第13話 追い詰められた村長が村民を引き連れ凸してきた。(二回目)


 俺は家の裏庭で雑草と共生するように半ば野生化した状態のジャガイモを収穫していくつかを食料として、そしてある程度は種芋たねいもとして新たに耕した土地に植え付けていた。


 昨日いくつか騒動があったが俺は日が傾くまで畑作りをし、麦の種まきをなんとか終わらせていた。春蒔はるまきの小麦の時期には少し遅いが、そこは付与魔術士エンチャンターの畑だ。

 村全体にかけていた付与魔法を自分の土地にだけかける事にした。いわゆる集中化である。効果範囲を狭めた分、効果は何倍にもなる。その為、昨日に種まきしたばかりの小麦がもう芽を出しただけではなく、もう青々と20センチほどの丈にまで育っている。


 昨日、家の前のすぐのスペースに小麦を植えた。その小麦畑の先のスペース…道に面する所までジャガイモ畑にするつもりだ。

 

 ジャガイモ畑にする為にうねを作り種芋を植え付け始めた時、村長が村人を引き連れやってくる。

 只今、植え付け作業真っ最中のジャガイモ畑と接する道に来た所で奴らは目を丸くした。


「あ、あれはなんだっ?」


 一同の驚きと疑問を代表したような感じで村長が麦畑を指を差して叫んだ。


「見りゃ分かるだろ、畑だ」


「そんな事は見れば分かるっ!!」


「なら聞くなよ、俺は今忙しい。植え付け時期を過ぎちまってるからこの種芋をさっさと植えたいんだ」


「うぬぬぬっ!な、なぜだ!?なぜここだけ…!あれは春蒔はるまきの小麦だなっ!葉を見れば分かる!それがなんでここでは育っているんだ?村中の麦が枯れるかしおれ始めているのに!」


 そうだ、そうだと村の奴らも口を揃える。


「人に聞く前に自分たちで考えてみろよ。お前たちの首から上についたモノは何のためにあるんだ?物を食って鼻水たらす為だけにある訳じゃないだろ?考えるって事をしないとな、せっかく脳みそってモンがあるんだからよ」


 俺は種芋を植え付ける手を止める事なく返事をした。


「ば、馬鹿にするんじゃねえべ!ここだけ麦サ育って逆に村中の麦サ枯れる…、お前が良からぬ事をしたにちげえねえだ!」


 マケボの親父の言った言葉に村人は同調、ややもすれば殺気立つ。


「そうだ、コイツが俺たちの畑を!!」

「何か悪い事をしやがったんだ!」

「役立たずのクセに足を引っ張りやがって」

「今まで村にいなかったクセに帰ってくるなり恩をアダで返すとはふてえ野郎だ!」


 さんざん悪様あしざまに言ってくる。

 ここはハッキリ言っておくか。


「お前ら、何か勘違いしてねえか?」


 俺は低い声で静かに言ってやった。

 そして次の瞬間、俺は溜めていた気持ちを一気に解き放った。


「寝言は寝てから言え、誰が役に立たないだと?俺がこの地に強化術バフをかけなければお前らのかては無いッ!一昔前を思い出してみろ、種を蒔く時期をわずかに外しただけでロクなね芽吹きもしないやせた当たりの悪い土地、それがこのエンザ村だっ!そしてさんざん苦労して収穫できた物はなんだっ!言ってみろッ!!」


 村人は俺の気迫に押されたか一瞬ひるんだ、たたみかける。


「一握りの陽当たりの良い場所さえライ麦がなんとか採れる。その他はほとんど芋、そして石ころ混ざりの陽当たり悪い所で唐黍もろこし(こうりゃんとも言う)が収穫れる程度だったろう!唐黍なんて言うのは砂漠で無ければ採れると言われる程に土地に栄養が無くとも、水気が少なく冷涼であっても育つものだ!砂漠の一歩手前、それがこのエンザ村の土地柄だ!小麦なんて栄養に恵まれた土地でないと根付きさえしない作物がこの村なんかで一粒とて採れるものか!俺が強化術をこの村全体にかけていたからだったからだ!だが、お前らはそんな俺の家を焼き討ちにした!だから俺は強化術を解いた。だから身のたけに合わない作物を作ろうとしたお前らに二度と小麦を得る事はないっ!」


「ふ、ふざけるなっ!この恩知らずが!」


 女賢者オボカの父親がつばを飛ばして声を上げる。


「恩知らずはどっちだ!俺の強化術で商品価値の低い物しか収穫出来なかったこの村が今は食う以外に服を買えるようになるくらいに栄えている。税として商品価値が高い小麦を納める事で労役は免除され、豊かな暮らしが手に入っているだろう!昔はどうだった?食うや食わずの生活、労役まであった!今のほうがどう考えても恵まれた生活だろう!そんな俺の家に火を放ち、石まで投げてきた!だから強化術を解除したんだ、元のやせた土地の畑に戻った!ただそれだけの事だ!お前らはさっき、何かしやがってと言いがかりをつけてきたな?逆だ、俺はこの村に何もしない、強化術も含めてな!有能な自分たちの力だけで生きていってみろ!」


 俺はハッキリと言ってやった。



「な、なら改めて命令する!この村にまた強化術をかけろ!また小麦が収穫れるようになあ!」


 村長が居丈高居丈高だかに命令してくる。


「やる訳ねえだろ」


「なんだとぉっ!この村にいるクセにッ!」


 村長が、そして村民たちが激昂げきこうする。


「昨日、自分が言った事を思い出してみろ!村長、お前が言ったんだ。この村にいてくれと。その一事いちじをもって俺はこの村の客分きゃくぶんだよな?基本、客分はんだよな。何よりあそこまでされてなんでお前らにならないんだよ?」


 俺の言った通り、村の側からここにいてくれと言われた場合は客分となり収める税の作物を拠出する必要も労役などをする義務も無くなる。

 ただ基本はということであって、それらを負担しない代わりに知識を提供したり腕の立つ冒険者などなら用心棒代わりのような事をする。


 それに昨日村長が俺にこの村にいてくれと言ったのは、あくまで俺のご機嫌を取ってだ。

 だから俺がこうして客分になったと主張してもきっと知らぬ存ぜぬ、そんな事は言ってないと主張するだろう。


「ワシがそんな事をいつ約束したと言うのだ!お前がこの村にいさせて欲しいと言うならば、ワシの言う事を聞き、さらにこの村が豊かになるよう…グガアァァッ!!」


 ゆうりな立場から命令するように語りかけていた村長が、突如左手を押さえて呻き《うめ》かこ声を上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る