第15話 強化術《バフ》と弱体化術《デバフ》。村長にざまあ。


「や、やめろーッ!」


 俺は叫んだ。


「くはははっ!コイツ、初めて動揺している!お前ら、徹底的にやれー!」


 村長は初めて得たイニシアチブに気を良くしたのか顔を綻ばせた。


 村人たちが押し寄せ俺の今植え付けをしているジャガイモ畑や、奥の小麦畑に迫るその時…。


「なぁ〜んちゃって♡」


 俺は悲壮な顔をやめて、笑顔を作る。


「な、何ィ!」


 村長が戸惑う。


「あよく走って行ったが途中で阻まれ今は地べたを転がっている。


「な、なんだ!どういう事だ!?」


 村長は訳が分からないといった感じでその光景を見ている。見れば転がっている男たちは顔面を押さえて呻き声を上げる。中には鼻から派手に血を流している者もおり、ちょっとした地獄絵図が展開されている。


「予想してないとでも思ったか?」


 俺は一人だけ無事な村長に話しかけた。


「バ、バカな!どうして…、お前は焦っていたじゃないかっ!」


「ああ、焦って見せていた。つまり…、焦ったフリをしてたんだよ」



「俺はお前みたいなクズが考えそうな事ってなんだろうと予想していたんだ。強化術バフ使いってのは何でも強化すれば良いって訳じゃない。最小限の魔力で最大の効果を狙うのさ」


 俺はそう言って、小石を拾って幼児でも軽くキャッチ出来るくらいに優しく投げた。すると畑の外側のへりの辺りでコツンと音を立てて弾かれる。


「この畑には『立ち入り禁止』の効果を付与している。つまり、ここには見えない壁があるんだ」


 そう言って俺は畑と他の土地との境目をコンコンと叩いてみせた。


 村長に分かり易く教えてやる為に一つ魔法を使ってやる事にした。いわゆる弱体化術デバフである。


「自覚しろ、自分たちの罪を。『痛覚増加インクリース・ペイン』!!」


 より悲鳴が大きく、男たちの地面をのたうち回る動きが大きくなる。


「な、何をしたァ?」


「痛みをより鮮明に感じられるようにしたのさ」


「何て事をッ!マリク!」


「何がだ、クズ村長。お前が命令したんだろう?俺の畑を荒らせってな。逆にお前たちが畑泥棒が現れたらどうする?二度とそんな気を起こさないように厳しく痛めつけるよな。腕の一本や二本折っても…ぐらいにな。それに比べれば随分と優しいだろう?」


 そして俺は畑に侵入しようとして、今は地べたに転がる男たちを指差す。


「それに俺は直接痛めつけている訳ではない。畑を荒らそうとしなければ痛い目には遭っていない、俺がしたのは痛みを倍増させる弱体化術デバフだ。痛い目にさえ遭わなければなんの効果もない。それだけの事さ」


「ク、クソッタレ…」


「自分達の立場が少しは理解出来たか?勝手な理由で人の家に火を着ける、石を投げつけさせ畑を荒らす…そんな奴らを助けたりするものか。それとも村長、お前を痛めつけて財産を盗もうか?その後で俺の役に立てと言われて誰がする?強化術バフをかけて欲しいならそれなりの態度をするんだな」


「だ、誰がッ!ワシは帰るぞ!」


 そう言って村長は村人達を置いて一人帰ろうとする。


「待てよ、忘れ物だ」


 そう言って村長を呼び止める。


「お前一人タダで逃がすつもりは無い!昨日あれだけ欲しがっていた物をやるよ!水よ来い、滝のように!」


 俺は両手を天にかかげ、一気に振り下ろした。

 その瞬間、村長の頭上に凄まじい量の水が迫る。


「うおうわあぁぁ〜ッ!!」


 水は一瞬にして村長を飲み込み、轟音を立てて地面に打ちつける。


「ケチな事は言わねえ、全部タダでくれてやる」


 それだけ言い残して俺はジャガイモの植え付けを再開した。

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