第19話: 相手

合格通知が届いた。これで、僕の受験生活はほとんど終わったことになる。


机の上に置いたスマホを睨みつけながら、どうするかどうかを悩んでいた。合格したよと送るべきか、それとも何もしないでおくべきか。エイカの試験日は着々と近づいていて、前会った時の漢字からすると今は壊れかけていてもおかしくないレベルだろう。僕だって結構精神に来たのだ。そういう意味で、あのエイカと出かけたのはかなり心を楽にしてくれた。

エイカは無感情でもなければ、人の感情がわからないわけでもない。必要がなければ無視できるし、感情をうまく表せないだけ、だと思う。そういう考えも僕の傲慢さなのかもしれないが。

ぐちゃぐちゃした感情を数ヶ月かけてまとめて、僕はエイカのことを親友として好きでいる。もちろん、そこには恋愛的なものも混じってはいるが。もともと報われなくて当然の恋なのだから、友情を深められたことを喜ぶべきなのかもしれない。でも、大学でエイカが他の人に笑顔を向けているのとかを考えると気分が変になる。第三者に対する妬みではない。エイカに対しての怒りだ。この怒りが完全に理不尽で、エイカにとって関係のないものなのがわかっているので自分が嫌になる。

「……で、どうしよう」

確か受験が終わるまで連絡するなと言われていたはず。つまり、送ってはならはい。おしまい。解散。といけるほど僕は素直ではないし、割り切れる性格でもない。どうせ送らないけど。悩んで悶えて結構苦しんで、自分のしたいことをしないっていうのは大変なのだ。


エイカが付き合える相手がどんな人なんだろう、と想像する時がある。たいてい気分が落ち込んで惨めな時だ。今の惨めさは合格を確認した嬉しさのリバウンドだと思う。浮かれてエイカにメッセージを送ったところで自己満足以外の何者でもないだろうに。

一日、また一日とエイカの試験日は近づいてくるし、僕は何もできない。学校の出席日は試験の次の日。一部の国立は二日連続であるのに、何でその日に入れるのかねとエイカがバカにしていたのを思い出した。とはいえ、僕たちの高校からそういうところに行く人はそう多くないのであまり関係ないのだろう。

思考がまた最初のところに戻る。ただ、正直なところ想像するのが難しい。エイカが言う恋の言葉はどんなものだか、僕にはわからない。好意を正直にぶつけるのだろうか。遠回しで言ったり、結局臆病になってしまうのだろうか。僕と似ているようで、案外違うエイカの感情を僕はろくに理解していない。

「……エイカは、考えすぎなのかな」

相手を理解しないといけない、と考えているところがエイカにはあるのかもしれない。いや、自分で言っていてなんだがそうとは思えなくなってきた。エイカのことだ、相手の感情を理解できないのは当然じゃないかとか言いそうなものだ。こういう言葉だけはエイカの声で頭の中に再現できる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る