ラインダンサーズ、表に出る

「じいちゃんも、きつくないっすか?自分、支えますよ?」と、ジョギング途中の大学生が言っている。


「なにをこれしき!ワシャ、これでも健脚でならしとるんじゃ」


 股引爺さんがそう言っている。


「わ、わたしはもう限界かも……」


 ハヒハヒ言いながらメタボサラリーマンが助けを求める。


「ちょっと、あなたの体重、誰も支えきれないわよ!ホラ!肩なら貸してあげるからしっかりしなさいよ!」


 隣の主婦が檄を飛ばす。


「しかし、どこまで行くんだ?」


 進行方向を見て、おっさんがつぶやいた。僕らは、住宅街をゆっくり進んでいく。


「ここは住宅街だからまだいい。けど、このまま進めば大通りに出るぞ。朝の時間帯は交通量も多い。このまま突っ込むようなことになったら危ない」


 その時だった。


「「「「「「「「「「「「っハイ!ハイ!ハイ!」」」」」」」」」」」」


 そんな掛け声がどこからともなく聞こえてきた。


「なんだ?」


 声は、別の住宅街の道の奥から聞こえてくる。


「「「「「「「「「「「「「「「っハイ!ハイ!ハイ!」」」」」」」」」」」」」」」


「こっちからも!?」


 住宅街の十字路。まっすぐ進めば左右二車線の表通りへと出る。その十字路の左右から、それは現れた。


「あぁ……」

「そんな、う、嘘だろ!?」

「あり得ない。ほかにも、いたなんて……!」


 僕らは、左右から現れた物体に言葉を失った。




「「「「「「「「「「「「っハイ!ハイ!ハイ!」」」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「「「っハイ!ハイ!ハイ!」」」」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「「「「「っハイ!ハイ!ハイ!」」」」」」」」」」」」」」」


 僕らは、リズミカルに足を振り上げながら、とうとう表通りへと出てしまった。途中、十字路で別のラインダンサーズと合流した。赤い靴の呪いにかかったのは、僕らだけではなかったのだ。


 ラインダンスの三つの列が、住宅街から出てくる。よく見ると、別の住宅街からも同じようなラインダンスの列がいくつも出て来ていた。

 通勤途中だった社会人。通学途中だった学生。郵便受けの新聞を取りにたまたま外に出ていたような部屋着な人たち。いろんな人たちが肩を組んでダンスしている。

 そして、そんな僕らはゆっくりと車道へと進んでいく。


「おいおいおい……!」

「ちょ、それはマズイって!」

「轢かれちゃいますよ……」


 言葉で焦りつつも、僕らは車道へと文字通りに躍り出た。

 道の左右で、車が次から次へと急停車し、あたりにブレーキ音が鳴り響く。


「すまん、止まってくれ!!」

「ごめんなさーい!」

「身体が勝手に動いて止められないの!お願いだから(そっちが)止まってーっ!」


 僕らの列を筆頭に、ラインダンスの列は、まるでテトリスの長い棒のように次々と、車道へとなだれ込んでいった。奥まで進み、左右二車線計四車線全てを塞ぐ。

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