第13話 外に出よう
「はぁッ!」
「『
「ケイ兄さんが攻めて、ファルブ兄さんが後方支援に徹する、か。結局その形に落ち着いたんだね」
さらに二年の時が経過し、俺は七歳になった。
ケイ兄さんとルフェイは十一歳に、ファルブ兄さんは十歳になった。
七歳は、我が家のルール的に家の敷地から出ることを許される年齢だ。
明日にはステラさん同伴での領地巡りをすることになっているし、楽しみで眠られるか不安である。
「『
「うんうん。相手に抵抗されないように、隙の無い素早い技を選んでいるのも良い。――けど、相手の成長具合を読むのが足りないね」
四股を踏むようなイメージで右足に力を入れ、『気』を放つ。
すると足を拘束していた氷が一気に砕け、自由が戻って来た。
その光景に驚くでも躊躇するでもなく剣を振り下ろそうとしてくるケイ兄さんを、右の掌底で吹き飛ばす。
前までは拘束されたらそのまま対処するしかなかったけど、今じゃ『気』の扱いもさらに上達して、即脱出することが可能になった。
無論兄さん二人も剣術、魔法共に成長しているし、昔の威圧感とか傲慢さとかがすっかり消えて爽やか美男子へと変貌を遂げた。
何故か俺に対しては敬語なのだが。
「『
「やべっ、兄さん!武器は!?」
「――あ、ある。今回は右足の靴を盗られただけだ」
この肉体の魔法の腕も上がって、ようやく『
奪うものはランダムだが、それでも相手にとっては十分なプレッシャーになる。
俺達が戦う際のルールとして「『
左手に持った靴を投げ捨てて、剣を構える。
闇属性の魔力を流し、単純な攻撃でもそれなりの破壊力を持つようにして。
「『
まずはファルブ兄さんから、と一歩踏み出そうとした瞬間、俺の視界を奪うように光が発生した。
本来は攻撃魔法のはずだが、ただの目眩ましとして使ったらしい。
使う魔力を減らして、攻撃性能だけを無くしたか。
必要魔力量の調整なんて高等技術を、十歳で容易に行わないで欲しいんだけど。
「まぁ、目元の魔力を闇に変換したから無駄なんだけど…さッ!」
「あぐっ!?」
剣の腹で兄さんの頭部を殴りつける。
剣での一撃を受けたら即敗北なので、これでファルブ兄さんは脱落だ。
残るはケイ兄さんだけ。
彼は
俺はソードスキルは持っていないが、ソレに準ずる…というかそれ以上の剣術を持ってるからな。
「
「剣が無かったら剣技も何もないでしょ?『
二回目のランダム・ハントを行い、兄さんの持ち物を奪う。
さて、俺の手の中に入ったのは……石!?
驚愕する俺に、兄さんは口元を歪めて見せた。
してやったぞ、と誇らしそうに。
「ファルブがやられるまでの間に、ポケットの中に石を詰め込んでおいたんですよ。『
「うわぁ…対策取られちゃったよ……もう一回だけ試せるけど、どうせ石くらいしか盗れないし…近接戦闘しかねぇか!」
剣を投擲し、兄さんの真横へ移動。
剣に対応するために意識をこちらに向けるのが数秒遅れた所を、容赦なく左腕の肘鉄で吹き飛ばす。
ただ終わらせるには剣での一撃が必要なので、これはまだ終わりではない。
「げほっ、ごほっ……そ、『
「本調子じゃない状態で使っても、こうやって受け流されて終わるだけだよ」
無理矢理体勢を整えて突きを繰り出してきたが、その程度なら『気』を使わない単純な受け流しでも対応できる。
本調子ならまだしも、咄嗟の一撃では俺には届かない。
この後は抵抗されることも無く、兄さんの脳天を剣の腹で叩いて終わった。
二人ともかなり成長してるけど、やっぱりまだまだ粗が目立つな。
才能でカバーできてるのがムカつくし。
※―――
「行ってらっしゃいませ。アレイスター様」
「シェスカ、俺が間違ってなければ馬車に同乗してついて来ようとしてくる人が言うセリフじゃないよそれ」
「まぁまぁ、いいじゃないかアレイ!ずっと行きたがっていた、外だぞ?パパが統治してる町の活気の良さを見せてやるからな!」
「それはすっごく楽しみ!――いやぁ、待ちに待った異世界の街並み、俺の異世界ライフの起点!ドッキドキワクワクが溢れ出るなぁ!」
「…な、なぁシェスカ、やっぱり何を言ってるかわからないよな?」
「はい……幼少期特有の、言語とも呼べぬ言語を喋る物だと思っていましたが…ここまで続けば、実際に意味のある言葉だと推測せざるを得ませんね」
俺に聞こえないように聞こえないように気を使っているのか、ヒソヒソとそんなことを言う二人。
だが残念。馬車の中だなんて狭い空間で内緒話をしても普通に聞こえるんだよな。
後、俺の喋ってるコレについては前世の家族と再会できたら説明するつもりでいるので、もう少し待ってもらいたいです。
ちゃんと今までの事を謝罪した上で、家族と俺の素性を紹介するんで。
「…にしても、馬車ってこんなに揺れない物なんだね。もっとガタガタするもんだと思ってたけど」
「これ自体がマジックアイテムだからな。揺れを抑え、音もある程度遮断してくれるから快適なんだ。――まぁ、俺はもっと揺れたりうるさかったりする方が馬車旅って感じがすると思うんだが…」
「奥様が、旅は快適であればあるほど良いとのお考えでしたので。私も購入手続きの場にご一緒させていただきましたが、それはもう凄い言い争いを…」
「あぁ、シェスカもモロックも居たなぁ…あの時が最初で最後の夫婦喧嘩だった。普段はどっちも譲り合うタイプなんだが、あの時ばかりは俺もアイツも譲らなくってなぁ…」
確かに、ステラさんもマルティナさんも話し合いの際はどちらも譲り合っているな。
でも馬車旅の事は譲れなかったのか。
こだわりが強かったんだな…それ以来喧嘩はしていないって口ぶりだけど。
「おっと、そろそろ町が見えてくる頃だぞ。と言ってもここはそれほど発展してない町なんだが…」
「結構近くにあるんだね」
「あぁ。家は買い物ができる場所の近くにした方が、使用人たちの苦労も減るからな」
何てことないように言っているが、貴族という立場に居ながらそんな考えを持てるのはかなり稀有なのだろう。
こういうところは、非常に尊敬すべき点だと思う。
どんな立場に居ようと相手を慮ることができる人には、なろうと思ってもそう簡単には成れない物だからな。
「さ、お小遣いは銀貨三枚で良いだろう。思い出作りに何か買うと良い」
「ありがとう、お父さん!行ってくるね!」
それなりの重さがある小さな袋を受け取り、ポケットにしまう振りをしてアイテムボックスに収納し、馬車を降りた。
看板を見るに、町の名前はヘステレスというらしい。
綺麗な町並みをしているし、活気もいい。
ステラさんが良き統治を行っているのだろう。
使用人の一人が言っていたが、国内有数の良い領主と名高いらしいし。
「んー!ここが家の外か!良い町だね、ヘステレス!早速商店街でも歩くとするか!」
「アレイスター様。先に検問所へ」
「シェスカ、まだ後ろに……って、検問?」
「はい。どんな身分の物であれ、このルーデンス領では町と町の移動をする際には関所で検問を受ける必要があるのです。それが例え領主様であったとしても、です」
ほほう、犯罪を抑止するための手段か。
どんな検問が行われるのかはまだわからないけど、警備体制も万全ってわけだな。
ルールなら仕方ないだろう。
早くこの銀貨三枚の使い道を探しに行きたいが、郷に入っては郷に従えだ。
ましてやこの肉体の父親が定めたルール。子供だからと従わない訳にはいくまい。
それに俺、堅苦しいのは嫌いだけど、ある程度しっかりとしたルールがあって秩序が保たれてる方が好きなんだよね。
それを自分から乱すのも、あまり好きじゃないし。
普段とは違い、俺がシェスカの後についていくようにして関所へと向かう。
丘で止めてもらったおかげで町を見下ろすことができていたが、まだ中には入れていなかったらしい。
近くに行けば、外壁が町全体を覆っているのを確認できた。
シェスカ曰く、これもステラさんが指示して建てさせたものなのだとか。
あの人の市民を守る意識は強いな。
ここもまた尊敬せざるを得ない点だと思う。
「あら、シェスカちゃんじゃない!お買い物?」
「久しぶりですね、ケディ。今日は買い物ではなく、アレイスター様の付き人としてきただけですよ」
「あらごめんなさいね?私ったら視野が狭いものだから、気づかなかったわ!――えっと、あなたがアレイスター・ルーデンスちゃん?」
ケディと呼ばれた鎧姿の男性は、俺に目線を合わせながらそう質問してきた。
まさか『ちゃん』をつけて呼ばれるなんて夢にも思っていなかったので少々面喰ってしまう。
――ってかシェスカがここまで表情を柔らかくしてる所なんて初めて見んぞオイ。
あの鉄面皮を普通の顔にするとか、何者だこの人。
「は、はい。ご存じの通り、俺がアレイスター・ルーデンスです」
「まぁ、本物なのね!――みんなー!アレイスターちゃんが来てるわよー!」
「えっ、アレイスター様が?」
「あの性悪のファルブ様の更生させた、あの?」
「あの傲岸不遜のケイ様すらも更生させた、あの?」
兄さん達どんだけヘイト稼いでたんだよ。
ケディさんとやらの呼び声に従うように、関所の奥の方からぞろぞろと鎧姿の男達が出てきた。
その誰もが、俺を英雄を見るかのような目で見てきている。
…確かに、あの二人の自尊心とかを粉々にする前はどっちも……なんというか、味の濃い(限りなく優しい表現)人だったけど、だからってこんな嫌われる程じゃ無かったと思うんだよなー…
「ま、まぁ…そのアレイスターは俺、ですね…ハイ」
「「「「おぉぉ!!」」」」
俺が肯定すると、俺を囲むようにして立っている男たちは歓喜やら賞賛やらの混じった声を出した。
だからマジで何やらかしたんだよ兄さん達!?
「えっと、そのアレイスター様が今日は一体何の御用で?」
「七歳になったので、家の外に出ても良いと許可を貰えて…それで、町を散策してみようかなと」
「ほほぅ、この町に最初に訪れるとは見る目がありますねアレイスター様!なんてったってここは貧しさと優しさの町!
自分で貧しさの町と言ってしまえるくらいに貧しいのかここ…
でもまぁ、丘の上から見た感じ住民たちはみんな幸せそうに生活してたし、いい町ではあるんだろうな。
「で、シェスカ。検問ってのは何をされるんだ?」
「情報看破の水晶玉、という物に手を翳すように指示されるだけです」
「…え、それだけ?」
「そう。それだけよぉ。だって、それで危険度とか、前科とかを知ることができるんだもの。凄いわよねぇ」
その感想には完全に同意だ。
『
ケディさんが持ってきた水晶玉を見て、そんな感想を抱く。
見た目はただの水晶玉だが、それには先程言った通りの凄い効果が含まれているのだ。
なんというか、こう…うまく言えないけど、異世界ファンタジーって感じ。
「…本当に手を翳すだけで良いんですか?血を垂らすとか、そういうのは…」
「不要ですよ。まずは私がやってみますので、その通りにやってみてください」
そう言うと、シェスカは水晶玉に右手を翳した。
魔力を流している様子も何も見られない。
本当に翳すだけで良いようだ。
水晶玉はじわじわと光を発し始め、次第に文字が浮かび上がって来た。
さながら俺の『
【シェスカ・ブランジェッタ/年齢:31/女】
種族:人
職業:アレイスター・ルーデンス専属メイド
レベル:24
『各種能力値』
・攻撃→30
・防御→35
・魔力→22
・魔攻→10
・魔防→16
・敏捷→42
・運→99
・その他の数値→それなり
『
・
・
・応急処置
『前科、犯罪歴』
・なし
レベル24というのは、この世界ではそれなりに高い方だったはず。
能力値そのものもこの世界の人の中では上位と言える。
因みに、『
俺は
…あの空間で学んだ剣術は
「相変わらずの高いステータスねぇ…もし、もしあなたが何かして、拘束しなきゃならないってなったら…私達全員でようやくって感じかしら?」
「私はそんな事しないでしょう?」
「だから、もしって言ったじゃない」
かなり仲が良いのか、あのシェスカが冗談を言い合っている。
感情という感情をもたずに生まれてきたのかと思っていたが、あながちそうでも無いようだ。
やっぱり外に出るのは良いな。
今まで知らなかったシェスカの一面を知ることもできた。
「さ、次はアレイスター様の番ですよ!」
「まぁ、家から出たことも無いんだったら前科も何もないと思いますけどねー」
「あはは、確かにそうですね」
笑いながら水晶玉に手を翳す。
そんな変わったことは表示されないだろうし、まぁそう気負う事無く居ようじゃないか。
【アレイスター・ルーデンス/年齢:7/男】
種族:超人
職業:貴族
レベル:1
『各種能力値』
・攻撃→78
・防御→70
・魔力→1364
・魔攻→788
・魔防→477
・敏捷→800
・運→67
・その他の能力値→前世と同程度
『
・脳内秘書スマ子ちゃん
・
・
・
・繝ュ繧ケ繝・繝ッ繝シ繝ォ繝(譛?蛻昴〒譛?蠕後?荳?謦)(現在使用不可)
『
・
・
・
『前科・犯罪歴』
・なし
なぜ油断したし俺!
滅茶苦茶情報開示されちゃってるじゃん!
あぁほら、シェスカすら口を大きく開いちゃってるし。
唖然とを超えた唖然とを披露しちゃってるし!
――よ、よし。
さっそく『
魔力と魔法の実力を一時的に返してもらって、支配魔法で全員の記憶を改ざんしよう。
それと、しっかり自分の情報を偽装できる
これからはずっと発動しておかなくっちゃな!
異能と魔法で何事も無かったかのようにした俺は、今度はどこに出しても恥ずかしくない…というか違和感のないステータスに偽装し、それを全員に見せるのだった。
【アレイスター・ルーデンス/年齢:7/男】
種族:人
職業:貴族
レベル:1
『各種能力値』
・攻撃→11
・防御→5
・魔力→23
・魔攻→12
・魔防→7
・敏捷→15
・運→67
・その他の能力値→それなり
『前科・犯罪歴』
・なし
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