第25話: 否定
それなり以上には心配したし、家に行くべきじゃないかとも何回か考えた。しかしどれもこれも自己満足以上のものではないと考えるぐらいの自制心はあった。それでも何かあれば連絡は取れるように、できるだけスマホは肌身離さず持っていた。
僕の方も新しい大学生活に備えるべく、色々と忙しくなっていた。書類を書いて、色々なものを確認して、手続きをして、買い物をして。一回大学に下見も行った。
かかってきた電話を無意識に僕は取る。
『ねえ』
エイカの声。明らかに上機嫌。
『どうだった?』
『何も信用できないので一緒に確認して欲しい。家はわかる?』
『今すぐいく』
玄関にかけてあったコートをひったくり、玄関の鍵を閉めるのも忘れて地面を蹴った。エイカの家までの距離はそこそこあるが、最もいい移動手段は走ることだ。
「……そこまで急ぐことはないのに。あ、コーヒーでも淹れようかと思ったがこれならアイスのほうがいいかな」
ぜーぜーと息を切らして酸素不足に喘いでいる僕を見ながらエイカが冷ややかに言う。
「……まず、お水が欲しい」
「わかったよ」
水道水でも、乾いた喉には美味しく感じた。
「……それで?」
「これを見て」
エイカがスマートフォンで出してきたのは合格者の番号一覧。そして受験票には同じ数字がある。
「……可能性を否定していこうか。番号間違い」
「ないね、君も確認した」
「……学部学科とか、前期後期の間違い」
「受験番号の最初の桁が種別、次の桁が今回なら前期と後期。さらに次の三桁がナンバリングだと思う。つまり、番号があってればそこにミスはない」
「……えーと、あれだ。見てるページが違う。去年のとか」
「アドレスが今年のだ」
「実は別の大学のホームページを間違えて見ていたり」
「……そうまでしないと、私が不合格だって説明できない?」
僕は首を振った。
「ダメだ。僕にはもう、エイカの合格を否定できない」
「……しゃっ」
小さく拳を握って喜ぶエイカは可愛らしさがあった。
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