閑話 エリーセと、交わろう/シェスカの日記


突然だが、俺の体は前世のそれと何ら変わっていない。

鏡を見る度に思っていた事だが、成長するにつれて過去の俺の姿に寄っている気がしたのだ。


そこで、色々やって神様に確認を取ってみたら、前世の肉体と変わらないようになると言われた。

そのために両親は黒髪の人を選んだし、日本人的な顔つきの家に生まれるようにしてくれたのだとか。


何故か、と聞いたら「元々の家族と再会した時に、家族に違和感を与えさせるのは可哀そうだから」と言われた。

正直、その優しさに泣いた。


――話を戻そう。


俺は昔から、成長が早かった。

小学生の時に陰毛が生え始めるくらいには早かった。

小4の頃には精通もしていた。


小4。大体十歳の時だ。


その頃には既に女体に興味深々だったし、図書室から「人体の秘密 女性編」を何度も借りていたのは今でも懐かしい。


そして今の俺は十一。

性欲はかつての倍以上。

そして、勃起も精通もようやく可能になった。


「さらに、俺には最高の――それはもう、最高の女がいる……!!」

「最高だなんて…ふふ、嬉しいです」


魔力の光を極限まで弱めた部屋の中、市場で買ってきた催淫効果のある煙を出すお香によって色気が通常時の二倍近くになっているエリーセが隣に座っている。


無論その服は部屋着である薄布――ではなく、普段着のシスター服。

俺の要望で、この服をでいてくれるのだ。


「…え、えーっと…エリーセ。何度も言ったと思うけど、俺って前世含めて未経験者だからー…」

「えぇ、はい。大丈夫ですよ。――でもご主人様、いっつも私を激しく責めてくれるじゃないですか。もう私の事なら、隅々までわかっているんじゃないですか?」

「そりゃどこが弱点か、とかどこを開発したか、とかくらいは把握してるけど……やっぱり、いざするとなると不安でさ。まだ子供の体だから、勃つって言ってもサイズは俺の知る分よりも大分小さいし」

「ふふふっ、大きさなんて気にしませんよ。――そもそも、快楽を求めるだけなら前戯だけで十分満たしてくれるじゃないですか」


次第に俺の方へと距離を詰めてくるエリーセに、こちらもこちらで近づいていく。


まだ肌は触れ合っていないが、互いの熱は感じられるような距離だ。


心臓の拍動はかつてないほどの物になっているし、目はきっと血走っているのだろう。


対してエリーセは、とても落ち着いた様子だった。

自然体…というわけもなさそうだが、俺よりはテンパっていない。


大人の余裕なのだろうか。

俺より年下(精神年齢)なのに。


「それに私、嬉しいんです。やっと、やっと願いが叶うのだと」

「…願い?」

「はい。――私の異能タレント、覚えていますか?」

「えーっと…『全ては所詮遊戯に等しくゲーム!ゲーム!ゲーム!』と、『淫魔憑きエロティック・レディ』…だっけ?」


朧げながら覚えている。

どちらかと言えば技能欄にある『極上性交』の方に心を惹かれていたが、こちらもこちらでそそる名前をしていた。


しかしこれと夢とがどう関係するのだろうか。

未だにエリーセについては不明な点が多いが(なんだかんだ聞く機会を逃している)その疑問の一つが解消されるのだろうか。


「はい。――『淫魔憑きエロティック・レディ』という異能タレントは、厳密には能力ではなく…呪われた者の証なんです。淫魔サキュバスに憑かれている証」

「憑かれてるって…そんな感じしないけど」

「えっと、ステータスを見たならわかると思うんですけど……私の名前の所に、もう一人の名前が書かれていましたよね?」

「――あー…なんだっけ、メレーネだっけ?」


もしやそれが、エリーセに憑いているサキュバスの名前なのだろうか。

…今まで一度もメレーネらしき存在と会合した覚えはないが。


「はい。――もう、察しているかもしれませんが…メレーネは今も、私の中に居ます。心の、奥底に」


頬を上気させ、次第に息を荒げるようにしながら、エリーセは続ける。

身にまとう妖艶さは、さらに過激で刺激的な物へと昇華されていた。


「…彼女は、今も私に囁くんです。ご主人様を愛すると、ご主人様に愛されたいと思ったその日から、ずっと……ご主人様と、まぐわえと」


ついに、彼女の手が俺の肩に触れた。

とても熱い。まるで熱せられた鉄のようだ。

彼女の体が、どれほど火照っているのかが良くわかる。


耳元で吐息と共に囁かれる言葉が、ひたすらに俺の理性を痛めつける。

本能が今にも鎖から放たれ、それこそ初めて彼女の肌に触れたあの日以上の獰猛さを以って貪ってしまうだろうと予期させる。


あぁ、熱い。

脳の髄までもが蕩けてしまいそうだ。

まだ何もしていないのに、腰が砕けてしまいそうだ。


「…好き、好きなんです。愛しています、ご主人様………けど、けれどそれ以上に私は、貴方と肌を重ね、けだもののように…ただ、ただただひたすらに交尾したいのです。――幻滅しますよね。貞淑な女の皮を被っておきながら、本当は心の奥底から響く誘惑の声に扇動されるがまま、愛する主様に、犯される事を願い続ける淫乱でしかないだなんて…」

「い、いや。そんな事は無い…だろ。寧ろ俺としては、そこまで俺との…行為について想ってくれているだけで、全然嬉しいっていうか…」


上手く言葉が出てこない。

彼女の表情を曇らせる、その不安を払拭してやりたいのに…何もできない。

気の利いた言動の一つも思いつけない。


そんな自分が情けなく、次第に俯いてしまう。


すると、彼女は肩を抱いていた手を離し、俺の右手に絡ませてきた。

指と指の間に、彼女の脈拍を感じる。

俺に負けず劣らずの速さだ。


「ご主人様。奴隷の身でありながら頼み事をするのが、いかに非常識な事かは重々承知しております。…その上で、構わないでしょうか?」

「……うん。なんでも、言ってくれ」


頷き、彼女と向かい合うように座り直す。


彼女は何度か深呼吸した後、胸元を両腕の付け根で押し上げるようにして強調し、俺の方へ体を寄せて、口を開いた。


「――お願いします、ご主人様。私を――本能のままに、犯して、貪ってください」


――あぁ、これはダメだ。


理性というちっぽけな存在が、完全に失われた。

本能が、目の前にいる極上の雌を欲してやまない。


止める者は誰も居ない。

拒否されるはずもない。


なら後は、したい事をするだけだ。



――そして、俺は童貞を卒業した。


※―――



●月×日

皆から惜しまれながら、王直属護衛騎士を退職した。


だって、今の騎士団長…なんか暑苦しい人だし。

男なのに口調が一々女だし、恋人も男だし。

別にそこは否定するつもり無いけど、なんだかついて行けなかった。


まぁ、それを言ったらきっと傷つくだろうから適当に違う理由をでっちあげたけど。

元々給料それほど良くなかったし、前々からやめようかとは思ってたし。


…そしたら何故か、ルーデンス領の領主の所でメイドをすることになった。

しかも、新しく生まれた子供の専属メイドになれと言われた。


その子は男らしいけど…大丈夫だろうか。

貴族のイメージは、権力を利用して同意のない性行為を要求してくるような感じだけど…もしその子が成長して私の体を要求してくるようなことがあったらどうしよう。

不安だ。


※―――


◇月〇日

アレイスター様が二歳を迎えた。

めでたい事だ。


なんだか時々王直属騎士団…いや、ともすれば黙示録の殲滅者達アポカリプス・メンバーズの団長に匹敵するくらいの威圧感を出すような子だが、それ以外は可愛らしい物だ。

いずれは私も結婚し、子を成してみたいとも思う。


…それはそれとして、アレイスター様が生まれてからなのか前々からそうなのかは不明だが、毎晩毎晩ステラ様とマルティナ様が御熱すぎる。

毎朝の処理をしているのが誰だと思っているのだろうか。


私はあくまでアレイスター様の専属メイドなのに。


※―――


▽月▲日

アレイスター様が四歳になった。

まだ四歳のはずなのに、気味が悪い位に大人びている。

というか、四歳になる前からかなり大人びていた。

赤子の時なんて、泣いている所を見た所が無かったし。


何かからくりがあるのだろうか、と怪しんで常に付き従うようにしているが、なんらおかしな点が見つからなかった。

なんなんだろうあの人。


そうそう、アレイスター様が剣を誕生日に貰って、早速庭で振っていた。

自信満々な様子で剣舞を見てくれと言われたので、どれだけ下手でも褒めてあげるつもりでゆるーく見ていた。


そしたら、それこそ黙示録の殲滅者達アポカリプス・メンバーズの一員かと思わせるような剣舞を見せてきた。


なんなんだろうあの人。


純粋にすごかったので心から賞賛したら、なんかとんでもない威圧感をにじませながらさらに凄い動きも見せてきた。


マジでなんなんだあの人。


終いにゃ批評を求めても来た。


勿論、文句のつけ所は見つからなかった。

…私、ロイヤル・ナイトの中でも指折りの実力者扱いだったんだけどなぁー…


※―――


□月◎日


アレイスター様が七歳になり、外に出ることの許可が下りた。

相変わらず謎の言語を喋ってはいたが、心の底から外出を楽しんでいる姿は年相応で、可愛らしかった。


――ただ、途中奴隷が売られている路地に行って以降のわけがわからなかった。


七歳なんだよね、あの人。

私の知る七歳は、死ぬのは怖くないって言って抱こうとしたら殺してくるという話の修道女奴隷を購入し、真剣な顔をして「抱いてやる」って言うわけが無いんだけど。


…さっきだって、アレイスター様の部屋の前に行ったら、中から喘ぎ声みたいなのも聞こえてきたし。


七歳なんだよね?あの人。


※―――


●月☆日


今日はケイ様とルフェイ様の儀式の日だった。

ケイ様の天職が王だと知らされた時は流石に驚愕を隠し切れなかった。


というかあの人、選定戦に参加するつもりだったのか。

確かにケイ様ならある程度結果は残せるだろうけど…アレイスター様のせいで、どうも霞んで見える。


…まぁ、アレイスター様を基準にしたら私も霞んでしまうんだけども。


※―――


×月☆日


やけにアレイスター様の部屋から聞こえる声が大きいなと思ったら、ついにとうとうやることやっていた。

部屋の清掃に入った時、いつものエリーセが汚したのだろう所以外に多数の白濁とした液体が見受けられたので間違いないだろう。


――十一歳ですよね、アレイスター様…


因みにこの日は一日中、エリーセを真横に侍らせていた。

途中手を握り合ってにやけ合ったりと、そりゃあもう随分と御熱い様子だった。

…私もあんな相手欲しいなー…


※―――


▼月□日

アレイスター様の元に、竜人を名乗る白髪の男が現れた。

今日はアレイスター様十二歳の誕生日なのになんの用だろうか、と思ったら、約束が云々と言ってきた。


詳しく話を聞くと、今の竜人族の長の娘と結婚する約束になっている、と言われた。


何も聞いてないんですけど。


そして当事者だろうアレイスター様も何もわかっていない様子だった。


いや、私に聞かれても困るんですけど。


取り合えず今日は帰ってもらったが、明日またやってくると言われた。

…アレイスター様、何人と結婚する予定なんだろう。


もしあれなら私も貰ってもらおうかな。行き遅れちゃったし……歳の差的に無理か。

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