ヘイトと言う名の射線

 普通車、ワゴン車、軽自動車、トラックにダンプ、路線バスや幼稚園の送迎バスなどなど、通勤通学で急ぐ働く車たちが、つづら折りのようにナナメって急停車し、ラインダンスの集団を取り囲む。

 けたたましいクラクションがあちこちから鳴り響く。


「「「「「「「「「「「「っハイ!ハイ!ハイ!」」」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「「「っハイ!ハイ!ハイ!」」」」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「「「「「っハイ!ハイ!ハイ!」」」」」」」」」」」」」」」


 それでも僕らは、その人たちに向かって足を振り上げて踊りつづける。


 そんな僕らを、フロントガラスの奥から人々が見ていた。多くの人がマスクでその顔を隠し、マスクの上にあるのは、呆れたような目、軽蔑するような目、苛立った目……。死んだ魚のような目からネガティブな感情たちが弾丸のように放たれて僕らを狙撃する。


 車中の数人が、おもむろに、その目さえも何かで覆い隠した。スマホだった。窓を開けて腕を外に出し、スマホをこちらに向けている人もいる。


 どうやら警察に通報するため、ではなさそうだ。おそらくSNSに晒す目的で動画を撮っているのだろう。黒い無機質なレンズが僕らを狙っていた。


 ジャーーーンッ!!


 突如鳴り響く音。

 人々は、思わず音がした方へと顔を向ける。


 パパパパーン♬パパパパラパーーン♬


 歩道から、そんな音が響きはじめた。ラッパのような楽器の音である。


 ドドドドン、ドドドドン、ドドドドッドドッ♬


 つづいて力強いドラムの音が響く。


 僕は踊りながら、首を巡らせた。歩道から出てきたのは、地元の高校生たちだった。それぞれにトロンボーンやマーチングホルンなどの金管楽器を手にし、中にはスーザフォンという大型の金管楽器を担いでいる子もいる。また、シンバルを持つ子、マーチングドラムを腰に下げる子、フルートやピッコロ、サクソフォンなどの木管楽器を手にする子もいた。演奏しながら、一糸乱れぬ動きで隊列を組み車道に出てくる。

 そして、その隊列を率いて先頭を行くのが奇妙な動きの女子高生たちだった。そんな高校生たちの集団が、僕らを狙撃する負の感情の射線を断ち切っていく。


「マッ、マーチングバンド部のっ、子たちでしょうか?」

「で、でしょうね」


 踊りながら、息絶え絶えにそんな会話が交わされる。


「しかし、彼女たちのあのダンスは、一体何なんでしょうか?」

「そうですね、独特と言うか」

「いや、な~んかどこかで見覚えが……」


 パレードの先頭で矢面に立つ彼女たちは、手首を胸の前でクロスさせ、エア・ドラマーよろしくシンバルでも叩いている風にして、その足は馬にでもまたがっているような蟹股がにまただった。そして、首をかしげるように顔を横斜め45度に折って口は半開きで、何と言うか、率直に言うと何ともふてぶてしい表情をしていた。

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