「ポゥッ!!」の咆哮、情熱的な「オレィ!!」
「あれま、どうしましょ?ど、どうしましょ?」
そう言っているけれど、止まらない。止められないのだ。その気持ち、痛いほどわかる。
鈴木さんは、箒を投げ捨てると、急に高くジャンプして「ダッ!!」と短く叫び仁王立ちした。
「「!?」」
僕とおっさんは、舞踏会ダンスを踊りつつ、一体何が起こったのか鈴木さんを注視した。鈴木さんは、何を思ったのか片手を股間に当てた。もう一方の腕を高く上げる。
そのシルエットに、僕は見覚えがあった。
次の瞬間……鈴木さんが、素早く股間を前に突き出す!
「ポゥッ!」の咆哮!
その場で見事なステップで踊り出した。
「おお!これは……」
踊りながら、おっさんが感心している。どうやらおっさんも、心得ているらしい。
「マイケルですね」と僕も応じた。
見事な静と動。そう、それは紛れもなくマイケルジャクソンのダンスだった。
「ヤダッ!どうしましょ?どうしましょ?……アウッ!!」
なんて言いつつ、鈴木さんが見事なムーンウォークを披露する。
やがて鈴木のおばあちゃんと僕とおっさんの三人は、互いに肩を組んでラインダンスを踊りはじめた。
「「「っハイ!ハイ!ハイ!」」」
なぜだか三人とも足を上げるたびに声が出る。
そんな僕らの背後から、紺色のスカートスーツに身を包んだ女性が、僕らの視界に入らないように、しかし遠巻きに明らかに僕らを避けて、素早く逃げるように通りすぎようとした。
僕らはそれを許さない。三人のラインダンスは、左右に逃げ惑う彼女を見事にブロックする!
女性は、うつむいたまま絶対に僕らと目を合わそうとしない。その内に、彼女のパンプスも赤く発光し、僕らを避けていた彼女は、引力でも働いているかのように、今度は自ら僕らに引き寄せられてきた。
「いや~。いやいやいやいや……」
今まで死んだような無表情をしていたのに、急に感情を表に出すと、そのOL風の三十代くらいの女性は、今度は半笑いで「無理です無理です~w」と断るように手をひらひらさせる。
けれど、急に全身に電気が流れたように身震いすると、シャキーンと直立、マスクを捨て去り、情熱的なフラメンコを踊りはじめるのだった。
タカタカタット♩タカタカタット♩タカタカタットット……♬
「オレィ!」
かっこよくポーズを決めると、急に我に返ったかのように手で顔を覆い「嘘?なにこれ、嘘?」と小声で言い、再びフラメンコを踊り出す。次第に、ステップも素早く激しくなっていく。
タタタタトット!タタタタトット!トトトトトタッタットッ!
「オレィ!!」
「「おお~!オーレ!オーレ!」」
手がふさがっていて手拍子も拍手もできない代わりに、僕とおっさんもそうやって彼女に声援を送った。
やがて彼女も、おばあちゃんの隣で肩を組むとラインダンスに加わるのだった。
「「「「っハイ!ハイ!ハイ!」」」」
僕らは道を進んでいく。朝だ。行く手には、会社や学校へ向かう人たちの背中が見えた。
……。
…………。
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