第4話 魔法について話そう
あの組手から、さらに数兆年後。
そろそろ肉体の成長が停滞し始めてきたし、神様からも『素の力…或るいは気の力を使ってのみの戦闘ならば、お主に勝てる者はどの世界にも存在しないわい』とお墨付きを貰えた。
そりゃまぁ、化け物って言われてもおかしく無いくらいの筋肉ダルマ状態から、一周回って元の細マッチョ(筋密度はかつての比ではない)に収まるくらいまで鍛錬しちゃったしな。
人間の限界なんてずーっと前に超えちゃってるし、一旦こちらに集中するのは辞めても構わないだろう。
…と、言う事で、これからは魔法のトレーニングを本格的に開始することにした。
今までは魔力の絶対量を増やしたり、全身や体外へ移動させるトレーニングを肉体的なトレーニングと並列して行っていただけだが、これからは魔法だ。
魔力を消費し、直接的な『現象』へと変える、魔法。
正直肉体の訓練よりもずっと時間がかかりそうな気もするが、まずは『魔法』の詳しい内容についてまとめてみよう。
まずは、属性について。
魔法の属性というのは、魔力をどんな現象に変えることを一番得意とするか、という風に言い換えることができる。
火に変えることが得意なら火属性に適性を。
水に変えることが得意なら水属性に適性を。
風に変えることが得意なら風属性に適性を。
土に変えることが得意なら土属性に適性を。
光に変えることが得意なら光属性に適性を。
闇に変えることが得意なら闇属性に適性を。――という風に。
俺の場合は闇に変換するのが得意だったから、闇属性に適性があると言える。
そこからさらに、闇属性の中でさらに属性を分けて、どれに適性があるのかを測る。
細やかな適性の場合は、人によっては複数に適性が出る可能性もあるのが面白い所。
俺の場合、『簒奪』と『支配』、『反転』の三つに適性がある。
これらは闇属性派生魔法の中でもトップクラスの魔法だと、俺の魔法の師範代的な人が言っていた。
ふふふっ、どうやら俺の才能はこんな所に隠れていたらしいな。
最初はそう喜んだが、闇属性魔法を使えて且つこの三つの内どれかに適性を持った人は良くも悪くも波乱万丈な人生を歩む運命にあると言われてからはそうも言えなくなった。
魔法の適性で人の運命を決めないでいただきたい。
さらに、師範代的な人…先生は火属性派生魔法全てを扱えて(全部でどれくらいなのかは聞く気にならない)、ヴァルミオンの方はまさかの全属性全派生属性使いだと。
なんだこの格差。
余計に自分の才能の弱さを思い知らされたわ。
――さ、それはそれとして話を戻そうか。
次は、俺が行く予定の世界における魔法使いと魔法のあり方についてだ。
その世界では魔法使いはありふれた存在になっている。
何せ科学の発展が異様に遅れるレベルで魔法が一般化してる世界だからな。
運動の得意不得意みたいに魔法の得手不得手が扱われているとの事。
だから、魔法使いというのはゲームのようにジョブ…職業にならない。
冒険者(異世界系の作品で良く聞く職業。未開の地を探検したり、依頼をこなして報酬を貰ったりする仕事。自由に見えて規律が多いらしい)という職業に就いている魔法使いや、宮廷魔術師(魔術と魔法は違うと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。ただし魔導は別物)等は職業扱いになるが。
そして、俺の行く世界は魔法がとても衰退し始めている…というか、させられているらしい。
かといって科学技術が進化してるかと聞かれればそんな事は全然なく、神秘と共に暮らす世界だと言う事に変わりはないとのこと。
何か悪い事を謀っている奴が、意図的に魔法を使う事を可能とする存在の強さを下げようとしているそうだ。
正直回りくどいとしか言えない。
「まぁ、ソイツがどんな奴かは知らねぇけど、もし邪魔になるようなら殺すか。――ん?」
自分の発した言葉に違和感を感じ、脳内で再確認。
もし邪魔になるようなら、なんだって?
殺すって、言ったのか?
「……お、おいおい。俺ってそんな危険思想の持主だっけ?殺す殺さないとか…そんな物騒な話、してたっけ?」
どちらもノーだ。
俺は物事を平和的に解決しようとするタイプだったと自負しているし、仮に喧嘩になっても滅多に殺す等と言った言葉は使わなかったはずだ。
なのに、今…え?見ず知らずどころか、俺に悪影響があるかどうかもわからない奴相手に?
「これは今度考えようか……とにかく今は、魔法の修練。基礎から応用、そして魔法面でも最強を目指すぞ!」
そして、また気の遠くなるような時間を過ごすことになる。
※―――
魔法の訓練を開始して何年か。
最初は満遍なく使えるようになろうとしていたが、どうせ時間は無尽蔵にあるんだし一つ一つを限界まで育てていく方が良いと判断。
現在は『簒奪魔法』の修行中だ。
簒奪魔法は文字通り何かを奪い取る魔法。
何せ極めれば相手の命すら好き勝手奪えるというのだからな。
他にも力、時間、能力、等々…その代わり普通の人は『強奪』以下程度までしか練度を上げることができないくらいに上達までに時間がかかるんだけども。
「相手は勝手に用意してくれるから良いけど、まるで上達した気がしないな…もしかしたらモチベ的に一番最後に持ってくるべきだったかもしれねぇ」
支配とか反転の方が、まだまだ成長を実感できそうだった気がする。
どんな訓練をすべきかわからないけど。
簒奪の方は、相手に簒奪魔法を只管使い続けるってだけで単調なトレーニングだが、多分他二つは色々やるんだろう。
…そう思いたい。
――というか、極めれば命すら奪えるって時点で大分モチベが上がらない。
だってお前、俺がどれだけ苦労して
億単位だぞ?
俺の数億年返せよ。
「…嘆いてても意味はない、か。
相手から何かを奪う魔法を棒読み気味に発動し、地道な作業へ戻る。
ここにきて数兆年ぶりくらい(或いはもっと前の可能性もある)に心が折れそうだ。
※―――
あれから、マジで何年たっただろうか。
時計みたいな物を見ても、桁が多すぎてわからない。
恒河沙までしか知らんのよ俺。
弥勒菩薩でも、衆生を救うのにここまで長い時間使わんぞ。
「でもまぁ、簒奪魔法はこれでマスターしたって言っても過言じゃ無いな」
「過言も何も、それ以上はあり得ないからのぉ…」
「あ、先生。来てたんですね」
「まぁ、のぉ。――まさか本当に個の極地へと辿り着くとは思わなんだ」
「ははは、まだまだこれからですよ。この後もう二つの魔法も限界まで鍛えますし、能力ももうちょっと数を増やしたいですし…あ、『気』の訓練と、全部を組み合わせての戦闘とか――」
「お主は、少々壊れておるのぉ」
笑いながらそう言ってくる先生に、釈然としない物を感じる。
壊れているって、なんのことだろうか。
寧ろ俺は変わらな過ぎておかしいくらいだろう。
こんな人どころか神様ですら味わったことのないような長い時間をこんな場所で過ごし続けて、こうも無事で居られているのはある種偉業と言えるはずだ。
だからねせんせ。もっと褒めていいんっすよ?
本当は若くて可愛い女の子に滅ッ茶苦茶に褒められたいけど、魔法について一から十まで教えてくれた恩師だからそっちでも嬉しいんっすよ?
先生の見た目は枯れ果てた髭の長い爺さんだけど、それでも全然別ベクトルの嬉しさがあるんっすよ?
「儂が死した後、輪廻の枠を外れ暗黒の中を随分と長い事彷徨ったが…お主程長い時間を一人で過ごした訳ではないからのぉ…その辛さは決してわからんが、偉業であることは良くわかる」
「おぉ!あ、ありがとうございます!」
まさか本当に褒めてもらえるとは思わなかった。
なんだかちょっと照れくさい気もする。
「じゃが、やはり壊れておるな」
「…えぇ…壊れてるって、どこがでしょうか?」
「心じゃな。肉体と時間の流れに、精神がついてこれておらんのじゃろ」
「そんな事ないと思いますけど」
「んにゃ。壊れとる。修復できん程にな。――当然の帰結じゃがな。人の生きるべきでない時間を過ごしてなお人であろう等と、愚者でも言わんわい」
…えーっと、それはつまり…長い間生き続けたせいで、俺はもう人としての心を失ってるって事?
でも思い当たる節なんて……あ゛。
「確かに、今までなら決して言わなかったような事も何気なく考えるようになったり…」
「命の価値観が変わって来た、と言ったところかの。死と関わりのない世界で長き時を過ごせばそれも仕方なくはあるじゃろうが」
「…えっと、直らないんでしたっけ?」
「あぁ。決してな。お主はもう人でなしとして生きる他あるまいよ」
ひ、人でなしは困る。
それじゃ異世界転生してからどうやってハーレムを作れというんだ。
女の子の心どころか、人の心が理解できなくなってたら恋愛どころじゃないぞ!?
魔法がひと段落ついたら、ラブコメアニメを周回するしかねぇんじゃ!?
「……っと。無駄話はこれくらいで終えて…支配魔法について、話そう」
「む、無駄話って訳でも無かった気が……まぁ、はい。お願いします」
※―――
先生から支配魔法についての説明を聞き、修練に励むようになって早七十恒河沙年。
恒河沙って、年の単位として使うべきじゃないはずなんだけどな。
「悪いな、ヴァルミオン。魔法の試運転がてら戦ってくれなんて…魔王使い、荒かったりするか?」
「ククッ、構うまいよ。我と貴様の仲だろう。我は貴様に期待していると、遥か昔に伝えたはずだ。――なら、その期待通りになるように手を貸すのが、我の義務だろう?ただ眺めるだけでは、すぐに飽きてしまうからな」
「そりゃありがたい限りで…」
ヴァルミオンと向かい合いながら、戦闘がいつ始まってもいいように構える。
常に警戒状態で生活しているからあまり関係ない気もするが、やっぱり目に見える変化というのは大事だ。
俺自身、脳内でスイッチが入る気がする。
――さて。前にやった時は簒奪魔法を試させてもらい、結局敗北したが…今回こそ、勝利にたどり着けるはずだ。
「
「ククッ、まだ魔法は使わぬか。それとも使い方を忘れたか?なら教えてやろう…こうやって使うとな!
昔使った時よりも破壊の力は増しているはずだが、やはりヴァルミオンには無意味らしい。
一瞬にして全てが元通りになり、直視できない程に眩い炎が出現した。
「忘れるかっての。――
ここで支配魔法を使う。
と言っても初心者が使うような物だが、それでも十分破格の性能を持っているのだ。
先生に教えてもらった時、初めにこの魔法について抱いた感想。
それは、「なんだこのチート魔法」であった。
支配するものは何でもあり。
人も、自然も、何もかもが思い通りになる(限界まで極めた場合)というぶっ壊れ性能。
代わりに簒奪魔法ばりにモノにするのが困難で、しかも持っているだけで波乱万丈人生確約と来た。
使うにしたってかなり条件が必要だし、正直…使わない。
戦闘中は限定的に条件を解除できるように新しく作った能力を使用しているが、普段は無用の長物状態だ。
――で、でもまぁ?異世界に行くようになったらほら、可愛い子もいっぱいいるだろうし?
その手の本よろしく、精神支配であんな事やそんな事をしてみたりとかできるだろうし…条件さえ満たせばだけど。
「ほう!簒奪魔法だけでなく、支配魔法すら操るか。流石は我の宿敵…友よ!!」
「友!?それは普通にありがとう!――でも、今は殺し合いだろ?」
相手の魔法だって、な。
『汝、真の炎を知れ』の制御権を俺の物にし、攻撃対象と範囲をヴァルミオンに限定する。
すると炎の塊は不自然な動きをして進路を変え、本来の使用者へと向かっていった。
だが、その程度では魔王は焦らない。
寧ろ、笑って見せた。
「無駄だ!
自らが出した炎を、巨大な氷塊の中へと閉じ込める。
融け落ちる事なくその場に鎮座するソレからは、吐く息を白くするような冷気が放たれ続けている。
…アイツの魔法の制御権を奪って、その魔法で攻撃するだけじゃ足りないか。
「
「ッ、発動までの時間が短縮されたか…!日々成長しているだけあるな!」
戦闘中…ってか殺し合い中って言ったろうに。
なんでコイツは俺が何かをするたびに褒めてくれるんだよ。
嬉しいけど、戦闘中に褒められてるから素直に喜べねぇよ。
馬鹿にされてる気しかしねぇもん。
刻印をしたのはヴァルミオンにではなく、魔法に向かってだ。
アレがあるのと無いのとでは話が違ってくる。
イレギュラー…不確定要素は排除しておくに限るな。
「起動。――んじゃ、本領発揮と行くか!」
「来るか、勇者!ならば全霊を持って応じよう!」
刻印の効果により巨大な氷が砕け散ると同時、前傾姿勢になって駆けだす素振りを見せる。
すると魔王はマントを翻し、体の周りを覆う程度に抑えていた魔力を一気に溢れさせた。
突き出した右手に出現したのは、極彩色に光る文字が禍々しく歪み、円形になっている物。
全属性全派生属性の力を一つにまとめ、極光として放つ大魔法…その魔法陣だ。
名を、『絶対魔壊ヴァルミオン』。
自分の名前を冠している、彼が自ら最高最強の魔法と語る程の物だ。
実際その力は、全身全霊で振り抜いた俺の右拳と拮抗し、衝撃を対消滅させる程だ。
…いや、俺の鍛えた時間。
まぁ、今回使う魔法の前には、そんな攻撃も無力。――だと良いなぁ…
「
内心自信が無いながらも、威風堂々と声を発する。
それと同時に、俺を中心として大量の魔力が周囲に満ち溢れ……
全てが、その動きを止めた。
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