第2話: 拒否

僕とエイカの間に置かれた、誰かの机。

「いくつか質問をさせて」

「……いいけど」

「ひとつ。君の発言は単純な好意の表明ではなく、いわゆる世間一般で言う告白かい?」

エイカは人差し指を伸ばす。

「……その、つもりです」

「ふたつ。何がきっかけ?」

「……離したく、なかった。どこかに行ってしまいそうで、怖かった。だから……」

「そっか。最近あまりおしゃべりできてなかったからね」

軽く息を吐いて、彼女はこちらを向いた。

「端的に言おうか。私は君と付き合うつもりはさらさらない」

「……他に、好きな人が?」

「いいや?」

「……理由を、聞かせてください」

「嫌だから、って答えるのは語弊があるし、君を無駄に傷つけるだろうね」

「……そう、ですか」

「うん。まあ、なんていうか、私は恋に向いていないんだよ。ラブコメを楽しめないし、恋バナは正直言って嫌いだし」

思っていたのと違う理由に、僕は改めて背筋を伸ばす。

「君は何も悪くない。とはいえ私も悪くない。これはただ相性が悪かった事故で、だからこそ私は譲るつもりが一切ない」

「……ダメ?」

「ダメ」

僕は息を吐いた。はっきりと断られて、少しだけ楽になった。

「……そう、か」

思わず目を閉じると、雫が目蓋から滲み出た。

「とはいえ、これじゃあ友情関係も終わりか」

「……すみま、せん」

「本当だよ。まあ腹は立つけど、私は君に責任を負わせようとは思わない」

呼吸が速くなって、うまく肺に空気が入らない。

「落ち着くまで待つよ。涙拭いたら、また声をかけて」

そう言って、エイカは参考書を読み始めた。


「下校時間か」

目を開けると、エイカは席を立つところだった。

「少しは落ち着いた?」

疲れて眠っていたらしい。正直、好きな相手にこんな姿を見られるのは嫌だった。

「……うん」

「そっか。一般論だけど、失恋って辛いらしいね」

「……はい。とても」

「話なら聞くよ。友人としての、私で良ければ」

ここまではっきりと言われたのに、まだどこか可能性があるんじゃないかと思ってしまう自分が嫌だった。

「電気消すよ。早くカバン持って」

僕はまだ腫れていた目を擦って、荷物を急いでまとめた。


「寒くなってきたね」

鍵を返した職員室からの渡り廊下を僕たちは歩く。

「……正直、君が私にそういう感情を持っていたとは思わなかったよ」

呆れたようにエイカは言う。

「……ごめん」

「とはいえ発端は君だからね。多少同情はするが妥協はしないよ」

僕は何も言えず、ただ首を縦に振った。正直、こうなるとは思っていなかった。少なくとも大失敗ではない、のかな。まだ緊張が抜けない。

「それじゃ」

いつのまにか校門についていて、エイカは背を向けたまま軽く手を振った。

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