第18話: 特別
ここはちゃんと僕は自分の分を払えた。エイカの分も出そうとしたがしっかり断られてしまった。難しいものである。
「他に好きな人、作れそう?」
ぽつぽつと歩きながらエイカが言う。
「……大学入ったら、できるかも」
歩幅を合わせながら、少し肌寒い街を僕たちは進む。
「だといいね。私だって、君に大学生活と並行して会うのは辛い」
「……会いたくない、わけじゃないって言ってなかった?」
「純粋に、手間なんだよ。相手のことを考えるのが。隣にいるとか、毎日のルーチン内で会うのは良い。私のスケジュールと合わせてくれるならまだ採算が取れる。でも、わざわざその日のために準備をして、前日から服を選んで、ルートを考えてなんてことは性に合わない。正直、君には会いたいよ。それ以上に会うことが面倒なだけ、って言えば良いかな」
「わかった」
「軽過ぎない?婉曲な言い回しで君を断っていると思われても仕方ないと思うんだけど」
「エイカは、そういう変な言い方嫌いでしょ?」
「好きだよ。本意を言わずに、遠い言い回しを使って煽るのは」
「……良い性格、してるよね」
「でしょ」
「それはともかく、今回は結構ストレートに言ってない?」
「そりゃあ本心だからね」
「エイカがわざわざ遠回りな言い方するなら、もっと僕の精神に来たりするように言うはず」
「……確かに、そうするだろうね。もしどこの誰とも知らない相手が私に告白なんてしてきたら、そいつを自殺に追い込みかねないレベルの言葉を吐きかねない」
「……例えば、どんな?」
「わざわざ実演する必要はないと思うよ。君だってそういう言葉をぶつけられたいわけじゃあるまい?」
「それは、まあ」
確かに気になっていることを直接ぶつけられて、そういう感情を持っていることをなじられて、そこから僕の人格とかまで否定するようなことをエイカならできる。
「私が君を特別扱いしてるのは、親近感と私への慣れ。逆に言えば、君は特別だから選ばれたなんてわけじゃない。いやなんて言えば良いかな……」
「運命を、信じないの?」
「まあね。とはいえここは哲学でもかなり厄介な議論になるんだけど」
エイカの悩むような顔。
「世界にとっては特別じゃないけど、私にとっては特別、っていえば良いかな」
「……エイカからの評価があれば、十分だよ」
「私は君からの評価じゃ満足できない。もちろん、受け入れないわけじゃないけどね」
欲張りなのか、自分の価値観を世界に委ねているとかなのか。
「……僕は、こっちだから」
「ん。じゃあね」
エイカは軽く手を振って、振り返ることもなく進んでいった。
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