕そうな表情から一転、全員の基本戦術を見抜かれたことに動揺を隠せなくなった。

まぁ、普通は相手の戦い方なんてこの状況で分かるわけ無いしな。気持ちはわかるよ。


「まぁ、いいよ。全員一回ずつ攻撃させてあげるから。そこで大体わかるはずだぜ、俺との実力差」


感情暴発エモーション・バースト』という、わずかな感情の変化を増幅させ、相手の理性を奪う能力スキルを発動しつつ挑発。

別に使う必要は無いが、今回は敢えて使用。

…だってさ、『感情暴発エモーション・バースト』の本来の使用用途は「交渉等で相手を口車に乗せやすくする」とかのはずだったのに、今じゃ「エッチするときの興奮を異常に高める」くらいしか使ってないんだぜ。

なんかこう、日の目を…みたいな?


さて、肝心な効果は――言うまでも無く抜群だった。

俺から感じるのだろう得体の知れなさ等を忘れて、ただ挑発されたことに怒り正常な思考を失った彼らは、全員一気に戦闘態勢に入った。


「『氷刃フロスト・エッジ』!!」


氷魔法の刃を皮切りに、全方位から様々な形状、速度、範囲、属性の魔法が飛んでくる。

その全てを、魔力を纏わせたハルバチェンジャーを大きく一振りして一掃し、突進してくる目の前の斧使いを蹴り飛ばす。


振り上げた足はそのままに、左足を軸として回転。

今度は剣を持った女の肩口を抉るように踵を落とす。


抵抗を感じさせること無く倒れ伏したソイツを蹴って避け、ハンマーを振り下ろそうとしてくる男をハルバチェンジャーで殴打。

その勢いのまま、背後から飛んできた矢を全て払い落とす。


「――こんなもんか。魔法は良くて中級程度で、近接戦闘の腕はお世辞にも良いとは言えず…尚且つ、矢も一矢一矢が弱い。これじゃいくら束になっても無駄だぞ」


エスってやっぱり強かったんだな、と、今も突進してくる受験生を軽くいなしつつ思う。

だって、剣の振り下ろし方が全然違うからな。


いくら『感情暴発エモーション・バースト』の効果で理性的な戦闘ができなくなってるからって、流石に攻撃が粗雑すぎる。

実際に言葉として発したけど、これじゃ後数百人用意されても魔法の使用も気の使用も無しで勝てるぞ。


「ま、いっか。ほらほらさっさと来いよ。まだまだ時間はあるし、しばらくは防戦に徹してやるからさ」


今度は『感情暴発エモーション・バースト』は使わない。

しかし一度理性を忘れて感情のままに行動した者は、大抵すぐに理性的な行動を取り戻すことはできないのがこの世の摂理。


俺との実力差は今ので身に染みてわかったはずだろうに、誰一人として逃げの一手を選ばない。


まぁ、彼らにも意地があるのだろう。

この学校に入学できなければ、彼らの身分…というか格が下がってしまうのだから。

自分の家族の評価にまで泥を塗るわけにはいかないのだろう。

思えば一チームごとに殲滅していた時も、誰一人として諦める者はいなかった。


――なら、俺が下手に手を抜くのも失礼ってモンだな。


※―――


「――や、やっぱり囲まれてる」


時は少し遡り、アレイスターが生き残った他のチームから囲まれた直後。

彼のいる場所から少し離れた、戦場を一望できる高台に、時間が来るまで隠れる事を選んだ彼のチームメンバー全員がいた。


先程声を発したのはアレイスター唯一の友人である、ジャーバル。

アレイスターの戦いを見よう、と立案したのも彼であり、この安全圏を見つけたのもまた彼であった。


「あの人数だと…全部で四チームから囲まれてるって事!?」

「しかも――うん、やっぱり。ミッドス・セスター君とか、ニューナ・リッドさんとか、エス君くらい一目置かれてた人が沢山」

「運悪く強い奴らに囲まれちゃったって訳ね…助けに行った方が良いかな?」

「無駄だろう。寧ろ我らまで失わなくて良い点数を失いかねん。――ジャーバル。転移石は持っているのだろう?」

「は、はい。ここにあります…けど。アレイさん、あの程度じゃやられませんよ?多分」


その言葉に、全員が何を言っているんだという視線を向ける。

それはそうだ。

いくら魔法試験と格闘試験で誰も予想できなかった事をしたからって、その実力は未だ未知数。

この人数に囲まれて且つ、その中にこの試験において一騎当千レベルの実力を持った生徒がいるとなっては、普通は彼の敗北を連想する物だろう。


しかしジャーバルは、この中で唯一アレイスターの普段の戦闘を知る者だ。

アレイスターが茶飲み話程度に軽く話す、他の人からすれば御伽噺レベルの武勇伝を毎日のように聞いてきた(途中からはジャーバル自身が望んで聞くようになった)だけでなく、彼が魔物と戦う様を間近で見てきたのだ。


そんな彼が、たかだか同年代の、常識の範疇で強いとされる連中に敗北する姿を想起するだろうか。

いや、しない。


「あ、ほら。魔法も、矢も、近接攻撃も…全部いなしましたよ?」

「――う、うそ…」

「あのような動き、『黄昏の聖騎士団トワイライト・パラディン』の騎士でも見ないぞ…?」

「そりゃあそうですよ。だってアレイさん、『黙示録の殲滅者達アポカリプス・メンバーズ』よりも強いんですから」


ジャーバルがさらっと言った言葉に、全員が驚愕の声を出す。

驚愕の声と言っても、その中に含まれる感情は猜疑の色のほうが強いのは言うまでも無いが。


だってそうだろう。

自分たちと同じ歳の子供が、自分の国が誇る最高戦力達よりも強いわけが無い。

もし本気で言っているなら、気が狂っているか騙されているかのどちらかだ。


「じゃ、ジャーバル君。それは荒唐無稽が過ぎるよ…確かに今も向かってくる全員をなぎ倒しちゃってるけど、あの『黙示録の殲滅者達アポカリプス・メンバーズ』より強いっていうのはあり得ないでしょ」

「あっはは、目の前に『大災害』級の魔物の死体をずらーって並べられた時の一般人の気持ち考えたことあります?」


キュイセラの言葉に、隠すことなく死んだ目をするジャーバル。

乾いた笑いと共に、彼は数日間に「今まで倒してきた魔物で一番強い魔物ってなんですか?」とついうっかり聞いてしまった時の事を思い出した。

単なる好奇心で軽く質問した結果、返って来た答えが国一つ滅ぼすレベルの魔物達の死体の山だったのは今でも記憶に新しい。


恐らく一生のトラウマとなるだろう。


「大災害級って……あ、『黙示録の殲滅者達』でも場合によっては全員が大群を率いる必要すらあるような魔物だぞ!?偽物を見せられたんじゃ…」

「……僕も最初はそう思おうとしたんですけどね。流石に看破の水晶に本物だと断定された挙句、うち一つの証拠品を冒険者ギルドに提出したらその場でお祭り騒ぎが始まったりなんかしたら疑いようもないんですよ」


因みに証拠品を提出したのは王都から離れた小さな町の冒険者ギルドなので、王都に居る人達はまだその情報をあまり知らない。

ただその町周辺では、次第に「大災害級の魔物を倒すような冒険者がいる」と話題が広がりつつある。

王都でももうじき話題になるだろう。


「なんだよ、結局見に来たんじゃん」

「うわっ!?い、いつの間に!?」


放心状態になりつつあった彼らの背後から、いつの間にか戦闘を終えていたアレイスターが声をかける。

その姿は彼らの元を離れた時から何ら変わりなく、衣服の乱れや目に見える負傷…それどころか汗を流している様子すら見られない。


五人は彼のそんな様子に、改めて力の差という物を感じるのだった。


※―――


「これで全員倒したし、さっさと先生の所行こうぜ」

「え、全員?」

「やっぱりアレで最後だったんですね…」


アレイスターの言葉に疑問を覚える四人と、僕は最初からわかっていましたという態度をとるジャーバル。


…いや、コイツ以外まだ敵がいると思いながらここに突っ立ってたのかよ。

背後から攻撃される危険性とか考慮しなかったのか。


「ぜ、全員って、他チーム全滅させたって事!?」

「そりゃそうだろ。寧ろなんで他にチームが残ってるって思いながらこんな開けた場所に突っ立ってたんだよ」

「ま、まだ三十分も経っていないぞ?どうやって他のチームを発見した?」

「そりゃ能力スキルを使ったんだよ」

技能スキル…?『超感覚ハイパー・センス』か?」

「俺のはじゃなくて…なんだろ、この話前にもしたことがあるような気がする」


相手が誰だったかは忘れたがな。

…しかしおかしいな。

なんでこんなに能力スキルの知名度が低いんだ?


確かに技能スキルの方は、決められた『型』を覚えれば良いっていう利点はあるけど…だからって、自由度の高い能力スキルが完全に認知されないような事象が発生するのは変だろ。

俺みたいにあまりに才能に恵まれないヤツは自分と相性の良い能力スキルを作るだけで何億年もかけなきゃいけないけど、相性才能云々は技能スキルに関係ない話でもないし。


「…一応聞くけど、能力スキルは知ってるよな?自分で一から作れる分、難易度が高いヤツ」

「自分で一から?そんなの剣術の開祖になるって言ってるようなもんじゃない」


難易度で言えば間違っていないのだが、生憎能力は他人に使えない。

自分で作った物を誰かに教えることも、ましてや他人が使っている物と同じものを習得する事も不可能なのだ。


まぁ、簒奪魔法とか能力を奪う系のスキルがあればその限りでも無いのだが。


「いや、剣術とかと違って、原則その人にしか扱えない物なんだけど……そうだな、例えば」

『私とか、ですねっ!』

「うわぁっ!!?」

「あ、スマ子さん。こんにちは」

『あ、どーもどーも!』


別のスキルを見せようと思ったのだが、普通に出しゃばって来た。

…まぁ、制限時間教えてくれたりと相変わらず良い活躍をしてくれたし、こういう場で見せるのも悪くはないだろう。


「な、なんだこの…女?」

「脳内秘書スマ子ちゃんって言ってな。情報処理とか色々やってくれる優秀な子さ。――因みに、脳内秘書って名前なのにこうしてお前らの前に出てこれてるのはどうしてだってツッコミは無しな」

「……こ、これを自分で?」


眉間を揉みながら質問してくるルキナに、無言で頷く。

自分ではわからないが、さぞ口元が緩んでいた事だろう。


「…因みに、他には何か…あるの?」

「そりゃ沢山あるさ。便利系なら『虫が知らせる新たな事件デンジャー・トーカー』とか『フラグ建築は主人公の特権フラグ・アッパー』。一応『全破壊オール・ディストラクション』もそうか。『死の刻印エンド・サイン』とか『装填/射出セット/バースト』は戦闘特化かな。んでー」

「どんだけあんのよ!?」


え、数?

そういや数えたこと無かったな。


『全部で約四千の能力スキルを作ってますね。魔物とか人から奪った技能スキルなら、大体三十くらいです。あ、異能タレントを含めたらもっとありますよ?』

「たれんと?」

「生まれ持った能力ってヤツ。原則一人三つまでだし、どれだけ努力しても手に入らない。その分強力だったり、すっげぇ便利だったりするんだよ。――もしかしたら、皆も持ってるかもな」


せっかくだし見てみようか。

んじゃまずはジャーバルから…




異能タレント

・なし




…無しか。

まぁ一発目から凄いの三つとかよりもマシか。精神衛生上。


え、お前も三つ持ってるんだから良いだろって?

バカ言うなよ、うち一つは神様からのプレゼントだぞ。

さらにもう一つは効果が面倒くさすぎて使えていない。

逆に使いやすいヤツはエリーセと被っている。


次はエス…は最後にして、ルキナを見ようか。

明らかに何かあるだろうヤツは後回しにするのが一番。




異能タレント

強運の右手ラック・ライト




…あー、これかぁ…

この異能は結構レアリティ低いし、しかも上位互換が四個くらい存在するからなぁ…


…うん、もう何も言うまい。

次、アリスにしよう。




異能タレント

豪運の右腕ハイラック・ライト



即落ち二コマみてぇな速度でルキナの上位互換が来た!?

でもまぁ、ワンランクしか変わらないヤツだな。

これで『伝説級の運ラック・レジェンズ』とかだったら流石にルキナに同情を隠せなかった。


…次行こうか。

キュイセラ……どうだろ、アイツも意外と無しだったりしてな。




異能タレント

超怪力ハイパー・パワー




意外と使い勝手良いやつじゃん。

なるほど、見た目にそぐわぬデカい武器を持っているなーとは思ってたけど、まさかそういう理由だったとは。

本人もわかってんじゃねぇのかな。

いや、もしかしたら自分の筋力が凄いと思っているだけかもしれないけど。


……さて。

最後にエスだけど…まぁ、俺よりもしょぼい異能持ちであることを祈ろう。




異能タレント

・スキル獲得速度上昇

・不撓不屈

・騎士の誉




――スキル獲得速度上昇はその名の通りの効果。

不撓不屈は強靭な精神力を与え、しかも意志の強さに応じた分自分を強化してくれる。

騎士の誉は、自分が騎士として正しい行いをすればするほど剣術が精錬されていく。


結論。

全部高レアリティ且つ優秀な異能じゃないか!!ふざけんなこのやろー!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る