呪いの正体
「「「「「「「「「「「「「っハイ!ハイ!ハイ!」」」」」」」」」」」」」
通学中の小学生たち。ゴミを出しに表に出ていた主婦。お散歩中だった
今や僕らのラインダンスの列は、十人以上になっていた。
「い、いつまでつづくんですかね、これ?」と、ヒィヒィ言いながら汗だくのメタボサラリーマンが誰に言うでもなく問いかける。
「わかんないっすよ、僕に言われても」と、隣のジョギング途中だった大学生が応えた。
「と言うか、一体これはどうなっとるんじゃ?」と、股引爺さんも言った。
「きっと、赤い靴のせいです」
そう僕は答えた。
「それはみんな分かってるじゃないか。この光り出した靴が原因だって」
僕の左隣のおっさんが、ゼェゼェ息をしながら言った。
「いや、そうじゃなくて。知りませんか?童話の『赤い靴』です」
僕がそう言うと「あたし、知ってる!」と、女の子が声を上げた。赤いパステルカラーのランドセルを背負った小学校低学年生くらいの女の子だった。
「決まりを破って舞踏会に出かけようとした女の子に罰が当たってね、赤い靴が脱げなくなっちゃうの。そしたら靴が勝手に踊り出してね、そんなにダンスが好きなら、骨になるまで踊れって、ボロボロになるまで踊らされるの。死ぬまで踊りつづけないといけなくなっちゃうんだよ」
「そう。これって、その赤い靴の呪いなんじゃないでしょうか?」
「なら、ワシらは、このまま死ぬまで踊りつづけにゃならんのか?」
股引爺さんが情けない声を出す。
「いえ、たしか童話では、どうしようもなくなって斧で足首を切断したんですよ」
ゴミ出し主婦がそう言うと、人々から悲鳴が上がった。
「その後も、足首だけになった靴は、そのまま踊りつづけたとか……」
「あ、あ、あぁ」
「あ、あの!誰か!おばあちゃんがもう限界です」とOLがかすれ声で叫ぶ。
僕は首を伸ばして左を見やった。おっさんとOLの肩にぶら下がるように鈴木さんがぐったりとしている。八十代後半のおばあちゃんにラインダンスはキツかった。身体が揺れるたびに、死にかけのニワトリみたいに首がぐらんぐらんしている。
「鈴木さん、だいじょうぶですか!」
僕は叫んだ。
早くどうにかしなければ、本当にヤバイ。本当に死んでしまう……。
「よーし、ばあさん!俺が抱えてやるから少し休め」
おっさんは、そう言うと片腕を僕の肩から外した。鈴木さんは、糸が切れたマリオネットのように身体をおっさんの腕に預けた。
「うおっ!こりゃキツイ。俺も長くは持たんぞ」
「自分も」
僕も片腕を外しておばあちゃんの上半身を支えた。
「わたしも」
鈴木さんの左隣のOLは、投げ出された足を支える。片腕が外れた僕らを、隣の人たちがカバーする。
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