第6話: 一般論

「君は私を嫌いにならないのかい?」

体育の授業で、時間を潰している僕の隣に座ったエイカは言う。

「……うん」

「そっか、そういう答えは想定してなかった」

額を抑えて息を吐くエイカ。体操服の布地越しに見える身体のラインとかが嫌な考えを引き起こすのでどうにか頭から消し去る。

「一応確認するけど、まだ私のことは好きなんだよね」

「……そう、だよ」

「その好きは、あの日から変わった?」

あの日というのは、まあ、告白してしまった日だろう。

「……わからない」

「そんなもんなのか」

他人事のようにエイカは言う。そりゃ他人事だけど。

「私の性格が悪いのは知ってるよね」

「うん」

即答。人の心を逆撫でし、苛立たせることに決めたエイカを敵に回すと相手が大変なことになる。一度先生が手を出しかけて揉めたという。まああれはどっちも悪いが。とはいえ、僕との関係ではあまりそういうことがない。僕は別に鈍感というわけではないはずなのだが。

「君が私を嫌いになる要因は揃っているように思っているけど」

「え」

「告白を真正面から断って、その後傷ついたハートをボコボコにしてるんだよ?」

「……そういえば、そうだね」

ボールが体育館の床に跳ねる音。

「嫌われたいの?」

「消極的にはね」

エイカは言う。

「友人だと思っている相手から、向けられていた感情が言えないようなものなの、結構精神に来るんだよ」

「……ごめん」

「ただの愚痴だから、君が謝る必要はないよ」

切り分け方がどうにも独特な気がする。エイカにとって、今の関係と恋愛関係は別物なのだ。

「そりゃまあ人間関係だからさ、全てが思うようにはいかないわけよ。単純に考えるなら、相手から向けられた好意なんぞ素直に受け取って対価の支払いは断ればいいんだけど」

僕がエイカへの恋心に悩んだように、エイカも僕の恋心に悩んだようだ。少し嬉しいと思った自分が一瞬いた。

「……少し、感情の話をしていい?」

僕は言う。

「いいよ」

エイカが答える。

「好きな人を傷つけたいっていう考え、どう思う?」

「独占欲、許してもらうこと前提の行為、あるいは過去に好きな人から傷つけられたことがあるとか?」

「……そういう、ものなのかな」

「あくまで一般論だよ。一般論以外はしたくない」

「……そっか」

「他人から感情を向けられるために、一般的に悪いとされる行動を取ることは決して珍しいものじゃない」

まあ、小学校の頃によく見たあれだ。

「とはいえ、そういう関係は相性が良くない限り長続きするものじゃないよ」

少し嫌そうに、エイカは言った。

「……好きな人に酷いことを言われたらさ、受け入れるべきだと思う?」

「反論するべきはする。受け入れるべきは受け入れる。ダメそうなら早めに逃げ出す。そんな感じでいいんじゃないかな」

「……じゃあ、もう少しこのままでいる」

「私も、そうさせてもらうよ」

周りのざわめきが大きくなった。どうやら集合の時間のようだ。

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