第12話 SIDE 村長。エンザ村、作物が枯れていく。
ワシは勇者グリウェルの父にして、このエンザ村の村長である。家や倉庫が昨日の失火により焼け落ちて今はすこぶる機嫌が悪い。
本来なら朝焼きの香ばしいパンを食うところだが、今日はべちゃっとした麦粥を食う羽目になったからだ!それと言うのもアイツの…、マリクのせいだからだ!
そんな腹立たしいところに騒がしい声。ワシの
「なんだと!どういう事だっ!」
ついつい声が大きくなる。
「言った通りだよ村長!小麦がしおれていくんだ。もう葉っぱは見るからにへたってハリがもなく、黄色くなり始めた!ありゃあ枯れるのも時間の問題だっ!」
焦りに焦った様子でヨネーズが急報を告げている。そんな馬鹿な、昨日までコイツの畑の小麦は青々としていたではないか!
きちんと育って収穫が出来ねば困る、税が納められない!
「村長〜、大変だべ!」
マケボの父親もやって来た。
「オラのトコのライ麦が枯れ始めているだ!」
「なんだとぉ!小麦より丈夫なライ麦までもかッ!」
村長には訳が分からなかった。確かこの家のライ麦を育てていたのは小石すら混じる一番農地に向かない場所…。昔は芋すら満足に根付かない土地だった筈だ。
だから
これで初めてパンが食べられる。無発酵のパン…、いわゆる黒パンの材料になるライ麦。商品としての価値が上がった。
しかし、それはなぜだ?今だってあの場所は小石だらけの日当たり最悪の畑だ。土地を改良した訳でも無いのに…。
ま、まさか本当に無能のマリクが言っていた村の土地に強化術をかけていたと言うのか?そんな事るがある訳がない!
「た、大変だぁ!小麦を刈り取った後に植えてた作物まで枯れ始めたぞォ!」
マ、マズい!!まだ畑に残っている小麦に続いて早採れの小麦の後に植えたマメ類まで枯れては、税を納めるどころか自分たちが食べる分さえ確保するのも難しい。
このままでは餓死者さえ出てしまうのではないか…、そんな不吉な思いさえ浮かんでくる。
「お、おい…。もしかしてこれはマリクの奴が言ってた事はホントだったのか?」
ポツリと誰かが呟いた声にワシは我に返った。いつの間にか村人が集まってきていた。その中で発せられた言葉だろう。
ワシが思い悩んでいたわずかな時間に村のほとんどの男たちが集まってきていた。だが、その表情は揃って暗い。誰もが自分の畑の作物が
信じられない話だが、あのマリクが言っていたのが正しいとでも言うのか!?あの無能のマリクごときの言う事が。
こうなったら
そうでなければいずれはワシに不満が向くかも知れない。ならばいっそ
そうすればマリクの奴が強化術を解除したばかりか、村に呪いをかけて貧しい土地にしたとでも言えば全てを奴のせいに出来る。
我ながら名案だと思い、村人たちを率いてマリクの家に向かう。ヤツに強化術を再度かけさせるぞと気勢を上げちょっとした行軍のような雰囲気で歩き出した。
村の中には血の気の多い者もいる。手に手に丸太や縄を持って討ち入りでもするかのように殺気立っている。これならワシが誘導せずとも勢い余ってマリクをうっかり殺してしまうかも知れないではないか♡。
これはどう転んでもきっと上手くいく、そう思ってほくそ笑んでいると村外れのマリクの家が見えてきた。
そしてその目の前に広がる風景にワシをはじめとして村の者たちが一斉に
そこには村で枯れ始めたと言う小麦が…、マリクの自宅の周りに
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます