第27話 【ざまあ回】これが冒険者か?追い剥ぎかと思ったぜ。
「後ろのヤツがああ言ってる、早いトコ頼むよ」
俺は振り返らずにカウンターにいる中年女性に言った。
「おい、シカトしてんじゃねーぞ!」
後ろの奴が俺の肩に手をかけた所で振り向きながらその手を振り払った。するとそこには声と同様に品の無い顔をした男と、その連れに相応しい似たような男達がいる。
「汚い手で触れるな、汚れるだろ」
「こっ、この野郎ッ!!」
そう言って掴みかかってくる男から身をかわす。
「このガキ、チョロチョロとッ!大人しくしてりゃ教育料だけで勘弁してやろうと思ったのによォ!」
「なあ、冒険者ギルドはこういうヤツを止めたりしないのか?俺に
「ギルドってのは冒険者同士のいさかいには
事もなげに受付は言う。
「申し込みが完了した訳じゃないから俺はただの町人だぞ。それを襲う…、お前も冒険者ギルドってのも実際は冒険者でなくて追い剥ぎだな!」
「な、なにィ!?追い剥ぎだとお?」
「チッ、この礼儀知らずの
腹を立てる冒険者とそれを俺にけしかける受付の中年女。
「ああ、言われるまでもねえ!」
そう言うと男は殴りかかってきた。俺は
その身体能力で俺は男の
並の人間が五つ数える間に100フィートを走るとすれば、俺は一つと半分過ぎくらいには駆け抜ける。おそらくこの男には信じられない速さで接近を許したように見えているだろう。
「そら…よっと!!」
そのまま俺は相手を抱き抱えるようにして持ち上げた。大柄で鎧も着込んでいる、なかなか重い、持ち上げるだけでも一苦労だ。
「なら十倍くらいで良いか」
「うぐぐ!な、何を言ってやが…」
そう言って俺が強化術を十倍にまであげると男の胴体を抱き上げ締め付けている力も強まったようで声もあげられなくなった。
「それ、飛んで行け(ボラーレ・ヴィーア)!!」
俺は師匠がたまに口にするどこの国の言葉か知らないが気に入っているフレーズを呟いていた。膝の曲げ伸ばしを利用して勢いを付け後に向かって投げっ話す。すると男は綺麗な放物線を描いて俺の後方、つまり受付カウンターの奥へ飛んでいく。そのまま男はなす術も無くカウンター奥の壁に顔から激突し、力無く床へと落ちていく。後には男の体重を乗せた金属製の鎧が床に落ちる大きな音が響いた。
「よくもヅーンを!!」
投げ捨てられ倒れている男の仲間が腰から
「おいおい、殺す気かァ?そんなノロマのクセして!」
「うるせぇ!テメェの息の根、止めてやるぜェ!」
「あんな事言ってんぞ。人殺しはまずくねえのか?」
俺は受付にそう言ってやったが向き合う様子はないようだ。
「なるほど、やはりギルドも追い剥ぎか!」
そう言うと俺は新手の男に一瞬で接近し、第二撃の為に振り上げ斧を持つ右手を掴んだ。
「は、離しやがれッ!!」
「お前が斧から手を離せ、そしたら俺も離してやる」
「ふ、ふざけんじゃねえ!」
そう言うと手斧使いの男は空いている左手で殴りかかってくる。余裕で受け止め、その拳を握り締めていく。
「ふざけちゃいない、
俺は左右の手に力を込める、普段四つ足でもいざとなれば二足歩行が可能な
中でも恐ろしいのはその握力、若木すら簡単に握り潰す。それは人間にも脅威で
「うぐがああああッ!!」
俺の手の中で連続して起こる破裂粉砕の感触。もうこれ以上音がしなくなったところで俺が手を離すと男の手から手斧がそのまま床にゴトリと落ちる。指の一本も動かせないのだろう、手斧が落ちていくのに何の動きも出来ていなかった。
「さて、お前も仲間の所に送ってやる」
俺が最初に投げ捨てたヅーンと呼ばれた男と同じ要領でこの男も投げ捨ててやった。残るは一人。
「お前はどうする?来なくてもやっちゃうけど?」
「ヅーン…、デミム…」
「ビビってんならこっちから行こうか?」
「や、や、ヤケクソだあ〜ッ!!」
残る一人は
「野郎〜、ブッ殺してやるゥ〜ッ!!」
「そー、そー、それで良い。ご褒美にお前には凄〜く強力な
短剣で刺しにきた三人目…、最後の男の手首を掴んで握り潰す。
「さて、ここからだ。力の差っていうのはしっかりと見せつけなければならないよなあ。そうじゃないとコイツらみたいに第二、第三の馬鹿が現れるからな。しっかりとした見せしめってヤツが必要だ」
そう言って俺は片腕で男の胸ぐらを掴み持ち上げた、大の大人が簡単に宙ぶらりんになる。
「お前なんかにゃもったいないが見せしめには必要だからな…。喜べ、十倍になる
すると男は一本の丸太の如くピンと直立の状態になる。
「この『硬化』の
そして俺は男の胸ぐらと足首を掴み地面と水平に持ち上げる、丁度俺の肩の高さだ。
「やっぱりこういう時の
そう言うと俺は身体能力に十倍の
杭を地面と水平に壁に打ち付けるが如く、肩に担いだ男を突き刺す。凄まじい激突音と共に見慣れない形状のものが現れる。
そこには胸から上を壁の向こうに、残るはギルドの内側に。壁を貫通して突き刺さる男の姿であった。
□
「ア、アンタ…。何をやってんだ、やりすぎだよ!」
受付の中年女性が怯えながら俺を責めるように言ってきた。
「やりすぎ…?」
俺はジロリとカウンターの方を見た。その瞬間、受付の女はヒッと声を上げてカウンターの陰に隠れた。
「そうだ、やりすぎだ!」
「殺す気か、お前!!」
周りで様子を面白がって見ていた冒険者どもも俺を口々に非難する。
「何がやりすぎだ!俺は最初に言った筈だ。難癖つけて金を巻き上げようとするのは追い剥ぎだと。つまり奴ら
俺はギルド中をぐるりと見回して言ってやった。
「盗賊や追い剥ぎ…、それは殺しても良いんだよなあ。むしろ討伐すると褒められる、報奨金付きでなぁ。お前らも冒険者なら知っている事だよな?それが当たり前の事だと」
「「ぐっ!!」」
冒険者どもが押し黙る。
「だ、だけど同じ冒険者じゃないのさ!ちょっとからかっただけの…」
「俺の名を言ってみろ」
「えっ?」
「俺の名を言ってみろと言ったんだ」
「俺が冒険者なら当然登録してあるんだよな?俺の名だよ、ほら…言ってみろ」
「ぐうっ!!」
今度は受付の女が黙った。
「どうした、何の騒ぎだッ!?」
その時、ギルドの奥にある階段から一人の男が下りてきた。
「ギ、ギルドマスター!!」
受付の女が叫ぶ。
「へえ…、追い剥ぎどもの親分さんかい」
俺はやってくる男にそんな言葉をかけてやった。
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