第24話 リッチと戦おう


竜人の里へ行った時と同じ方法で移動し、件のリッチ…ザオラという男がいる場所までやって来た。


「…ははー、なるほど。確かに強そうだ」

「ほう…まさか、単身で挑みに来るような者がいるとは」


赤と黒のローブに身を包み、愛でるようにして厚めの本を撫でている人の後ろ姿を見て、なんとなく溢す。


僅かに覗く体の一部は白骨化しており、動くたびにカタカタと音が聞こえてくる。

その声は若々しい男のソレだが、発せられるオーラは老練な物で、長い年月を経て精錬されたのだろうと感覚的に理解させられた。


――これがリッチか。


「はは、まさか子供が来るとは思わなんだ。齢十二、と言った所か」

「…そっちは、まだ六百年程度しか生きていないのか。リッチって言うくらいだし、千年は普通に生きている物だと思ったけどな」


記録に残っている中で、一番長く生きていたリッチは三千歳だと言われている。

そう考えると、奴はリッチにしては若輩…成長途中だろう。

言うてリッチは誰もが成長途中なんだけどさ。


一応、コイツのステータスを晒しておくか。




【ザオラ/年齢634/男】

種族:リッチ

職業:魔導探究者

レベル213

『各種能力値』

・攻撃→18

・防御→23

・魔力→十六万

・魔攻→三万

・魔防→一万

・敏捷→9

・運→22

・その他の能力値→それほどでもない

技能スキル

・魔導書魔法

・魔のオーラ




正直期待外れ、と言うべきだろうか。

確かに魔法関係の能力値はこの世界の人間にとって脅威となりうるものだが、スキルが少なくタレントがないと来た。

俺のようにほぼリッチみたいな奴(長い時間を強さを求めて消費した)と戦うにしては、少々物足りないと言えるだろう。


「…これは俺が強くなり過ぎたのか、はたまたコイツが弱いのか…」

「私が、弱いだと?ははは!笑わせる。あまりの大差に気でも狂ったか?」

「…まぁ、大差って所は否定しないけど。普通はそっちが狂う方だと思うな」


俺のステータスはほぼ全盛期に戻っている。

多少不足しているものの、この世界では負け無しと言って良いだろう。


それに対してリッチの方は…強いとは思うが、まぁまぁかな程度。

負ける要素は無いし、強者の戦い方を学ぶつもりで行こう。


「……『朱の失墜クリムゾン・フォールアウト』」

「『反転リバース』」


言葉を交わすつもりを無くしたのか、ザオラは魔法を放ってきた。

火属性の適性…恐らく灼熱属性か?


木々を焼き払うような勢いで落下してくる巨大な赤色の光線に、反転魔法の魔力障壁を展開して応戦する。

反射させられた事によって魔法同士が衝突し、自ら相殺し合っていく。


「…な、なんだその魔法…?新たな属性でも開拓したのか…?」

「いや、一般的に知られてる魔法だよ。使える奴は俺くらいだけどな。ほら、次は?」

「…ははっ、面白いじゃないか!『焼き尽くす炎の矢バーニング・アロー』!」


ザオラの背後に大量の魔法陣が出現し、そこから矢の先端が顔を覗かせた。

物凄い熱気を放っているためか、空間が揺らめいて見える。


恐ろしい魔力消費効率だな。

触媒らしき物なしでこの量を一度に…目に見える魔力消費なしでやってのけるか。


内心舌を巻いていると、奴はその手を振り下ろし、矢を一斉に射出した。


「『権限主張・模倣』、重ねて『権限主張・属性変更/水』」

「なに!?」


最初の『権限主張』により、俺の眼前に先程ザオラの背後に並んでいた赤い魔法陣が、同じ数出現した。

続く『権限主張』により、その魔法陣が全て青色へと変わり、覗いている矢は透明な…液体のような物へと変わった。


その全てを、今俺へと向かってきている炎の矢に向かって射出する。

威力はほぼ同程度。

全てが相殺し合い、時折どちらかが競り勝ってそのまま直行していった。


「まさ、か…その魔法、支配魔法か!?」

「ご名答。最初に使ったのは反転魔法で、権限主張は支配魔法の産物だな。初めて見るだろ?俺以外の誰にも使えないって話だからな」

「―――…は、ははははははははははッ!!!面白いッ、面白いぞ!!永く生きた甲斐があった!まさか伝説上の魔法を現実に扱う男と出会えるとは!」


フードがとれ、ようやくその顔が見えるようになる。


骸骨そのものと言った顔は、眼窩が緑色に怪しく光っており、口元がその感情の高ぶりを抑えきれていない為か、ガタガタと震えていた。


…なんというか、アンデッドってこんな感じだよなって思う見た目だな。


「良いだろう!ならばこちらも本気で相手しなくてはな!!起きろ魔導書グリモワール!その力を発揮する時だ!」


魔導書というのは、本来使えない属性の魔法も扱えるようになる素晴らしいアイテムだ。

その代わり魔導書魔法という技能を修める必要があり、普通の人はまず使おうとしない。

仮に技能を入手した所で、使う魔導書の質が悪ければ魔法の方も弱い物しか使えなくなるし。


――ま、あのリッチはしっかり良い魔導書を使ってるみたいだし…感じる魔力も、中々な物だな。

コイツは期待できそうだ。


「『魔導魔法・激凍の槌マジカルマジック・フローズンハンマー』!!」

「…おぉ、でっか」


パラパラと捲られていたページが突然止まり、魔導書そのものが青色の光を放った。

すると、氷でできた巨大なハンマーが姿を現した。

そのままハンマーは俺へと倒れこみ、冷気を放ちながら迫って来た。


「『支配者の遊戯マスターズ・プレイ』」


試してみたかった事を、早速試す。

魔法を支配することができるこの魔法を魔導魔法に発動した場合、支配対象が何になるのかが知りたかったのだ。


――そして結果は、魔法が動きを止め魔導書には何も変化が見られない事によって伝えられた。

ようするに、魔法そのものは普通通り支配できても、魔導書まで一緒に支配できるというわけではないという事だ。


「…ま、そんなうまい話があるわけでも無いか」

「この攻撃も防ぐか…なら、『魔導魔法・斬り裂く暴風マジカルマジック・スラッシュトルネード』!」

「『権限主張・模倣』」


巨大な竜巻に対し、もう一つの試したい事を実践する。


その内容はずばり、普通の魔法に使う模倣で魔導書魔法をコピーする事ができるのかという事。

魔導書魔法と普通の魔法は厳密には違う物だという話があるが、果たしてどうだろうか。


「…お、出ないのか」


数秒待っても、竜巻は発生しない。

どうやら魔導書魔法を模倣するには別の方法が必要なようだ。

…そもそも模倣できるのか謎だが。


取り合えず今迫ってきていた物は『多重反転歪曲空間バニッシュメント・フィールド』で消滅させた。


「…なんでもあり、か…」

「あぁ、なんでもありだな。支配、反転、そして簒奪。この三つの魔法があれば大抵の事はできるって言っても過言ではない」

「…本来なら、どれも人間には扱えないような魔法なのだがな」

「それだけ修練に励んだって事だ。褒めてくれていいんだぜ」


ザオラは答えない。

代わりに、魔導書を白く光らせ、背後に赤色の魔法陣を複数展開し、躊躇なく両方を放ってきた。


白く光った方…光の魔法の方は、剣のような見た目をした物が。

赤色の魔法陣…火の魔法の方は、再び炎の矢が。


「同時にも使えるのか!これは意外だな」

「…一瞬で、全てを消した…?いや、それにしては砕け散ったかのように見えたが…」

「『全破壊オール・ディストラクション』。俺の能力スキルだ」

「私の知る技能スキルの中に、そんな名前のものは無いのだがな」


技能じゃなくて能力なんだけどな。


互いに一歩も動く事無く、攻防が続いて行く。

大威力の魔法のぶつかり合いに、木々が悲鳴を上げる。


リッチ自体はそれほど強く無いが、魔法の使い方に関してはやはり勉強になる点が多いな。

魔法もただ乱雑に使うだけではなく、前に使用した魔法との組み合わせとか、相性とかを意識する必要があるようだ。

目に見える魔力消費の差とか、独学じゃなんとも出来なかったからな。


「…でもまぁ、そろそろ終わりにするか。『盗賊王の無法伝説・四章スキル・テイク』」

「…今、何を」

「なるほど。自身の魔力を威圧感…オーラにして、相手を恐怖させる…か。全然恐怖心も何も感じなかったけど、発動してたのか?」

「それは魔のオーラの…!?」


はい、これも簒奪魔法です。


今まで使ってきたのは、魔法と所持品の簒奪。

だが今回使ったのはスキル。

技能も能力も、それの正しい名称さえ知っていれば奪えるのだ。


神様曰く、簒奪魔法の使い手がまだ多くいた頃は、自分のスキルについて明かさない事が第一とされていたらしい。


勿論今回は魔導書魔法も貰った。

今度魔導書を買って…あぁ、いや。自分で作った方が良いかもな。


いよいよ冷静さを失い始めてきたザオラに、右手の人差し指を向ける。

ただの指差しだと言うのに、奴は大仰に後退り、右手に魔力を集めた。


今まで使っていない魔法だな。

先に打たせて、どんな物か見てみるか。


「――どうやら、貴様には私を屠るだけの力が…圧倒的な力があるようだ」

「えっ、気づいてなかったのかお前」

「だからこそ、我が身を亡ぼす程の一撃を――全身全霊の一撃を以って、貴様を相手しようと思う」

「無視か……ってか、我が身を滅ぼす程のって、自爆するつもりか?」


それは困る。

というか萎える。


そんな必死の一撃、とかそういうのじゃなくって…こう、普通に戦って欲しいんだけど。

後、理性とか自我を失っての攻撃とかもやめて欲しい。

そんな力の限り暴れるだけの戦い方をされても、駆け引きとかそういう物がなくなっちまうからな。


――まぁ、俺自身が強すぎるから、現状戦いに駆け引きも何も無いんだけどさ。

要はアレだ。相手の戦略とかを上から叩き壊すのが好きなだけだ。

我ながら嫌な性格をしている。


「ははっ、自爆ほどではないさ。ただただ、持っている魔力の全てを消耗して放つ一撃…属性関係なしに放つことのできる。ソレを使うだけの事」

「『最後の輝きラスト・ブライト』か…確かにそれなら自爆じゃないか」


それでもこれでラストか。

…まぁ、どうせ『死の刻印エンド・サイン』使う予定だったしいいか。


ザオラの右手が輝き、甲高い、金属同士が擦れ合うような音が響き始めた。

最後の輝きラスト・ブライト』発動前の、魔力が凝縮されていく時の音だ。


発動後はしばらくの間魔力が一切使用できなくなるものの、他の追随を許さない威力を誇る魔法だ。

…発動者の魔力量に依存する節はあるが。


「でも無駄だぞ?どうせ『多重反転歪曲空間バニッシュメント・フィールド』で消えるんだからな」

「ふ、っははは…!馬鹿め。いくら貴様でも、私の全魔力を消費した攻撃を完全に無力化できるとでも!?」


いやできるだろ。

俺の現在の総魔力量七億だぞ。


対してお前…十六万だろ?

桁が何個違うと思ってるんだよ。

まぁ俺の魔力量知らないから仕方ないんだろうけどさ。


カタカタと歯を鳴らして笑うザオラに、こちらはなんだか気力を失っていく。

いやいや、別に良いんだけどさ。

なんだかこう…わかる?


「…『多重反転歪曲空間バニッシュメント・フィールド』」

「『最後の輝きラスト・ブライト』!!」


極光が、俺の視界を塗りつぶす。

ザオラの持つ全魔力が、ただ俺を屠るためだけに放たれたのだ。


しかし、その魔力が俺に届くことは無く。


「は、ぁっ…!?け、消した…!?」


俺にとっては予想できていた結果だが、ザオラは信じられないとばかりに声を絞り出した。

緑の光が灯る眼窩が、まるで瞬きしているかのように点滅しているのが、どこか滑稽に思える。


「自分の魔力の総量くらいわかってるだろ?だからお前は、俺には絶対に勝てると思った。普通の人間なら、500もあれば良い方だからな」

「…そうだとも。私の魔力の総量は、数字にして十六万。文字通り…のはずだ」

「お前が桁違いなら、俺はだろうな」

「何?」


今の言葉かっこよかったな。桁違いに対して桁外れか。

また使う機会来ないかな?


魔力を使い果たした弊害か肩で息をするような動きを見せるザオラに、俺は右手の人差し指を空に向け、ステータスウィンドウを開示した。




【アレイスター・ルーデンス/年齢12/男】

種族:超人

職業:貴族

レベル:46

『各種能力値』

・攻撃→約三十七億

・防御→約二十九億

・魔力→約七億

・魔攻→約九千万

・魔防→約六千五百万

・敏捷→約十億

・運→67

・その他の能力値→前世と同程度

能力スキル(使用時期上位五つ)』

・脳内秘書スマ子ちゃん

・深淵のオーラ(魔のオーラ)

全破壊オール・ディストラクション

虫が知らせる新たな事件デンジャー・トーカー

フラグ建築は主人公の特権フラグ・アッパー

異能タレント

全ては所詮遊戯に等しくゲーム!ゲーム!ゲーム!

届かぬからこそ手を伸ばすオール・オーバー・ザ・ワールド

時を換金タイム・トゥー・マネー

『状態』

・欲求不満(性欲)

『設定』

・年齢制限/無

・ゴア表現/有

・ドロップアイテムシステム/有

・言語サポート/無




「なんだ、これは…まるで、かの水晶玉を使用したかのような…」

「俺の異能タレントでな。こうして自分の情報をある程度公開できるのさ」


本当はそれだけじゃ無いんだけど…まぁ、説明する程でもないしいいか。


かつてヴァルミオンに使った時のように、背後に魔法陣を出現させる。

『死の刻印』の発動準備が完了した証だ。


ザオラの方は、その威圧感にさらに後ずさり、骨だというのに冷や汗を流した。

…どこから出てるんだ、アレ。


「これで最後だしな。せめて楽に終わらせてやるよ…『死の刻印エンド・サイン、壱の刻』!!」

「ぐぅっ!?」


巨大な骸骨の指先が、ザオラの体を突く。

黒い瘴気がヤツの身を包み、突かれた一点に集った。


『Ⅰ』の文字が刻まれたザオラは、はじめは苦悶の声を上げたモノの、少したってあることに気づき顔を上げた。


「――何も、ない?…はは、止めの一撃と言っておきながら、不発だったようだな!」

「いや、これで良いんだよ。――お前の胸元、『Ⅰ』って刻まれてるだろ?それがある限り、お前は死から逃れられない」

「…リッチが死ぬとでも?私を滅ぼすには、魔法か聖なる力でなければ届かないのだぞ?」

「自分から弱点を言うのはあまりお勧めしないが…まぁ、その通りだな。普通なら、その二つが無けりゃリッチは倒せない」


だからこそ黙示録の殲滅者達アポカリプス・メンバーズから討伐隊に参加するのは『幻影の殲滅者ファントム・デストロイヤー』と『信仰の殲滅者フェイス・デストロイヤー』の二人なんだ。


だが、俺の『死の刻印エンド・サイン』の与える死はただの死じゃない。

終わり…終焉なのだ。

不死だろうが何だろうが、問答無用で終わらせる。


実際屍人ゾンビで何度か試した時、一度の失敗も無く正常に発動したからな。

リッチとそこら辺の低級不死ロウ・アンデッドを比べるのもどうかと思うが。


…あ、『幻影の殲滅者ファントム・デストロイヤー』と『信仰の殲滅者フェイス・デストロイヤー』については話さないぞ。

俺も二つ名しか知らないし。


「だが俺のこの能力は、何が対象だろうと等しく『死』を与える。無論蘇生の魔法も能力も効かない。唯一コイツが意味をなさないのは、あの空間の中だけだ」

「あの空間?」

「言っても理解できないだろうさ。――そして、呆気ないが終わりだ。『起動』」


刻印が黒く輝き、そして霧散する。

すると、ザオラの眼窩から光が消え、体がゆっくりと崩れ落ちていった。


地面に激突する直前に、体がコミカルなエフェクトと共に消え、代わりに宝箱が四つ現れた。


「…ドロップアイテムシステム、リッチでも発動するのか」


本当に、全部ゲームみたいだな。

小さく呟いてから、宝箱を開く。


中には、大量の金貨が入った袋と、派手な装飾の施された杖が二つ…後は、奴が着ていたローブが入っていた。


――取り合えず持ち帰って、後でどんな物か確認するか。

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