第15話 色々話そう
「…いやぁ、まさかシェスカに説教された直後に父さん、その次に母さんに説教されるとは。買える分の金があっただけだし、別に悪くはないと思うんだけどなー…」
「ふふふ。まぁ、いきなり私みたいな泥だらけの修道女を連れて帰って、しかも奴隷だなんて紹介したら、誰だって驚きますよ」
若干湿っている髪を布で拭きながら、エリーセは笑う。
目を隠していたヘアバンドのような物は外しているが、その瞳は閉ざされたままだ。
うんうん。風呂上がりの美人は良い絵になるな。
部屋中に漂うフローラルな香りに、自然と体の方も反応しそうに――あ、こっちは子供レベルだから何も無いんだった。
「…ま、エリーセを風呂に入れるのを許可した辺りが父さんだな。普通なら捨てさせるだろうに」
「お風呂は本当にありがたかったです。長い事地面の上で座りっぱなしだったので…」
「まぁ、可愛い子を泥だらけで放置しておくような真似をするのは流石に忍びなかったんだろうさ。それが仮に奴隷だとしても、な」
おっと、我ながらキザったらしい発言だったな。
最近気取った発言が増えてきてるのを自覚して、ソレを直そうと気を付けていたって言うのに。
ベッドに寝転ぶのをやめ、体を起こす。
すると、先程まで髪を拭いていたエリーセはその手を止めて、何か言いたげな顔をしていた。
「えっと、どうした?」
「…ご主人様は、私の事を可愛いと言ってくださいますが…普通はその、もっと違う評価になるのでは?と…」
「あー…そこら辺の話も、しといた方が良いかなー…せっかく秘密の保持についてしっかり条件つけたわけだし」
姿勢を正し、少しだけ考えてから口を開く。
一度に全部話すと時間がかかってしまうし、何より理解が追いつかなくなってしまうだろう。
なら、ある程度かみ砕きやすい程度の量にする必要があるわけだ。
エリーセがどれくらい賢いのかはわからないし、どれくらい頭が固い人なのかもわからない以上、知らないだろう単語の説明をおざなりにしてしまっていいのかどうかも考え所だ。
「…んーっとさ。これ、秘密の話な?」
「秘密って…」
「そう。奴隷契約の時に言ったアレ。誰かに知られるような事になったら、そのままの意味で永眠することになるけど…聞く?」
今になって思ったけど、これ条件悪いな。
もしエリーセに過失が無くても違反したことになったりしたら、即永眠になっちゃうわけだろ?
後で修正しておかないとなぁ…
別段聞いても聞かなくても支障はないぞ、と語る俺に、エリーセは少しも悩む素振りを見せずに頷いた。
「はい。ご主人様の秘密…奴隷として、知っておきたいのです」
「そうか…なら、話さなきゃだな」
一度言葉を切り、体を大きく伸ばす。
ある程度話す内容は定まったが、それでも長くなりそうだ。
どこか期待している様子でこちらに顔を向けてくるエリーセに、咳払いをしてから話し始める。
俺が、どんな人間なのかを。
「まず、俺は前世の記憶を持って生まれた。こことは違う、別の世界の記憶のな」
「ぜ、前世…ですか?」
「あぁ。一回死んだと思ったら、別の世界でやり直しって訳だ。――そこの説明は長いから今回は短くしか話さないが、まずここまではわかってくれたか?」
「…わかりました」
わかってくれたなら及第点か。
ふざけているんですか、とか言われたら反論のしようがなかったからな。
一呼吸おいて、なんだか既についてこれなさそうな様子のエリーセに話を続ける。
ここからの説明はもっと荒唐無稽なので、最悪こちらはわかってすらもらえないかしれないな、等と思いつつ。
「俺は転生する前に、神様に会ったんだ。それも沢山のな。――それでな?転生特典ってヤツがあったから、すっごく強くなりたいみたいな事を要求したんだよ。そしたらあまりに要求が高すぎて、自分でやれって話になっちまって…」
「か、神様?転生特典?…えっと、流石にそれは…」
「やっぱり詳しく話さなきゃだな……さて、どっから話そうかねー」
後頭部を掻きながら、再び悩み始める。
何処から離す、というか何まで話す、の方が懸念事項だ。
というか今のうちにヴァルミオンについても話しておかなきゃだよな。
お前の事をいつか必ず抱いてやるーとか言っておいて、その後いきなり現れた別の女とこれでもかとばかりにイチャコラし始めたら、いくら主従関係とは言え嫌な気持ちにもなるだろう。
俺みたいな愛と性欲の両方の数値が溢れに溢れ捲ってる男でなけりゃ、他の女に手を出すって事は元々の女に飽きたって事になるんだし。
――え?性欲はともかく愛はどうなんだって?
そりゃお前、画面の向こうなら沢山嫁を持っていたタイプの男だぞ俺は。
それにz軸が追加された程度で、法律で禁止されているでもない一夫多妻が不可能なわけないじゃないか。
「うん、大体決めた。――ちょっと長くなるけど、まぁ飽きてきたら途中で寝てくれても構わないから」
エリーセをベッドに腰かけさせ、話し始める。
俺の転生前までの話を、ダイジェストで。
※―――
俺は一度死んでる。
死因は自殺。
直接的な原因は、いじめだな。
元居た世界は、こっちの世界よりも学校の数が多くって、教育機関が充実してたんだよ。
まぁ、そのせいで出身校とかの格差が広まることになったんだけどそれは置いておいて。
俺も学校に通う一生徒だった。
んで、ある日を境にいじめられることになったんだ。
俺よりも先にいじめられてた子と、仲良くしたから。
え、優しかったんですねって?
違う違う。俺は別に、その子がいじめられてるって話を聞いて、一体どんな奴なんだろうなーって気になって見に行っただけ。
それが中々可愛い子だったもんだから、つい調子に乗って話しかけて話を弾ませて――ん、どした?なんか機嫌悪いぞ?
気にしなくていい?なら続けるけど。
俺って昔から社交力とかそう言うのが欠如しててさ、友達も一人いるかいないかだったわけだよ。
しかも所謂竹馬の友。幼馴染だけときた。
そんな幼馴染も同じ学校だったんだけど、俺がいじめられるようになってからアイツもいじめに参加するようになったんだよな。
…ん?なんも不思議な事はねぇよ。アイツはただ、周りの空気に合わせて流される生き方を選んでたってだけだし。
俺もそうだけど、結局自分が良かったら他はどうでもいいタイプなんだよ。
だからアイツが俺のいじめに参加した時は「まぁ、コイツらしいな」としか思わなかったし、傷つくことも無いなって思ってた。
本当はどれくらい傷ついてたのかってのは、今こうしてここに俺がいる事が示しているわけだけど。
本当はもうちょっと原因はあるけど、取り合えずまぁ俺は死んだわけだ。
そしたら死ぬ前にこう…転生したい、みたいに言ったおかげで、神様が転生させてくれる事になったんだよ。
ははっ、信じられないか。
そりゃ神様とかいきなり言われても、普通は真に受けられねぇよなぁ。
神様に仕える仕事をしてたからって、神様って言われて鵜呑みにすることができるわけでもねぇだろうし。
なんで修道女ってわかったのかって?
そりゃシスター服なんか着てたらすぐにわかるだろ。
…話を戻そうか。
そんなこんなで転生することになった訳だけど、その時に転生特典ってのがもらえるって話になったんだ。
元々力が無かった奴がそのまま転生したって、すぐ死ぬのがオチだからな。
それだと転生させる側としても色々とまずかったんじゃねぇかなって思ってる。
…そこで、大人しく慎ましい願いをしておけばよかったんだろうけどなー…欲張っちまった。
色んなものを要求したんだよ。誰にも負けない…それこそ、この世界以外の世界の奴ですら及ばねぇくらいに強くなりたいってな。
所謂酔ってたってやつ。
創作物上の物だろうって思い込んでた状況に直面して、その通りに事が進んだら…そりゃ高揚感がとんでもないに決まってるだろ?
その気分のまんま、馬鹿みたいに好き勝手言いまくったら……その、罰が当たったというか。
受理できる内容をオーバーしたとか何とかで、謎の空間に送られたんだよな。
時間の流れが限りなく遅くなっていて、人としての限界も外されて、食事も排泄も睡眠も何もかも不要になる空間。
そこで、望んだ能力に相当するものを身に着けてこいって言われて…うん、大変だったなぁ…生憎その頃にはもう心が壊れてたらしくって、精神崩壊を起こしたりなんかは無かったけどさ。
――え?結局どうなったのかって?
そりゃ、叶えたに決まってるだろ。
神様のサポートも何度かあったし、最適な環境を沢山用意してくれたけど、基本は自主トレで至ったぞ。
しかも本当なら俺は努力せずにその力が得られたはずなのにーって事で、謝礼としてその空間を自由に使う権利まで貰ったんだぜ。
これからもし俺以上の奴が現れても、さらに鍛錬を積んで超えることができるって訳だ。
…で、今回のお前に対しての可愛い発言だけど…
ほら、すっごい長い時間をそこで過ごしたもんだから、精神年齢的には誰にも負けないレベルなんだよ俺って。
だからこう、年下の子に対して出てくる万能な反応の、可愛いが咄嗟に出ちゃうというかさ。
忌憚なく言わしてもらうとすれば、本当は綺麗系だと思うし、正直エロいと思ってるよお前の事。
店の前通り過ぎようとした時、ついつい二度見しちゃったからな。
※―――
「…とまぁ、こんな感じだな。うん」
ここでようやく言葉を切り、一呼吸。
そろそろ喉が痛くなってきたし、シェスカにでも頼もうか。
前に自分で取りに行ったら、すっげぇ嫌な顔されたし。
どうせ扉の外にいるんだろうなぁ、と思って立ち上がろうとしたところで、エリーセが声をかけてきた。
「あの、ご主人様」
「ん?何か質問?」
「…奴隷の身で何かを頼む等、とてもいけない事だと存じていますが……す、ステータスを、見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「…えっ、ステータス?」
ステータスって、『
もしかして、周知されてる単語だったり?
混乱する俺に顔を向け、ずっと返事を待ち続けるエリーセ。
これは脳内で疑問を浮き沈みさせている場合ではないと判断し、首肯する。
「構わないけど、どうやって見る気だ?」
「私の
「…その異能、もしかして『
「あ、はい。もしかして、ご主人様も?」
「それは俺のステータスを見たらわかると思うぞ。――ってかそうか。相手のステータスも閲覧できるのか……なぁ、エリーセ。俺もお前のを見ても構わないか?」
「はい…というより、私には許可を取る必要はないじゃないですか。私はご主人様の所有物なんですから、ご主人様の望むままにするだけですよ」
それもそうか。
あれだけ意気揚々と奴隷として購入しておきながら、扱いが一個人みたいになってしまっては元も子も無いか。
…価値観が前世に縛られてる感、強いなぁやっぱり。
この間の食卓で虫が出てきたときも、俺だけ何も食わずに部屋に籠っちゃったし。
ルフェイが豪快に芋虫を頬張ったのを見た時は、軽く絶望しちゃったね俺。
…さ、取り合えずステータスを確認させてもらいましょうかな。
【エリーセ/メレーネ/年齢:21/女】
種族:
職業:奴隷(所有者:アレイスター・ルーデンス)
レベル45
『各種能力値』
・攻撃→30
・防御→45
・魔力→90007
・魔攻→0
・魔防→66
・敏捷→13
・運→78
・その他の能力値→魅力だけ高い
『
・
・
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『
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『
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・
・
『前科・犯罪歴』
・姦淫(前世)
・横領(前世)
・傾国(前世)
『状態』
・発情(対象:アレイスター・ルーデンス)
・盲目
・不安
・悪魔憑き
・執着(愛)
「
他にももっと気になる点はあるだろうと言われるだろうし、俺自身他にも色々気になる点はあるが、一番大事なのはこれだ。
え、マジで?そのままの意味で受け取っちゃって良いの?
滅茶苦茶気持ちいの?エリーセとのエッチが!?
「あ、悪魔憑きとかからじゃないんですね…反応する所」
「確かにそこら辺も色々気になるけど、正直一番関係あるというか重要なのってそこだけかなって」
「……その、技能としてあるだけで、別に私…まだ、処女ですし…期待はしないで欲しい、です」
「それって、この…せいばく?とかいう奴の影響か?」
「はい。――エクスペイション。あまりに重い罪を犯した咎人の魂が、許されるその時まで科せられる罰。勿論記憶にはありませんが、どうやら前世の私は酷く淫らな女だったようで…その結果、こうしてなんの記憶も無い私が罪を贖う事になったのです」
エクスペイションって確か…贖罪って意味か。
制縛ってのは造語見たことも聞いたことも無いけど、そっちは知ってる。
というかコイツ、前世云々はわかってたのか。
…どうでもいいか。
――しかし、処女なのに性行為のテクニックは極上…まさしく『処女ビッチ』という奴では?
さらに言うなら、奴隷契約の内容によって俺限定となっている。
つまり『一途な処女ビッチ』という事になっているわけだ。
なにこれ、まだ勃起できないはずなのに、股間に血が集まっていく感覚がするんだけど。
「ってか俺に発情してくれてるんだな。肉体的には七歳なのに。――あ、七歳だからか?」
「い、いえ……その、ご主人様のステータスを確認した際に、『発情(対象:エリーセ)』とあったのを見て…私に、こうして状態として表示される程に興奮を覚えてくれているんだな…と思い、こちらも自然と体が火照って…」
次第に声が小さくなってゆくエリーセに、俺はさらに興奮した。
それと同時に、怒りも覚えた。
なぜ自分は今、七歳の体なのかと。
あの空間での禁欲生活を終え、やっと悶々としていた物が…と思いきや、再び処理ができないという始末。
こんな豊満な肉体の美人を奴隷として手にし、相手は準備万端かつ発情状態だというのに手が出せないというこの状況。
俺が何をした!?
なんだ!?童貞が夢を見てはいかんのか!?
畜生、これなら転生じゃなくて転移を待ち望んでおけば…あぁいや、それじゃ確実に異世界に行けるって訳じゃ無かったし、死んだ上で転移とかそれはもうあの世じゃん。
俺は、最初から詰んでいたのか…!?
「あ、あの。ご主人様?何か…気分を害されるような事を、言ってしまいましたでしょうか…?」
「いや…なまじ性欲とか精神年齢とかが肉体よりも大きく進んでいるせいで、どうしようもないという状況に陥ってしまっているのをすごく後悔しているというか忸怩たる思いというかなんというか」
いやマジでさぁ。
早いうちに自分の物にしておいて、後々楽しもうとかバカすぎるでしょ。
肉体的に実の母である人からの授乳を心の底から性的に楽しむくらいに欲求不満を拗らせていた俺が、こんな…こんな、極上の女を前にして何もできずにいる状況に耐えられるわけないじゃん。
目先の欲に釣られる所まだ直ってないのかよオイ。
内心でも、実際に言葉に出しながらでも自分を責め立てる。
今回は転生特典を欲張り過ぎた件を超えるやらかしだろう。
我がことながら許してはいけない。
精通どころかその前段階まですらいけない状態で、中身だけ性欲旺盛な男子高校生(数年間リビドーを熟成させたもの)とか…俺くらい精神が不安定な奴じゃなきゃ死あるのみじゃん。
――いや、待てよ?
俺が直接的に快楽を味わうのはまぁ不可能だとして、エリーセを感じさせる分にはどうだ?
世の中には、前戯を長く長く行い、本番行為をよりディープで気持ちの良い物にする手法もあると聞く。
そして俺は、前世からそういったビデオだとか漫画だとかは本番前のシーンに一番興奮を覚えるタイプ。
い、行けるか?
「…なぁ、エリーセ」
「な、なんでしょう…?」
「今日見たステータスについては明日詳しく聞くし、俺から他に言わなきゃいけない事も明日話す。だから取り合えず今日は……その、前戯だけでもさせてくれないか?」
「…前戯、ですか?」
「あぁ。前世含め女性経験が無い身としては、本番までできなくともその直前までさせていただければとてもとても嬉しいかなって思う次第でして…!」
絞り出すように、我ながら気持ち悪く感じるくらい必死に言い、頭を下げようとする。
しかし完全に下がりきる寸前、エリーセの手によってそれは止められた。
だ、ダメなのか…?流石に性行為を伴わないエロティックな行為はいけないのか…!?
一瞬そんな考えが脳裏をよぎったが、彼女の口から発せられたのは真逆の言葉だった。
「頭を下げるなんて、やめてください。私の体にそこまでの価値はありませんもの。――それに、そこまでしなくても、私だって同じ気持ち…ですし」
「そ、それって…!」
「はい。――至らぬ点ばかりのダメな女ですが、これから…よろしくお願いしますね。ご主人様」
優しく微笑み、俺の手を握るエリーセ。
そんな彼女に対し俺は、無言で頷いて―――
「…愛してるし、愛すよ。エリーセ」
「あっ…!」
彼女を押し倒し、唇を奪った。
明かりの消えた部屋には、いやらしい水音と艶やかな嬌声とが、一晩中響いた。
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