第17話 魔物と戦おう
「…で、その転生前の鍛錬中に…ヴァルミオン、という子と仲良くなりまして…そのまま、結婚を前提としたお付き合いをすることになり…は、ハーレムを作りたいんだと話したら、「寧ろハーレムくらい作って見せろ。しかし一番は妾じゃ」だなんて言われ……俺自身拒む理由も何もなかったので、どれだけ関係を持つ女性が増えてもヴァルミオンが一番だという風にしようと――」
「「ちょっと待って(ください)」」
身振り手振りを含めて説明を続けていると、今まで沈黙を守り続けていた二人が、もう我慢できないとばかりに口をはさんできた。
ルフェイは初めて聞く内容ばかりだからともかくとして、エリーセはヴァルミオン以外に新しい内容は言われていないだろうに。
一体何が気になるというのだろうか?
「ヴァルミオン?魔王で、しかもヴァルミオンって…あの?」
「その聞き方流行ってんの?――いやまぁ、そうだよ。普段は
「そこは今はどうでもいいんです。一番大事なのは……なぜ本来死んだはずの魔王が、ご主人様だけがいるはずの空間に居たのかという事で」
「それは言ったよ。死んだはいいけどこのまま生まれ変わるのはつまらないって事で、無理矢理輪廻の輪から外れて時空の狭間を彷徨い続けてたって」
「理解しがたい単語を複数同時にださないで」
「あ、ごめん」
つーかそうか。
ヴァルミオンはこっちの世界じゃ有名人なんだっけ。
無論悪い意味で。
こっちの方だとどんな感じに文献が残っているのか気になるし、今度探してみてもいいかもな。
…いや、それよりもアイツと再会して、今アイツがどんな風に語り継がれているのかを見せた時の反応を見た方が良いな。
驚くのか、笑うのか、はたまた別の反応か。
当初の剣呑なオーラも消え去っている二人に、俺も別の事を考える余裕が出てきた。
いやぁ。別に二人から物理的な脅威は感じないにしても、愛想を尽かされるのは恐ろしいからな。
説明とか言葉選びを一つでも間違えたら即死みたいな心持ちだったし、こうしてリラックスして会話できるようになったのは喜ばしい限りだ。
「…その、本当にヴァルミオンなんですか?」
「うん。なんなら、アイツから奪ったアイツ専用の魔法があるし、使って見せようか?『
「ぜ、『絶対魔壊ヴァルミオン』って、勇者と呼ばれた男が率いるパーティが一撃で壊滅まで追い込まれた技じゃ…」
「そんな逸話までは知らねぇなぁ…アイツ自身、相対評価とかを嫌うタイプだったからさ。戦った相手に勝った話とかは武勇伝として語りたがらなかったっていうか」
どちらかと言えば、新たな魔法を編み出したとかそういった内容の自慢を好んでいた。
別に戦いの武勇を全く語らなかったってわけでも無いんだけどさ。
「……その、アレイのいう話が真実なのかは、私には判断しきれないけど…」
「あ、なら俺の今のステータスを見てよ」
「ステータス?情報看破の水晶玉でも買ったの?」
「いや。俺の
見てて、と言って誰も居ない方を指さし、ステータスウィンドウを表示する。
…そこには、前に確認したものから大きく変化したものが映っていた。
【アレイスター・ルーデンス(佐野太郎)/年齢:7/男】
種族:超人
職業:貴族
レベル:1
『各種能力値』
・攻撃→789
・防御→667
・魔力→約十万
・魔攻→約六万
・魔防→99845
・敏捷→約三万
・運→67
・その他の能力値→前世と同程度
『
・脳内秘書スマ子ちゃん(メンテナンス、およびアップデート終了まで残り:三年)
・
・
・
・繝ュ繧ケ繝・繝ッ繝シ繝ォ繝(譛?蛻昴〒譛?蠕後?荳?謦)(現在使用不可)
『
・
・
・
『状態』
・欲求不満(性欲)
・寝不足
『設定』
・年齢制限/無
・ゴア表現/有
・ドロップアイテムシステム/有
・言語サポート/無
これは…次第に数値が元の物へと戻っているという奴だな。
少なくともMAX表示が来るまでは、このハイペースで上昇していくんだろう。
…というか転生してから毎日のようにトレーニングを続けてたおかげか、魔力の量が増えているような気がする。
もしかしたら、転生前のあの量よりもさらに増えているかもしれないな。
十五歳になるのが楽しみだ。
「ほら。こんな感じで、あの空間で鍛えた分の力を次第に体になじませていっているわけで……ルフェイ?」
「――ね、ねぇ、エリーセ。貴方は、王国騎士団の騎士団長…歴代最強と言われたあの人のステータスを覚えてる?」
「は、はい…」
「なら……あの人ですら、こんな数値は出ていなかった…わよね?」
「…はい…」
王国騎士団の騎士団長?歴代最強?
そんな人がいるのかってのも驚きだけど、なんでこの二人がさも当然のようにその人のステータスを知ってるんだ?
まさか、その人も『
…いやいや。だとしてもルフェイが知っているのはおかしいだろ。
だって俺よりも家の外に出てない人だぞ?
ステータスを開示している所を、わざわざ見に行くか?
まぁ、興味もないしどうでもいいんだけどさ。
「…とにかく、今ので俺の話の信憑性が高いって思ってもらえたならいいし、ヴァルミオンっていう女が俺の中で一番なのがこの先変わることは無いって事さえわかってもらえたらいい。――決して一番にしてあげられないって決まっているのに、付き合ってくれなんて言ってる俺の事を軽蔑するのは当たり前だと思うし、何なら思うままに甚振ってくれても構わない。どんな形であれ、二人の反応は真摯に受け止めたいと思ってる」
ウィンドウを消し、再び二人へ目を向ける。
正直、このまま二人から愛想を尽かされる可能性だってある。
寧ろ俺が逆の立場なら、唾を吐いてソイツを捨ててやるくらいだし。
果たして、どんな返事が……
「…私はまぁ、別にいい。まさかヴァルミオンなんてビッグネームが出てくるとは思わなかったけど…どうせ遅かれ早かれ人数は増えてたんだろうし、何より私が一番になれるなんて思っても居なかったから。あんまりショックは無かったよ」
「私も…一番になれない、と決まっているのは残念ですけど…それなら二番の座を狙えばいいだけですし」
意外にも、否定的な発言は出てこなかった。
――あぁ、良かったぁー……これで二人同時にフッてきたら、本気で立ち直れない所だった。
なら最初っからハーレムなんかやめとけって話なんだけどね。
そればっかりは俺の転生前からの夢というか望みというかだから、捨てきれないんだわ。
…とにかく、これで完全に修羅場は乗り越えたな。
安堵のため息をつき、俺はようやく正座をやめるのだった。
※―――
「…なんで今になってあの時の事考えてんだろ俺」
「Guu…Aaa…!!」
歯を剝き出しにしてこちらを睨みつけ、地に唾液を垂らし続ける…ワニみたいな獣。
そのワニこそが魔物であり、現在十歳を迎えた俺がステラさんからあることを許してもらえるようになるための試験で倒す必要がある相手である。
そのあることについてだが……ようはアレだ。
外出するときにシェスカ達がついてこなくても問題ないという事を、力を以って証明するのだ。
そしたら俺は自由に奴隷売り場を気兼ねなく回れるし、そこ近辺で売っているという、『そういう事』に使うアイテムや道具の数々を購入し、エリーセとの夜をより熱く燃え上がる物にできるのだ。
――因みに、ついにとうとう『前段階』にたどり着けるようになったため、直接的な行為までは行っていないが…エリーセから責めてくる機会が増えた。
彼女も彼女で、責められるだけでは満足できなかったらしい。
…あ、流石にルフェイとはしてないぞ。
正直したいけど、俺がエリーセとしていることに感づいたらしいシェスカやステラさんから釘を刺されているからな。
これでもし抱くような事をしたら、真面目に家庭が崩壊する。
「――力を示すにはコイツが良いだろうって…これ絶対諦めさせるために言っただろステラさん…」
まだワニと俺とはにらみ合ったままだ。
正直俺はあまり気負う必要は無いような気がするが、油断は大敵。
慎重に挑む。
最初ステラさんに「一人で買い物に行きたい」と頼んだ時は凄く渋られてずっと嫌そうな顔をされていたが、この条件を出すときにはすごく気楽そうというか――絶対できないだろ、と言いたげな態度を見せてきたのだ。
まぁ俺の現在のステータスで負けるわけがないだろう、と調子に乗って二つ返事で受けてしまったのだが、後になって倒すようにと言われていた魔物について調べて軽ーく後悔した。
奴の名前は『マナ・アリゲータ―』と言い、魔力を扱う事ができるワニだ。
口から濁流を放って相手にダメージを与え、動けなくなったところを捕食するという。
騎士でも冒険者でも、徒党を組んで挑むような相手との事。
「どーしよっかなー…魔法、使うか…?」
『お悩みですかっ?お助け、必要ですかっ!?』
脳内に電子音を響かせ、ちょっとウザめな声で質問してくるハイテンションな少女。
彼女の存在をすっかり忘れていた自分に軽く驚き、視線をマナ・アリゲーターから勝手に出現したステータスウィンドウに似た物へと移す。
そこには、桃色と緑色とが入り混じった髪をツインテールにし、瞳を輝かせてこちらを見てきている少女の姿があった。
彼女の名は――
「スマ子…脳内に響く設定になってるんだから、もうちょい静かに…」
『お助け、必要ですよねっ!』
「話聞け!!」
「Guooooo!!」
「お前はちょっと待ってろ!『
スマ子に声を荒げると、ワニは濁流を放出してきた。
それに対しそちらを見ること無く支配魔法の一つである、相手の魔法使用を禁止する魔法を使って軽くあしらう。
今は、無駄に悩み過ぎたせいで起動してしまったスマ子の相手の方が先だ。
「…あのな。見てわからねぇか?相手はワニだぞワニ。あんだけ戦々恐々としている感じを出しておいてアレだけど、所詮今のステータスならちょっと叩くだけで倒せる相手だぞ?それなのに、態々お前みたいな優秀サポーターを起動させる必要は無いだろ」
『え、えっへへ~!優秀、そう、優秀ですよ私!これはもう使う他無いのでは!?』
「あー、言葉選びミスった」
『言葉選びの手助けが必要なんですね!』
「いやそれも必要ねぇよ!」
「…Gu…Goaaaaaa!!」
「だから待ってろって!『
嚙みついて来ようとしたワニ相手に支配魔法を発動し、その攻撃を寸前で無かった事にした。
まったく、油断も隙も無い。
後でちゃんと相手してやるつもりだから、待ってろと言うに。
「あのなスマ子。もう一回言うぞ。この相手は、態々お前の手助けを必要としなくても余裕で相手できる奴なんだ。わかるか?」
『はいっ!ですが、マスターがお困りのようでしたので!』
「どこも困ってねぇよ!寧ろふざけてたよ結構!」
「O……Ouaaaaaa!!」
「だから落ち着けよお前はぁ!!『
恐らく、決死の覚悟で突進してきたのだろう。
ただこちらに向かってくるだけなら、たとえ攻撃の意志があったとしても攻撃認定には入らないらしく、そのままワニは俺に体をぶつけようと突っ込んできた。
しかし、スマ子との会話で少々頭に血が上ってしまっていた俺は、それを一瞥もすることなく寿命を全て俺の物にしてしまった。
――結果、ワニは死に、俺のステラさんから出されていた条件は達成されてしまった。
本当なら、初めての魔物との戦闘という事で、多少茶番のようになりつつも白熱した戦いができるはずだったのに。
「――帰ろっか」
『あ、自力で倒したってイメージをつけるのに、少しばかりその剣で斬り裂いてはいかがでしょう?』
「お、それいいな。早速切り傷を自作させてもらおう」
『えっへへ!私にかかればこんな意見は朝飯前ですよ!』
「おうおう、スマ子は凄いぞー」
――異世界にきて初めての命の奪い合いは、なぜだかギャグチックに終わった。
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