第7話 手紙を読もう

頬を掠めて飛んで行った魔力の塊に恐怖を覚えるわけでも無く、俺はただ一言、状況をまとめるような事を口にした。


「…まさかダーリンって言われた直後に攻撃されるとは思わなかったなー」

「ふふふ、の当初の目的は二つ。ダーリンとの婚姻と、あの血沸き肉躍る戦争たたかいじゃった。交際という形で落ち着いたが、目的の一つを達したのじゃ。もう一つを達成しようとするのは当然。何よりこの後、ダーリンは一度この空間を出て、渇望し続けた『転生』を行うのじゃろう?」


口調も一人称も元に戻す、と言っていたが、まさか元がこれだとは。

のじゃロリが実在するなんて思わなかったな。


――っと、呆気に取られてても仕方ないか。


「…まぁ、そうだけど」

「聞くところによると、ダーリンはこの空間を出た後、齢15になるまではここで得た力の大半を失った状態で過ごすらしいの」

「そりゃ、こんな力を生まれ持っちゃったら体がもたないだろうよ、人間なんだし」

「さらに言えば、転生すると言う事は姿形も変化すると言う事。つまり、今のダーリンと戦える機会はこれが最後という事なのじゃ」


言わんとしている事はわかる。

男だと思っていた時から、ヴァルミオンが俺との戦闘を愛していた事は知っていた。


強きを知り、ソレを挫く。

そんな事を愉しみとしていた奴だからな。


そして、現状は俺とヴァルミオンの戦績は拮抗中。

この戦いを最後とするなら、勝った方が勝ち越しして終わる事になるだろう。


「まぁ、しょーがないか。俺もヴァルミオンとの戦いは楽しんでたわけだし。最後に一戦…やるか」

「それでこそダーリン!さぁ、疾く始めようか!」


それと同時、ヴァルミオンは俺の右隣に出現し、その手に握っていた歪んだ刀身をした剣で斬り付けてきた。


対して俺は、剣の腹の部分を裏拳で軽く叩いて応戦した。

ただの裏拳と侮るなかれ。

極限まで鍛え上げられた拳は、軽い一撃だとしても、相手の剣を地に落とすくらいは容易にやってのける。


まぁ、想定外の方向から力が加えられたら、例えその力が弱かろうが大きな影響を受けてしまうものだし、一概に俺がすごいとも言い切れないのだが。


「この刀身に直接触れて平常を保つ、か。流石はダーリンだな」


とても嬉しそうに口元を歪めたヴァルミオンに、一度なんの事かと思いつつもすぐに気づく。


そうだった。コイツの使っている剣は、普通なら触れただけで相手の正気を奪い、狂い死にさせるんだった。


まだ弱かった時、馬鹿正直に触れて本当に死んだのを忘れてたのか俺は。


「そりゃどーも…んじゃ次はこっちの番だな!」


右足を軸に回転し、ヴァルミオンの右脇腹を抉るように蹴りつける。

相手は女だが、その事は不思議と気にならなかった。


容赦の無い一撃に対し、魔王は攻撃の方向に移動する事で受けるダメージを減らしたらしい。

蹴りつけた時の感触の軽さから、そう判断できた。


と言っても、それで減らせるのはほんのわずか。

俺の攻撃は光よりも早く、それによって衝撃波も発生するのだ。

故に、多少距離を取ったところで追撃するように衝撃波が襲うので、受けるダメージの差はそう多くないことになる。


「また、力が増したか?」

「そりゃ、必要以上に鍛えたからな。限界って枷も外れてるし、鍛えた分だけ強くなれるんだろうさ」

「限界はない、か。恐ろしいの」

「転生後にはまた戻るんだろうけどな……さ、次は魔法を使わせてもらおうか」

「次の手を、随分と容易に明かすのじゃな」


そりゃそうだ。

これは確かに戦いだが、俺にとってはそれ以上に「勝負」なのだ。


正々堂々と、真正面からぶつかりたい。

そして、完全な勝利を掴みたいのだ。


「まずは下準備からさせてもらう。『痛みを返す者ペイン・カウンター』」

「悠長なことを言わせたままにしておくとでも?『絶凍の監獄フロスト・ジェイル』!!」


ヴァルミオンが放ってきた魔法は、水・氷属性上級魔法。

対象を決して溶けることのない氷の監獄に閉じ込め、凍え死なせる魔法だ。

また、内側に鋭利な氷柱を降らせることもでき、火属性持ちで無ければ中々に厄介だ。


対して俺が使ったのは闇・反転属性中級魔法。

受けるダメージや、相手から与えられる全てを反射し敵に送ることができる透明のベールに包まれる魔法。

無論返せる分には限界があり、その都度交換する必要がある。


そして魔力消費量が多い。

魔力量八億というデタラメな存在である俺でも、支配魔法や簒奪魔法とは併用したくないと思うくらいの消費量だ。

ファイア・ボールと比較すると、逆に笑えてくるレベル。


「ぐぅっ!?この魔法…反転魔法か!」

「名前でわかると思ったけどな。まだまだ攻めるぞ、『権限主張・炎』」


右手の人差し指を宙に向け、その先に小さな炎の塊を出現させる。

本来なら闇以外を魔法によって生み出せない俺がどうして炎を、と思うだろうが、そこには支配魔法が関係している。


特権階級アイム・ア・トップ』。


全ての権力を持つ者支配者の魔法に相応しい、これまたぶっ飛んだ効果を持つ魔法。

権力を濫用し、本来不可能なことすらも可能にしてしまう力。


無論要求がデカければでかい程、魔力の消費も多くなってしまうが、それでもなお釣銭が返ってくるような物だと言っていい。


今回は俺の魔法の適性に火を追加し炎を操れるようにしただけだが、やろうと思えば死者の蘇生すら可能だ。

しかしソレをやるには、俺の魔力の量でもなお足りないとのこと。


「ついに属性という枷すら無意味と笑うか!『濁流』!!」

「中級魔法で消せる程度に見えるだろ?そうでもないんだぜ、コイツ。――『再現。虚・汝、真の炎を知れヴァーミリオン・ボライド・ホロウ』!」


小さな炎は、途端にその姿を太陽の如き物に変え、襲い掛かる濁流を全て蒸発させつくした。

そして、それだけで輝きが衰えるような魔法ではない。


確かに権力を使用して再現した魔法は本物よりも劣ってしまうが、今回再現したのは火・爆滅属性超級魔法の『汝、真の炎を知れヴァーミリオン・ボライド』。

劣ったからと言って、水・汚水属性の中級魔法に負けるわけがない。


「『全破壊オール・ディストラクション!!』」

「その魔法は無意味だと忘れたか?すべてを見境なく破壊する能力で、妾を倒せると――何ッ!?」

「言ったろ、俺も成長してるんだって。世界丸ごと破壊するだけじゃなくって、破壊することも可能になったんだよ」


ヴァルミオンの持つ癒されよ世界テクスチャ・リターンは、使おうとしなくても勝手に発動する能力スキルだ。

それゆえに融通が利かず、望まなくとも発動してしまうし、望んでも発動しない場合がある。


そして発動の基準となるのが、居る空間の損傷率。

今までの見境のない破壊だと、すぐさま基準値を満たしてしまい、修正されてしまった。


――が、今はこうして的確に、だけをピンポイントに破壊できる。

そしてその程度では『癒されよ世界テクスチャ・リターン』は発動しない。


「くっ…!!『絶対魔壊ヴァルミオン』!!」

「無駄だよ」


極彩色の魔法陣を展開し、すぐさま砲撃してきたヴァルミオンに、諭すように告げる。

混沌をも統べし権能ケイオス・エクスシア』を一瞬だけ発動し、『絶対魔壊ヴァルミオン』の発動を禁止したのだ。


「ふ、――ふははは!やはり強いのぅ!満遍なく魔法を扱う妾に、三つの属性を極めたダーリンは天敵だったようじゃ!」

「それも誇張表現抜きで気が遠くなるくらいの時間鍛えたからな。殆どを時空の狭間を彷徨うだけで過ごしていたお前に負けたら、あんまりだろ」


細かく見たら、意外と負けてる点の方が多いんだけどな。

それ気にしたら本気で心が折れるからなしで。


「――で、まだやるか?魔法の制限とかありにしても良いけど」

「いや…『絶対魔壊ヴァルミオン』以上の破壊力を持つ攻撃を持たぬ以上、妾に勝ちうる要素は無い。このままどちらかが死ぬまで続けたい気持ちもあるが、結果の見える戦い程つまらぬものは無い。――それに、妾も妾でやらねばならぬことができたのでな」


そう言って、ヴァルミオンは服についた土埃を掃い、俺の目の前まで近づいてきた。

破壊した足は、既に再生している。

この空間だと、傷はちょっと時間が経てば直る、というのはずっと前から知っているが…やはり違和感はぬぐい切れない。


にしてもこう、近くで見ると…やっぱり可愛いな。

こんな子が彼女で、将来的には結婚も確定とか…俺、ここで頑張って来て良かったな。

ほんとに。


『あ、終わったっぽいねー。佐野君も心の中で惚気ちゃってるしー』

「の、惚気ってお前ッ!?心読むなよ!」

「ほほう…妾についてじゃな?なんと申しておった?」

『こんなに可愛い子が彼女で、将来的に結婚も確定してるとか――』

「言うな!最悪言うのは良いにしても俺がいるところで言うな!」


そしてヴァルミオンもヴァルミオンでニヤニヤするな!目を細めて笑ったって、可愛いだけなんだからな!


『さ。取り合えず佐野君をからかうのはこの辺にしてー…本当に、ヴァルミオンはつもりなのかい?』

「当然だとも。それが妾の選んだ道じゃからな」

『あっそ。なら良いんじゃない?――んじゃ、佐野君はこれで一旦鍛錬終了って事でオッケー?』

「あ、あぁ。まぁ、うん」

『よーし。じゃあ転生の間まで送るから…その前に、三つ目の封筒、開けてみてよ』


そう言った後、ランローの声は聞こえなくなった。

ヴァルミオンも、やるべきことの為に一度時空の狭間へ戻るらしく、この場には俺一人という状況になった。


いや、それ自体は慣れてるから全然良いんだけど…

三つ目の…封筒?


封筒なんて、今まで見た覚えも何も…あっ。


「あったな…ちゃぶ台の上に、あったな…」


あの生活スペースには、恐ろしく長い期間戻っていない。

封筒も元あった場所…ちゃぶ台の上に放置しっぱなしだ。


見よう、後の楽しみにしようとして…忘れてた。

後、今の俺があのプレートで確認した場合どう表示されるのかも気になる。


特にやることも無いし気になるので、俺は久しぶりに生活スペースまで戻る事にした。


※―――


「お、あったあった…うわ、プレート砕けてるし」


ちゃぶ台の上には、まるで見た目の変わっていない三つの封筒と、砕け散ったプレートの姿があった。


プレートは恐らく、俺のパワーインフレに表示が限界を迎えたのだろう。

ステータス画面でも、MAXしか書かれてなかったしな。

詳細曰く、まだまだ上があるらしいけど、表示しきれる部分はこれだけって意味だったらしいし。


――っとと。今は三つ目の封筒だな。

中身は…なんだこれ?触った感じじゃ良くわからないな。


中身を取り出し、確認。

これもまた手紙のようだ。


「えーっと…『これを読んでいるという事は、我慢しきれずに読んでしまったか完全に修行を終えたという事だと思います。もし後者であれば、まずは惜しみない称賛を』…おぉ、誰が書いてくれたのかわからないけど、嬉しいな」


丁寧な口調の神様って、誰がいたっけか。

まぁ、誰にしたって嬉しいんだけど。


「『この紙では、転生するにあたって確定している事項をお伝えします。転生の間に行く前の予習だと思って、是非最後まで読んでおいてください』、か。なるほどな…説明の時間をカットできるってわけね」


昔は予習復習なんて嫌いだったが、今は違う。

予習の大切さも復習の重要性もわかっている。


ここで簡単な所を理解しておいて、転生前のやりとりを円滑に進めようではないか。


「『初めに、性別は現在のままで固定になります。過去にあった事例を鑑みての仕様ですので、申し訳ございませんが異論は受け付けられません。』」


性別は固定か。

そこはちょっと安心だな。


女になるのが嫌か、と聞かれたら別にそんなどうしても嫌だってわけではないけど、せっかく可愛い彼女がいるんだ。

百合は眺めるだけに止めておくのが良いし、男のままと確定しているのはありがたい。


「『次に、現在のステータスの持ち込みについてです。肉体や精神の防御のために、肉体年齢15歳になるまでは少しずつ馴染ませていくことになっています。なので、自分はこれくらい戦えるから大丈夫だ、などと過信し過ぎることは控えておいてください』」


これはヴァルミオンが言っていた通りだな。

なんで15歳なのかはよくわからないが、向こうでは15歳で何かがあるんだろう。

多分。


「『三つ目に、転生先での身分についてです。こればっかりは前世で積んだ徳が関わりますので、貴族になりたい、平民が良い等の要望は受け入れられません。また、初めの身分が良くてもしばらくは安心しないでください。もしかしたら、貴族から奴隷になり下がる可能性もあります』」


お、おぉ…ちょっと不安になる内容だな。


生きている間はそれなりに良い事をしてきたつもりではあるが、親を残して死んでしまったのはダメだろう。

親不孝程悪い事は無いからな。


もしかしたら奴隷スタート…もしかしたら人ですらないかもしれない。


その辺は、身構えておいた方がよさそうだ。


「『最後に、佐野太郎様に私達が渡したものについて紹介を――』…って、これも忘れてたわ…」


そうだった。

俺みたいな、この空間に送られてもポジティブに自分磨き(婉曲表現)を続ける奴が珍しくって、神様たちが何かをプレゼントしてくれたってのも忘れてた。


ステータス画面にも映ってなかったけど、一体何だったんだろ。


「『貴方には、転生後に一つ、異能タレントが付与されるようになっています。神が直接渡すもの(といってもランダムですが)なので、使用用途のまるでない、所謂外れは無いと思います。喜んでもらえたら嬉しいな、と、神々一同願っております』……おぉ、普通に嬉しいやつじゃん」


異能タレントが後一個あれば、俺の異能の数も最大になる。

生まれ持つ以外に異能を手に入れる方法は無かったし、最大数所持することが確定なのは嬉しい限りだ。


悪い物にはならないというし、こっちは期待して待っておこう。


「んじゃ、これで最後――あ、紙が重なってた」


紙をちゃぶ台に置こうとしたら、二枚重なっていた事に気づいた。

偶にあるんだよなー、重なってるの気づかないでそのままにしちゃうこと。


本読んでる時にこれがあったら、いきなり話の内容が飛んだりして混乱するんだよな。

そのたびに、物語に集中していた頭も現実に戻っちゃって気分下がるし。


「これって……ッ!?と、父さんと母さんの文字!?」


自分でもよく覚えていたな、と思うが、家族との思い出は忘れない物かとすぐに納得。

記憶能力も限界の枷から外れてるのもあるんだろうけど。


――でも、なんでこんなところに?

取り合えず読んでみるか。


「『太郎へ。

 この手紙が本当に太郎に届いているかはわからないけど、お父さんとお母さんの事は覚えてくれているかな?

 ランローって人が、太郎は長い長い時間を過ごしているって言っていたけど、もしそれが本当だとしても、私達との思い出は残っていてくれたら嬉しいな。


 太郎が死んだって聞いて、すっごく悲しかった。太郎にはイメージできないかもだけど、お父さんもお母さんもずーっと泣きっぱなしだったよ。

 後になって遺書が見つかって、書いてる内容を全部読んでも、泣いちゃった。


 本当は辛い思いをしてたって事に、気づいてあげられなくって、ごめんね。』」


そ、それは違う。

俺が死んだのは確かにいじめで大分疲弊していたってのが主な理由だし、今でも時々アイツ等に復讐して高笑いする妄想だってする。


けど、それはアイツ等が悪いだけであって、父さんと母さんには何の非も無い。

寧ろ、二人をそんなに悲しませるような真似をした俺の方こそ…


「『他にも、いっぱい…いっぱい、言いたい事があるけど、それは書かない。

 ランローさんが、太郎が異世界って所で頑張れば、私達に会う事もできるって言ってたから。

 だから、続きは、太郎に会った時に。


 最後に、昔撮った家族写真も一緒に添えておくね。  

 異世界でも、寂しくなったらこれを見て、お父さんとお母さんと一緒に暮らした日々を思い出してくれたら嬉しいな。


            ―――佐野圭吾、佐野真澄より。』」

「あ、う……うぁ…」


元々涙のシミのあった紙に、さらにシミが増えてゆく。

自然と手紙を握る手の力が増し、震えが止まらなくなる。


「あ、あぁああああ―――――ッ!!」


年甲斐もなく泣きわめく。

自分が何てことをしてしまったのかと、ここにきて初めて後悔する。


異世界に行ける?

それがなんだ。

両親を…大切な家族を捨ててまで、そんなものに執着する必要なんて無かったはずだ。


「…ごめん…っ、ごめん、なさい…っ…俺、ばかで…こんな、こと…!!」


嗚咽と共に、届きもしない謝罪を繰り返す。

こんな事を言っても、いくら涙を流しても、無駄だとわかっているのに。


――かっこよくって、強くて、休日にはよく一緒に遊んでくれた父さん。

――優しくて、話し上手で、アニメの話にも付き合ってくれた母さん。

――可愛いくて、良く懐いてくれて、隙あらば俺を舐めようとしてきた愛犬のニック(本名フェニックス)


大切で、一緒に居て楽しかった家族。


でも、俺は自分から、皆との暮らしを捨てるような真似をした。

…して、しまった。


「――なぁ、ランロー。いるんだろ?」

『あぁ、ずっと見てたよ』


天から、普段よりも落ち着いた、まるで俺を慈しんでいるかのような声が聞えてくる。


「父さんと母さんと、会ったのか?」

『うん。色々カミングアウトもしたね。神の力も見せちゃったし』

「…この手紙の…異世界で頑張れば、会う事ができるってのは、本当か?」

『――あぁ、勿論。君が何かを達成すれば、君の家族くらいならあちらの世界まで連れて行っても構わない。そして、それについてはもう了承は得ているとも』


何かを成し遂げれば、か。


「そっ、か。なら――やることは、一つだけだな」

『家族に再会するために、異世界に行くのかい?』

「あぁ。俺って、本当に人でなしみたいでさ。こんな事を手紙で見ても、まだ異世界に行きたいって思ってるんだ。――だから、俺の目的も達成できる方法で再会する。それがもし父さんや母さんに迷惑でも、会えるならそれでいい」

『今のままなら、謝ることすらままならないから…か』


返事はしない。

だが、ランローはそれでも俺の意志を汲み取ってくれた。


『…なら、速く転生の間に行こうか。決めることも話すことも、その手紙さえ読んでもらえたなら殆ど無いし、時間は取らないよ』

「――なぁ、ランロー」

『なんだい?』

「…この手紙と写真は、持っていきたいんだけど」

『…構わないとも。君にとって、最高の転生特典だろうしね』


心の中で感謝して、封筒の中に隠れていた一枚の手紙に目を向ける。


そこには―――建てたばかりの我が家を背景に、ニックを抱きかかえた俺の両隣に父さんと母さんが立ち、笑顔を見せている姿が、綺麗に映っていた。

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