第22話: 放課後

手を洗って、鏡に写る僕を見る。

「……この姿も、今日で終わりか」

制服に袖を通す機会は、もうそうそうないだろう。高校生が終わって、大学生になって。時間が過ぎるのは早い。意識していても、経った年月はかなりのものになる。

「……楽し、かったな」

上手く笑えているだろうか。もちろん、強がりだ。好きな人との縁が切れるかもしれないというのは、正直言って怖い。でも、ぼんやりと忘れてしまうよりはここで区切りをつけたいと僕もエイカも思っているのだろう。


緩んでいたネクタイは、外してポケットへと突っ込んだ。


「最初に会った時のこと、覚えている?」

エイカが背伸びをしながら言った。

「……学祭の、準備の時」

「……2年の時か。実はあれより先に、私は君を知っていたんだよ」

「えっ」

初耳だった。今になって、こんなことがわかるなんて。

「君が1年生の頃かな。教室で一人、放課後に残って本を読んでいるのを見たことがある」

「……いつ?」

「うーん、夏休み過ぎてて寒くなる少し前、10月ぐらいかな?」

記憶を引き出しても、それらしいものはない。

「……それ、本当に僕?」

「さあね。私にとっては、放課後まで読書とは物好きがいるなぁと思ったぐらいだよ」

「何読んでたんだろう」

「そこまでは見えなかったな」

僕は少し息を吐いて、そんなに読んだ本があったかを考える。

「時間は?」

「4時ぐらいかな」

諦めて僕は首を振った。

「……そっか。で、2年のあれで、その後は3年になってから?」

「そう、なるね」

なんだ、互いに相手を知っていたのか。

「私の最初の印象、どうだった?」

「無遠慮」

「そこまでだった?」

「……エイカ、全然クラスに馴染めてなかったよね」

「君がそれを言うか?」

「別に、エイカのことだから付き合う必要なんてないって思っていたんでしょ」

「ま、そうだね。おかげで卒業アルバムは真っ白だ」

「僕もだよ」

小さく、僕たちは笑った。

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