「短編」幸せの種を蒔く青い馬車
たのし
幸せの種を蒔く青い馬車
昔ここは、砂漠地帯で薄ら苔しか生えない様な土地だったんだよ。
でもある日、青い馬車を引いた若いお嬢さんが道の脇に百日草の種を植えて行ってね。
それから、今ではこの国1番の綺麗な都さ。
その頃は、みんな気分が滅入っていてね…
でもそのお嬢さんが百日草の種を植えた後、そこから赤い花が咲き、そして枯れ、種ができそれからまた赤い花が咲く。気づいたら都全部赤い花一杯になってね。
気分が落ちた男達も一生懸命働いて今では『幸せの都』って呼ばれているんだ。
もう、10年前の話。あの青い馬車のお嬢さんは今どこで何をしているんのかね。一言お礼を言いたいよ。
僕はこの都は美しいね。と旅の途中に寄った商店で口にすると、話好きなお婆ちゃんはこの都の成り立ちを話し出した。
僕はそれを出して貰ったお茶と一緒に流し込んだ。
「その人今どこにいるか、分かりますか?」
お婆ちゃん首を振りながら答えた。
「10年前ここに来て出発する時は、この都の中心にある道路を北上するって行って種を植えながら北に向かっていたよ。しかし、それも10年前の話。今どこにいるかは分からないね。でも、道脇に種を植えながら北上するって言ってたから、花を辿って行けばもしかしたら会えるかもね。」
僕は商店を後にすると、旅の目的を見つけた様な感じになり、その青い馬車と女の子を追ってみることにした。
街の中心の道を見つけそれを北上する。
道脇には枯れた花と種が落ちており、青い馬車の女の子は存在している事は確かとなった。
しかし、確かこの道って3000kmは越えているはずだぞ。ここの道脇に花を植えるって何を考えているのだろう。っと少し疑問も産まれた。
僕は道脇に枯れた花と種を確認しながら北上した。一日歩いてだいたい25kmってところか。
僕は夜道脇にテントを広げ簡単に食事を済ませ、メモに記録しながらこの感じだと100日前後で会える計算だなっとメモした。
僕が都を出てから10日が過ぎたある日。
小さな村についた。
そこはやはり青い馬車の女の子が通った後なのか、家の花壇には赤い百日草の花が咲いていた。
僕は食料と水の確保のため、村の商店にやって来た。そこで食料の確保と水を確保して青い馬車の女の子の情報を聞くため、村を散策した。
ちょうど、立ち話をしている、女性がいたのでいつ青い馬車の女の子が来たかを聞いてみた。
「青い馬車の女の子?ジニアちゃんかしら?確か8年前にここに来たわよ。大きな布袋から種を道に巻いて沢山の食料と水と日用品を買って行ったわ。何日かこの村に滞在して馬車のメンテナンスをしていたわね。メンテナンスの間にも村の井戸堀を手伝ってくれてね。男顔負けの働きっぷりに明るい子ですぐ村人と打ち解けたわ。今どこにいるのかしら。会いたいわ。」
女性の話によると、どうやら8年前にここを通過していて青い馬車な女の子の名前は「ジニア」と言うらしい。
僕はお礼と彼女を追っている事を伝え、村を後にした。
村を出て更に北上した。
道脇には時々百日草の双葉がちらほら出ていた。これは何代目の百日草だろうか。
僕は双葉を踏まない様注意しながら道を北上する。
道を北上する度双葉から成長し、蕾ができ、花が咲いて、萎れて、枯れていく。その命の繰り返しの上を僕は歩いていた。
それから、20日が経つ頃大きな牧場に僕は付いていた。早速、牧場の中へ入り青い馬車のジニアの情報を聞くことにした。
僕は広い牧場をウロウロしていると、牛舎の前でパイプを加え小休止している老人がいたので聞いてみることにした。すると。
「ジニアちゃんかい。んー。確か3年前にここに来たよ。牧場の手伝いをしてくれてね。ジニアちゃんがここに滞在しているちゅうどその時に妊娠中の牛が産気づいてね。ジニアちゃんに手伝って貰ったのさ。一生懸命に赤ちゃんの後ろ足を引っ張るジニアちゃんは今すぐにでもここで働いて欲しいくらい頼もしかったよ。でも、一週間くらいここにいて、また種を巻きながら北上していったね。彼女が居なくなって3ヶ月後くらいにあの道脇から赤い花が咲いてね。とても美しかったよ。ジニアちゃんどうしているのかなー。もし会えたら、いつでもここへ戻っておいで。シチュー作ってあげるからと。伝えておくれ。」
老人はそう言い残すと、牛舎に仕事をしに戻って行った。
3年前か。もしかしたら後、10日以内には会えるかもしれないな。
僕はこの旅の終着地が後少しだと思い北上した。
道脇の百日草の花が先、枯れた後、そこからは双葉も何も確認できなくなった。
この辺りで蒔くのをやめてしまったのかな?
僕は少し心配になりながら北上した。
それから3日が経ったある日。
道脇を行く青い馬車の後ろが見えた。
本当にいたんだ。僕は青い馬車に追いつこうと早足になった。
青い馬車の前には20より後半くらいの年の女性が種を蒔き水を撒きながら歩いていた。
「あの‥ジニアさん?」
僕は彼女に声をかけた。
「そうだけど。」
彼女は不審そうに僕を見ながら言った。
「都で貴女の話を聞いてこの道を北上してきました。」
そのあと僕は軽く自己紹介をしてここに来るまでに立ち寄った村や牧場の事。その人達からジニアへの伝言を伝えた。
「あらっ。みんなそんな風に思ってくれてたんだ。嬉しいわね。いつか訪れてみようかしら。」
彼女から僕に対する不信感はどうやら少しは取り除けたようだ。
僕は彼女に少しついて行ってもいいかを聞いてみた。
「別に構わないわよ。でも後少しでこの道も終点だけどそれでもいい?」
僕は縦に首をふりそれを了承した。
「それにしても君変わってるね。10年の間でついて来た人は君が初めてだわ。」
彼女はまた種を蒔きながら話した。
僕はここに来るまでの質問を彼女にしてみた。
「なんで、こういう事をしているの?」
すると彼女は種を蒔く歩みを弱めて話し始めた。
「私がしたかったからよ。したい事に何故を求めるのはナンセンスだわ。」
確かに。彼女の言う事に一理あった。したい事に理由はいらない。確かにそうだと思った。
「なら、何故百日草なの?」
「それは簡単よ。花言葉は幸福で、百日草の別名はジニアだからよ。私は沢山の人を幸福にはできないけれど、幸福を蒔く事はできるわ。」
彼女はそれのために10年も種を蒔き続けてきた。確かに彼女の歩いて来た道の後は幸せそうな人々の姿があり、幸福を撒いて来た軌跡があった。
「でも、後数日くらいしたら、この度も終わるわ。」
「この旅が終わったらどうするんだい?」
彼女は馬車の荷物をゴソゴソしだし、ある小袋を出した。
「暑いと寒いがハッキリしている土地に行って暑い時はシクラメン。寒い時は向日葵を植えるわ。」
彼女は鼻高らかに続けた。
「シクラメンも夏を見たいし、向日葵だって冬をみたい。それを叶えてあげるの。そして私は花達の季節の垣根を越える花屋になる。」
彼女は小袋を大事そうにしまうとまた百日草の種を蒔きはじめ鼻歌を歌いながら道を進んでいった。
夜になり、別々のテントを組み立て夕食を共に取る事にした。
「干し肉で作ったシチューをお裾分けするわ。」
彼女は木のお皿に装ったシチューを僕にくれた。シチューからはクリーミーな匂いと微かにスーッと鼻を突き抜けるハーブの匂いがした。
ずっと、缶詰とパンを食べていた僕は久々の暖かいご飯を無我夢中に食べた。
「久々にこんな美味しいシチューを食べたよ。僕は胡桃のパンと缶詰しか今はないから、良かったら好きなものを食べてよ。」
そう言うと彼女は胡桃のパンを取り、シチューにつけながら食べた。
「これ、牧場のパンじゃない?きっとそうよ。違うかしら?」
「そうだよ。牧場に売ってあるパンを保存食で買ったものだよ。よくわかったね。」
「当たり前よ。牧場に泊めていただい時に毎朝仕事の後にこれを朝食に食べていたんだもの。凄くお気に入りで、出発する時に沢山いただいたもの。懐かしい味だわ。」
「きっと、牧場の人もそう言って貰えたら喜ぶと思うよ。」
久しぶりに誰かと取る食事はまた違う美味しさがあり、僕達は食事の後も話に花を咲かせた。
そして、次の日北から風が吹いて来た。
朝は少し寒く北風の中に少し潮の匂いが混ざっていた。
「あらっ、海の匂いがする。あと少しでこの道も終わりかしら。」
彼女はテントを片付けて荷物を馬車に直しながら言った。潮の香りがするのは道が終わる海であり、彼女の10年の旅の終わりを示していた。
彼女は馬車から袋を出し、種を蒔き始めた。
「この種はお母さんから貰った物から始めたの。」
彼女は種を蒔きながら話し始めた。
「お母さんはどうしたの?」
僕の問いかけに彼女は少し眉間を顰めて答えた。
「私が13歳の時に流行病で亡くなったわ。それまでは私の住む街で小さな花屋をしていたの。小さくて貧しい村だったけど、お母さんの花を庭先で育てたり、花瓶に飾って大事にしてくれる人が沢山いたわ。貧しいけど、凄く幸せな村だったの。」
彼女は種を蒔く手を止め馬をさすりながら続けた。
「お母さんは村を幸せしようと、花屋を続けたわ。私は村から続くこの道の人達を幸せにしたいって思ったの。幸せにするのは花を植えよう。花を植えるなら百日草だ。幸運をもたらすから。」
馬は彼女の体に大きな頭を擦り寄せていた。
彼女は馬車から馬を外し、草が生い茂る所まで連れて行った。
「子供は親を越えなきゃだからね。」
彼女は草を食べる馬をブラッシングしながらそう言った。彼女の相棒のその馬は黄金色に輝き茶色と緑の大地に映えていた。
小一時間経って彼女は馬を馬車に戻しまた、種を蒔き始めた。
「最初は大変だったのよ。種が無くなったら道を戻って百日草の種を拾ってまた続きから蒔くの。でもある日。私がお世話になった村の村長さんが村の人達と集めた種を持って来てくれたの。それから、私のお世話になった人達が届けてくれる様になってだいぶ助かったわ。ここまで来れたのも皆おかげだわ。」
彼女は永遠に続いていた道の先に薄らと広がる青い海が広がっている。
彼女はそれが見えても、手を休める事なく種を蒔き続けた。
日が沈み始めた頃。彼女の蒔いて来た道に終わりの終わりがやってきた。
彼女はズボンでポンポンと手を叩き、馬の方へ寄って
「ここまで、ご苦労様。」
そう言って頭をなでた。
「これからどの土地に向かうの?」
僕がそう言うと。
「一度この道を戻るわ。お世話になった人たちに会いたいもの。」
彼女はそう言うと馬車を反転させ、来た道を戻って行く。
「手紙書くよ。この先にある君の村に。君の花屋ができたら教えてよ。行くから。」
「分かったわ。」
彼女は僕に手を振り、来た道を戻って行った。
自分の軌跡を確認するために。
僕は彼女の後ろ姿がなくなるまで見つめ、蜃気楼に消えたあと僕は海沿いを歩き自分の旅へと戻った。
ジニア。百日草。幸運。それを蒔いた彼女の物語。きっと彼女は沢山の人に幸せを運んだ青い馬車の女の子。
おしまい。
「短編」幸せの種を蒔く青い馬車 たのし @tanos1
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