第33話 合格発表を見よう
「ふぅ……我ながらすごいな。ついに四人同時に抱いちまうなんて」
ベッドに腰かけ、背後に目を向ける。
そこには、白濁とした液体に塗れ、荒い呼吸をし、虚ろな目をして横になっている皆の姿が。
これ以上は言わなくてもわかるだろう。
俺は試験終了と同時に帰宅し、そのまま四人(ルフェイは学校で一人だった所を拉致してきた。無論双方合意の上だが)とハッスルしたのだ。
――数日開いたからなぁ…俺の方も、今回は結構疲れたな。
『あのー、マスター。少しお時間よろしいでしょうか?』
「んぁ?全然いーけど。何かあった?」
『いえ。あまり大した話題では無いんですが……その、ルーデンス領付近に大災害級の魔物が現れまして』
それは大した話題ではないのか。
いや、俺にとってはあまり大きな話題でもないけど、他の人からしたら結構な大事件だと思うんだよ。
大災害級だぞ?
「因みに予想だとどれくらいで被害が出る?」
『えーっとですね。大体一時間後くらいには領地の中心地に来るかと。今回の魔物の基本情報を調べた感じ、中心地でも無ければ何もしてこないはずです』
「被害を沢山出すのを好むタイプか。目につくもの全てを破壊するタイプじゃ無くて助かったな」
おかげでシャワーを浴びる時間がある。
中心地での戦闘となれば、流石に人前に出る事を考慮しなくちゃいけない。
仮にも領主の息子として、事後そのままの姿を晒すわけにはいかないからな。
え?それなら「仮にも領主の息子なんだから、もう少し節度を持った行動を云々」?
バカ言っちゃいけねぇ。
俺はこの数日程度の半禁欲生活だけで苦痛だったんだぞ。
七歳の時にエロい体したシスター服の女を親の金で買ったんだぞ。
んな奴が理性的な行動ができると思うか?
できねぇんだよ。
「一応タイマー付けといて。後予想目標地点とそこへの経路」
『あいあいさー!』
※―――
「ふふ、ふふははははははは!!良いぞいいぞ!その恐怖に歪む顔!ただ逃げる事しかできない弱さ!実に愉快だ!」
『権限主張』でヤツがいるとされる場所まで来たが、どうやらまだ殺戮どころか破壊も始まっていないらしい。
良かったよかった。
恐れ戦き、悲鳴を上げて逃げ惑う人々の波を見ながら、上空に居る魔物(
平然と空を飛ぶな、と言いたいだろうが、これもハルバチェンジャーの機能なので俺は悪くない。
まぁ俺自身の力で空を飛べって言われても、いくつか方法があるが。
にしても随分と醜悪な顔だ。
前に戦ったヤツが中々なイケメン顔だったせいで、余計にコイツの顔の残念さが際立つ。
「――あ?誰だ、お前。なんで空に」
「質問しているのはこっちだッ!!」
『えっまだ何も聞いてませんよね!?』
え?――あっ、そうだった。
普通に何も聞いてなかった。何してんだろ俺。
「…んんっ。えーっと…とにかく。お前はこれから何をするつもりなんだ?」
「…先に質問したのは俺なんだがな……ま、この町を破壊して、ついでに人間ども全員ぶっ殺すんだよ。わかんだろ、俺魔物だぞ?」
「理由とか、やむにやまれぬ事情とかある?」
「理由?はっはははははは!!ある訳ねぇだろそんなもん!人間殺すのに理由がいるかよ!!」
「あっそ。――領民たちの視線も集まって来たしそろそろ終わりにしよっか。『
高笑いをしたまま、体を後方へ仰け反らせる魔物。
そんなヤツの体が一瞬で潰れ、球状になり、どんどんとサイズが小さくなっていく。
最終的には視認できないくらいのサイズになり、地面へと落ちていった。
戦闘終了。
実に呆気ない終わりである。
「―――なんだろう、この虚無感。珍しく何もない戦闘…戦闘?だったな」
『まぁ、マスターとちゃんと戦える人なんて、それこそ魔王くらいじゃないですかね?』
「言っとくがヴァルミオンも最終的には俺に一方的にやられてたぞ。一応」
今はわからんけど。
十五年。十五年の間この世界を生きてきて、未だに本人に会う所かヴァルミオンの目撃情報すら聞かないのだ。
きっとあの空間かそれに準ずるところで鍛錬しているんだろう。
負けず嫌いだもんな、アイツ。きっと俺に勝てるくらいになろうと頑張ってるんだろ。
「――ドロップアイテム、なんかレアなヤツあった?」
『あー…いえ、特に何も。前回の方が良い物落ちてましたよ』
「…本当に色々と残念な個体だったんだな。――帰るか」
※―――
結果発表までは時間がかかる、と筆記試験の時に白頭の試験官から言われていたが、試験終了から三日後には既に結果の張り出しが始まっていた。
試験が始まるまでの方がよっぽど長かったし、こちらの方が早く感じて当然だとは思うが。
「…にしても人の数、多すぎやしねぇかな」
「あはは…まぁ、皆すぐに結果が見たいでしょうしね。――アレイさんだって、こんな早くからきてるじゃないですか」
「お前の方が早く来てたろ」
二人とも結果が見えない場所から動けていないので、大差はないがな。
前の方には、俺達と同じチームになったあの四人の後ろ姿が見える。
アイツ等どんだけ早く来たんだよ。
「…仕方ねぇか。ちょっと反則技だけど…」
「え、何するん―――ッ!!?」
ジャーバルが絶句したのは、目の前に居た人達が一斉に左右に掃け、俺達二人が丁度通れるように道を開けたからである。
その様子はさながらモーセの十戒。
海を割った彼のように、俺は人の波(動いていなかったが)を割ったのだ。
――なーんて大仰に言ってみたものの、実際は支配魔法でどいてもらっただけなんだけどね。
さて、これで待ちに待った結果が見られることになった。
さぞいい点数が出ているに違いない。
なんせ(神学以外の)筆記系試験は自己採点時点で全問正解。
実技系試験はもはや俺の無双で終わったような物。
首席合格かなー?
上の方を見てみる。
名前はない。
ついでに番号も無い。
――ま、まぁ。神学が怪しかったしな。
合格していれば御の字って事で。
流石に
名前はない。
勿論番号も無い。
――え、マジで?そんなに神学って重かったっけ?
これもしかしたら不合格もあり得てきたぞオイ。
まさかな、と思いながら下の方を見る。
名前がある。番号もある。
……一番下の所に。
「あ、アレイスター・ルーデンス……補欠、合格…?」
声が震える。
ついでに視界も震える。
涙は流れていないが、目頭が若干熱い。
「やったぁ!僕
隣から聞こえる嬉しそうな声に、惨めさをさらに感じる。
…え、マジで?何がダメだったん俺。
神学?怖すぎて自己採点しなかったけど、そこまで酷かったん?
エリーセにあんなに教えてもらったのに?
いや確かに空欄多かったけども。
「…帰ろ」
「あれ?アレイさんはどうだったんですか?もしかして首席合格とか――」
「
「え?」
小さく呟いただけなので、きっと純粋に聞こえなかっただけなのだろう。
しかし今の俺には、俺を小馬鹿にするためにわざと聞き返してきているようにしか思えない。
「
「えっ?下級?アレイさんが?」
なんの冗談ですかと言いたげな目を向けてくるので、俺の名前が書いてある部分を指さし、そこを見るように促す。
――あ、硬直した。
現実が受け入れられないタイプの硬直だ。
「…え、アレイさんってそんなバカでしたっけ?」
「まさか。スマ子の補助があるとは言え、支配魔法を使うくらいの頭脳はあるんだ。馬鹿って事はまずない」
「じゃあなんで補欠合格なんですか」
「俺に聞くなよ。神学くらいしか思い当たる節がねぇ」
「そう、ですか―――え、神学?神学って…もっとも重要視されるって言う?」
ジャーバルの言葉に、素直に頷く。
付け足すようにして「神学は殆ど空欄だし、埋めた所も合ってるかどうか怪しい」というと、ヤツは物凄く呆れた顔をしてきた。
おいおい、なんだその目は。
最初っから諦めて何も書かないで終わらなかっただけマシだと思っていただきたい。
スマ子という名のカンニングもしなかったしさ。
「――はぁ……まぁ、いいです。合格できただけいいんじゃないんですかね」
「人を限りなく小馬鹿にした溜息をやめろ。――別に、神学ができないからってなんだって言うんだよ。学校に入れただけ全然いいし。卒業後はどうせ冒険者として活動するだけだから就職とかで困らねぇし」
「冒険者ですら死に際は神に祈りますよ」
神に祈るのにも知識が必要なのか…いや、懐狭すぎだろこいつらが信じる神。
俺なんて、若くして飛び降りたらお望み通り(?)異世界転生だったけどな。
そもそもこの先しばらく死ぬことは無いし。
「…まぁ神学の必要性云々は置いておいてですよ。
「なんだその言い方。まるで下級クラスだったら何か不味いみたいな口ぶりだが。生憎と俺の両親も家族も嫁たちも俺の学校のクラス云々で嫌ったり遠ざけたりするような真似はしないぞ?」
「いやそこはどうでもいいんですが。――ほら、あまり大きな声じゃ言えませんけど…下級クラスって、教室とか寮とか最悪って話じゃないですか」
『クラス』。
王立バンデルセン学園に入学する際に真っ先に決められる物。
意味は前世の学校における組と同義。
だがその重みは前世のソレと圧倒的に違う。
上級、中級、下級の三つに分けられ、それぞれに合った学習内容で指導される。
一応半年ごとにクラス替えはあるのだが、下に落ちる事は有れど上に上がる事はまずない。
まぁ、いくら努力しても越えられない壁と言うのはある。
俺みたいにその壁を取っ払ってもらった状態で鍛えでもしない限りは、人には限界があるのだ。
――で、学べる事でもかなりの差があるというのに、寮生活や生徒同士の立場に差がないわけが無い。
上から順に、スマ子から得たデータで比較してみよう。
『
・かなり優秀であり、将来有望とされる生徒が入るクラス。
・部屋は完全個室で、ルームサービスも完璧。
・トレーニング施設は勿論、寮内の図書館は全クラス共有のソレに比べかなりの蔵書数を誇る。
・食事も豪華で、ビュッフェスタイルで毎日違うメニューが出される。
『
・一般的な生徒はこのクラスに在籍する。上級の授業について行けずに落ちてくるものも一定数おり、三クラスの内最も数が多い。
・寮は田舎貴族の邸宅(ルーデンス家の家よりも質素)くらい。二人で一部屋。
・人数が多い分、広さはあるが器具が少ないトレーニング施設になっており、寮内図書館も本が少なめ。
・食事はビュッフェスタイルではないものの豪華。時々同じ食事が連続して出てくる。
『
・落ちこぼれの掃きだめ。落ちずに済んだだけ喜べという扱い。このクラスに転落したら自殺モノという噂。実際何人か死んでる。
・寮はもはやお化け屋敷。埃が酷いし虫たちも元気いっぱい。幽霊も居るらしい。
寝室?男女別で雑魚寝だ!
・トレーニング施設?外出許可とって王都の外で鍛錬してこい阿呆。本?ボロボロの廃棄処分予定だったモノで良ければどうぞ?
・食事。高級食材(の一部)を渡され、後はご自由にどうぞ。台所だけはいつも光り輝いているぞ。
「…あー…まぁ、何とかなるでしょ。物の持ち込みとか禁止されてるわけじゃないし」
「治安も、他のクラスの人からの扱いも悪いとか…」
「周りからの扱いなんかどーでもいいだろ。治安が悪かろうが俺に勝てる奴なんていないって実技試験で証明されてるし」
心配してくれるのはありがたいが、どれだけ俺がこれから必ず行かねばならない場所のネガキャンばかりするのだろうか、コイツは。
可愛い顔して中々腹黒いし…今まで俺がさんざん自分の力を自慢していた事を、結構根に持っていたのかもしれない。
「…ま、アレイさんの事だから、結局何とかしちゃうんでしょうね…」
「当たり前だろ?まずは寮を貧者の塔の倍くらい大きく改装してだな」
「あの塔の倍は明らかに要らないでしょ!?」
他の生徒たちの支配状態を解除し、この場を離れる。
まさかの下級クラススタートにちょっぴり驚きはしたが、その程度だ。
今の俺に何とかできない事はない。
在学中の三年間で、すごいすごいと持て囃されまくって見せようじゃないか。
―――神学以外で!
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