第5話 魔法の解説をしよう/我が想いを聞け


混沌をも統べし権能ケイオス・エクスシア

それは、ありとあらゆるものを支配する魔法。

発動中の魔力消費は莫大だが、その分恩恵が凄まじい。


まずはコレだ。

全てが動きを失っているこの状況。


「不思議なもんだろ?意識はあるのに体は動かない…それどころか、宙に浮いている小石も停滞したまま。まるで――時が止まった、みたいだろ」


これが、この魔法によって引き起こされる最初の効果。

全てのが俺の物になったことによって、世界は発動時の状況から変わる事すらできずにいるのだ。


例を挙げるならば、この足元の小石。

本来なら落下していて然るべきだが、落ちる権利が俺にあるために、それすらできずに停滞しているのだ。


なので時が止まったというわけではなく(時の流れる権利も掌握しているので、止めようと思えば今でも止めれる)今ヴァルミオンの心臓が拍動するのを許さなければ、コイツは緩やかに死ぬだろう。


「でも違うんだ。今は時の流れと、お前が生きるに足る分の権利…まぁ後その他諸々を許可しているだけで、それ以外がこうして止まっているってだけで、実際は時は流れ続けてる。大差ないがな」


駆けだすような素振りから一転、ゆっくりと歩み寄っていく。


さて、ここまで殆ど利点を話してきたが、ここでちょっとデメリットについて紹介しよう。


まずは、魔力消費量。

元居た世界…魔法とは全く関係のない世界の人の持つ総魔力量は大体20~30とされていて、実際魔力を使い始めるようになった俺は25くらいしか無かったとか。

これから行く予定の世界にしたって、一般的な人の魔力量は100~500、それなりに凄い存在にしたって700から800。


総魔力量がそれくらいあっても、実際に使える量はさらに減る。

俺みたいに完全に使える奴が何人も居たら、俺の数兆年以上は一体何だったのかって話だしな。


ほんと――一体何だったのかって話だけどなぁ!ヴァルミオンンンン!!(奴は生まれながらにして全魔力を扱う事ができたらしい)


…話を戻そうか。


魔法にも色々あって、攻撃魔法、防御魔法、補助魔法バフ妨害魔法デバフ、特殊魔法の五つに分かれる他、その中でも初級から超級でランク分けされる。


例えば、火属性で且つ焼却属性を持つ初級の攻撃魔法なら、火球ファイア・ボールというように。

――で、このファイア・ボールは魔法の説明をするときに比較に使いやすいから良く覚えておいて欲しい。


この魔法の魔力消費量はまさかの3。

攻撃魔法の中でもトップクラスの燃費の良さを誇る。


対する俺の今使っている魔法、混沌をも統べし権能ケイオス・エクスシアは消費魔力7000…を、だ。

とても人に扱える代物ではない。


だが俺の魔力は、長い長い時間を経て増やし続けた分、そこらの人よりもずっと多い。

その総量、まさかの一万超え!


ヴァルミオンが生まれつき使えた量よりもちょっと多い程度である。

…空しい。


しかも人によっては異能タレントという生まれ持つ才能のような物によって、魔力の総量がこれ以上だったりもするのだ。

神様が言うには、俺の向かう世界以外の世界…闘争に満ち溢れた世界には、生まれながらにして無尽蔵の魔力を持つ者がいるとも。


ほんと、俺の努力ってどうしてこうも天才に嘲笑われる傾向にあるんだろうか。


因みに異能タレントは一人最大三つまでしか持てない。

だって、才能みたいなモンだからな。

天は三物以上を与えないのだ。

後天的な方法で得ることも一応可能だけど、それは生まれ持ったものが無かったか少なかったかのどちらかのみ。

俺も転生するときにもらえるらしいが、一体どんなものがもらえるのだろうか。


この調子で行くと、他の天才たちの下位互換みたいな異能タレントなんだろうなぁ…


さて、二つ目だ。

支配できるものの情報が一気に脳内に入ってくるので、脳がパンクしそうになるという点。


細かい部分までが支配対象なのだ。

故に、その全ての細部に至るまでを理解してしまう。


無論人間の脳はそんな大量の情報を一度に処理しきれない。

だから『脳内秘書スマ子ちゃん』という能力を態々作り、情報処理を任せられるようにしたのだ。


因みにスマ子ちゃんは喋らない。

そういう機能をつけようと思えばつけれるが、そんな余裕が無かった。


しかしその情報処理能力は非常に優秀。

必要とするものだけをピックアップし、その中でもさらに重要性の高い物を優先的に表示されるようにしてくれたり、脳内に蓄積され過ぎた情報を大まかな内容だけ残して残りを収納(脳内ではなく、能力内部に保存する形になる)してくれたりする。


その作業の丁寧さが祟って、『混沌をも統べし権能ケイオス・エクスシア』を使うと頭がガンガン痛むんだけどな。

ギリギリ耐えれてるって感じ。


――音声含め、この辺は要改良だな。


「さ。まずはその魔法、『絶対魔壊ヴァルミオン』を貰おうか。前回と違い、抵抗される心配が無いからな。――盗賊王の無法伝説・第一章マジック・テイク!」


『盗賊王の無法伝説』は、簒奪魔法の最高位に位置する魔法だ。

これ以下になると、相手に抵抗される可能性が出てきてしまうが、コイツは防がれることなく奪える。


――ただまぁ、対面で使うには発動までに時間かかってリスキーだし、ヴァルミオンの異能タレントの『王の資格を持つ者ユーアー・オンリー・ワン』の効果のせいで『盗賊王の無法伝説』でも抵抗されるんだけどな。


生まれ持ったタレントがぶっ飛びすぎじゃないですかねこの人。

魔力の量だって、生まれた時から一万超えだったらしいし。


「『権利返還』……流石に、これ以上は不味い」

「――、く、はは…やるでは無いか。まさか我が魔法を奪われる日が来るとは思わなんだ」


支配魔法を一度解除し、左手で頭を押さえながら後ずさる。

魔力消費の疲労感と情報過多による頭痛が同時に攻めてきて、脂汗が止まらない。


アイツもアイツで、支配魔法の影響を受けた挙句、自らの持つ最強の魔法を奪われた事でかなり精神的ダメージを受けたようだ。


互いに痛み分け…ってとこだな。

若干俺が押し負けてる気もするが。


「…『絶対魔壊ヴァルミオン』…全属性全派生属性の魔力を同時に込めて放つ魔法、ね…魔王の必殺技に相応しい技だな」

「かつて勇者を名乗り我が前に現れた男も、同じ反応を見せていたな。魔の力を全て扱えるのが、それほどに驚くべき事か?」

「当たり前だろ!俺なんて、闇属性かつ派生属性は三つだけとか、結構しょっぱい適性なんだからな!」


魔の力を自在に操れるからこその魔王、なのだろうか。

俺には理解できない事に変わりはないだろうが。


「それで?まさか奪っただけで終わりだとは言わんだろうな。まぁ、使えるとも到底思えんが」

「だろうな。――ただ、使おうと思えば使える」


挑発する様にこちらを見てくる魔王に、肩を竦める素振りと共に返答する。

あぁそうだ、そうだとも。

『絶対魔壊ヴァルミオン』なんてぶっ飛んだ魔王オリジナルの魔法だって、やろうと思えば使える。


本来の使用用途とは異なるが、それを可能とする能力があるからな。

――代償に、一定時間魔力が使えなくなるけど。


「ただ使ったら魔力が使えなくなるからな。この一撃で今回は終わりになる」

「…面白い。貴様の世界で言う、ガンマンの早撃ち合戦…というわけだな?」

「いや。純粋な火力勝負だろ」


冗談を言い合うような気軽さで喋りながらも、その一歩一歩を踏む足は力強い。


奪い取っただけで、十全に扱える可能性の低いのこちら側と、本家本元で全力を使えるあちら側。


どう考えたって明らかに向こうが有利だが、俺には限界まで鍛え上げられた肉体がある。

ただ魔力を極光として放つだけのこの魔法を、俺流にアレンジすれば…或いは。


「行くぞ!勇者我が友よ!『絶対魔壊ヴァルミオン』!!」


再び現れた極彩色の魔法陣は、先程の倍以上の大きさをしており、放つ威圧感や魔力も桁違いだった。

これでラストだから、しばらく魔力切れになるのを承知で全魔力を使う気なのだろう。


そんな全力を、魔王に…友と呼ばれながら出されてしまったのだ。

なら、俺が手を抜くなんて真似、するわけにはいかないだろう。


「『絶対魔壊ヴァルミオン』……装填セット!」


前傾姿勢気味になり、右腕を弓の弦を引くようにして、体よりも後ろに持って行く。

極彩色の魔法陣が右腕に纏わりつき、ギラギラと輝きだした。


…準備、完了だ!


「――――!!」


光すら置き去りにするような速度で、ただ真っ直ぐに魔王へと駆け出す。

それと同時に、奴が魔法を放った。


右腕に装填された魔法は、既に発動済み。

技名も叫んだ。


後は…どっちが勝つか、勝負だ!!


※―――


「…ククッ、ハハ……クハハハッ!!」


あぁ、なんと面白い。

奴との関わりを思い出すだけで、笑いが込み上げてきて仕方ない。


佐野太郎。我の知らぬ異界にて生まれ、我の生まれ育ち、支配した世界への転生を望む変わり者。

我と戦う事を楽しみと言い、我と話す事に恐れを抱かず、我に友と呼ばれ下心なく喜んで見せる、変わり者だ。


「次第に心を摩耗しているというのに、その強さ、その輝きは増すばかり…魔王たる我を恐れる事なく、友好的に接して見せる豪胆さ……ククッ、なんという男か」


最後に戦ったのは、何年の時を遡った頃だろうか。

我の専用魔法を奪い、ソレを変化させて自らの新たな力として転用し、見事我に打ち勝って見せたあの戦いは、一体どれほどの過去の事だろうか。


今頃奴は、簒奪や支配とは違う魔法の修練に励んでいるのだろう。

そしてそれが完全に極地へと至れば、我に挑みに来るのだ。


それのなんと楽しみな事か!

それのなんと喜ばしい事か!


「佐野太郎、勇者、友……否。この感情はもはやそのような言葉では表せぬ」


体が震えて仕方が無い。

そうだ。我はあの男との時間が…何よりあの男がのだ。


――しかし、きっとこの姿…男性の姿でこの思いを伝えるのは不味いだろう。

奴に同性愛の気はなさそうだし、何より我は本来ならばなのだから。

愛されるなら、本来の性として…女として愛されたい。


魔王たる姿とはコレだ、と拵えたこの『皮』も、そろそろ脱ぎ捨てる時か。

そろそろ耐久の面も危うくなってきたわけだし。

…それに、これから我が夫となる者に姿を偽り続けるわけにもいくまい。


「クハハ、よもや…よもやこの我が男に、ましてや人間種に恋慕の念を抱く日が来ようとは思わなんだ!」


かつての皮を脱ぎ真の姿をさらし、真の声をこの狭間の空間にて響かせる。

この姿を見た時、彼奴は一体どのような顔をし、どのような反応を見せるのか…それもまた楽しみで仕方ない。


あぁ、すぐにでも貴様に会いたい。

そしていつぞやのように戦争たたかい、我が想いを、我の全てを曝け出したい。


――さぁ、疾く修行を終えるのだ、夫よ。

貴様の伴侶は、そう長く辛抱のできぬ女だぞ。

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