王都と村を離れて。

第26話 西へ。冒険者ギルドに来てみれば


 村を出て西へ…。王都カルアリン近くの街道沿いの森でゴブリンと遭遇しこれを殲滅、思わぬ拾い物を得てルーソンさんと旅をしていた。商業都市アキンドまでは半月の旅の予定だ。


「いや、それにしても良い馬だ。それにさすがは軍馬、足腰も強い。一頭立てではこうは進めなかったろうな」


 ルーソンさんが満足そうに笑う。彼の話によると日が傾いてから目的地に着く予定だったが、午後になってそんなに時間もかからずワラダオンの町に着いた。石造りの壁がぐるりと取り囲む北と西に山、南に海が迫り東は王都カルアリンに続く。


 まずは今夜泊まる宿を決め馬車を預けた。商業都市アキンドまでは距離がある、軍馬を売るのはまだ後で良い。また回収した武具や馬具を手放すのもここではやらない。あのゴブリンどもが奪っていたのは十中八九、カルアリンの騎士や兵士達のものだろう。売って盗品だなどと難癖つけられるのは面白くないからだ。ましてや敗走して落としていった武器なんて噂が立つのは嫌だろう。


「マリク、どこかに行くのかい?」


 出かける準備をしていた俺を見てルーソンさんが声をかけてくる。


「ちょっと冒険者ギルドまで。あんな街道沿いにまでゴブリンがいたから討伐依頼が出てるんじゃないかと思いましてね。小銭が稼げるんじゃないかと」


「なるほどね」


「まあ、出てなくても討伐の褒賞金くらいはもらえれば…」


 魔獣などを狩れば毛皮や牙、爪などを売る事も出来るがゴブリンはそう言ったものが無い。しかし、群れて集落や旅人などを襲う事があるので討伐が推奨されている。稼ぎとしては微々たるものだが、無いよりは良い。そんな風に考えて俺は町に出た。


 商業都市をはじめとして西方に行くにはまずこのオダワランの西にある険しさで知られるハッコネン山地を越える必要がある。ここオダワランで準備をして休養を取り山越えに備えるのだ。


 山には魔獣も出るし、山賊や追い剥ぎが現れる時もある。そんな魔獣を狩り生活の糧を得る者や主に山越えをする商人を護衛する者達に仕事を斡旋するのが冒険者ギルドである。


 俺は路銀の足しにしようというくらいのつもりで冒険者ギルドに出かけていった。



 オダワラン冒険者ギルドに入ると無遠慮な視線がこちらに向いた。現れた者に対する確認をするというのが習性なのかも知れない。それをした後にもこちらをジロジロと見続ける奴は値踏みをしているのか、スキあらば何かしてくるか…、いずれにせよロクなものではない。


 俺はまず掲示板を見た。するとカルアリンに近い街道沿いの森に住みついたゴブリンを討伐するという依頼があった。しかしこの依頼、話をそのままに受け取るのは危険だ。新たに住み着くような群れだ、ゴブリンだけでなく群れを率いるようなリーダーの存在がいるかも知れない。


 と言うのもゴブリンの集落のようなものがある。これが大きくなり過ぎると、その群れの一部が新天地を求める場合があるらしい。新たに現れる場合は外敵により住処すみかを追われたか、それとも新天地を求めたか…。あの街道沿いのゴブリンの群れにホブゴブリンもいた、おそらくは大きな群れを離れ流れ流れてやってきたのだろう。


 ギルドの受付に並ぶ、まずは冒険者の登録というやつだ。それをしてからゴブリンどもを討伐した報酬をいただくとしようか。


「登録を頼む」


「新顔だね、あいよ」


 肝っ玉がわっていそうな中年女性が応じた。いかにも気の強い、そんな感じだった。


 冒険者ギルドには冒険者が集まる。腕一本で生きていく無頼漢ぶらいかん…そんなヤツらの巣窟だ。町に定住せず、気楽な旅暮らしの者もいる。そんな鼻っ柱の強いヤツ、クセの強いヤツを相手にするのだ。受付にいるのもそんなのに負けない曲者だろう。少なくとも丁寧な対応とは言えない。こんな場所をただの町娘なんぞにやらせる訳がない、跳ねっ返りに一歩も引かない…それぐらい出来なきゃ受付なんか出来るものではない。


 登録と言っても何か特殊な事がある訳ではない。名前を記録してやれば良い、それだけだ。


「それと登録出来たらこれも頼む」


 そう言って俺は掲示板にかかっていた依頼票…、例のゴブリン退治の内容が書かれた薄い木の板をカウンターに置いた。依頼票は紙でも羊皮紙でもない、それらはなんと言っても高価だ。だから薄っぺらな木の板に書かれている。依頼が終わればたきぎと一緒にかまどにでもくべてしまえば良い。


「おいおい、おとなしく後で待っててやりゃあよう!これから登録って奴が依頼を受けるだと、時間がかかるだろうが!」


 品の無い大声が後ろからかかった。さっそく荒くれ者の登場か、冒険者というものは退屈をしないですみそうだ。


「後ろのヤツもああ言ってる、早いトコ頼むよ」


 俺はやんわりとカウンターで話を続けた。

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