第3話 PVは己を写す鏡なのか

 ヨシツネ。

 つまり源義経みなもとのよしつね

 すんげー強かったけど、それゆえにいじめられ、若くして自殺した悲劇の名将。


 バルディアの英雄と言われるヨシツネが、あの源義経と同一人物なのかわからないけど、俺には見えた。

 いろんなしがらみから解放されて、はしゃぐように馬を駆る義経さんの絵面が。 

 もし源義経が若くして死なず、ここで続きの人生を過ごしたのなら、それはそれで良かったねとすら思った。


 だが、俺をヨシツネと一緒にされたら困るのだ!


「ヒビキさま、いったい俺に何をして欲しいんです?!」


 こんな所に飛ばされた時点で失うものは何もないので人生で一番強気になっている。いっそ女王を怒らせて、追放されてしまおうとすら考えていた。


 しかしヒビキさまは誠におおらかな方だった。


「すべてもろもろ何とかして欲しいのです」


「とんでもなく抽象的かつ丸投げときた……!」


 俺の拒否的反応にヒビキさまの顔が曇る。


「私も無理なことを口にしているという自覚はあります。しかしあなたが指摘したように、この国には人がいないのです。それゆえに秘術を用いました」


「だとしたら人選ミスですって!」


 呼ぶなら京大生とか、プロのスポーツ選手じゃないとダメじゃん。


「私はそうは思いませんが」


 綺麗な瞳で見つめてくれるのは嬉しいが、自分のことは自分がよくわかっている。


「いいですかヒビキさま。ヨシツネという人は、あの当時の日本で最強の男でした。あの人と比べたら俺なんか下下下ゲゲゲで……」


「謙遜する必要はありません。あなたが日本人である以上、この国に新しい風を吹かせてくれると私は信じています」


「ですから、日本もだいぶ変わったんですよ。ヨシツネさんもびっくりするくらいに武士要素が無くなっちゃったんです。この俺にできることなんか、なにひとつ無いんです。魔王を退治することも、この国を立て直すこともできませんって」


「では参考として教えてください。あなたは日本で何をしてきたのですか。そして何ができるのでしょう。それを知った上で再考できることがあれば再考します」


「うぐ」


 なんか凄く嫌な面接になってきたな。

 優しい顔で触れて欲しくない所にずかずか入ってくる。


 日本で何をしてきたかと言われて、はっきり答えられる人ってどれくらいいるだろう? 

 とりあえず、俺は何もしていない。

 社会の歯車だっただけで、歴史に名を残したとか、風に立つライオンみたいに自己犠牲したこともないし……。

 まあ小説を書いてちょっとだけ、ほんのちょっとだけ読まれたくらい……。


「その、カクヨムでいろいろ作品を……」


 カクヨムという単語にヒビキさまは反応した。何か疑問を感じたとき、小首をかしげるクセがあるらしいが、そこがまあ可愛い。


「カクヨム、とは国の名前ですか?」


 なんでそうなるのと呆れるが、この際どうでも良くなってきた。

 ここは作家らしくわかりやすい説明をして、俺がどれだけ頼りにならないか察してもらおう。


「まあ、そんなもんです。俺はカクヨム国で小さな土地を任せられてました。ここと比べりゃショボい領土ですよ」


「しかし領主であったことに違いは無いのでしょう? 民の数はどれくらいいたのです?」

 

 民。

 まあPVみたいなもんか。


「前の作品、いや、前にいた土地だと9000くらいでしょうか(実話)」


 その数字にヒビキさまはまあ、と大きく口を開ける。


「とても多いではないですか!」


「いやいや、凄い人は五千万超えてますから」


 その数字にヒビキさまは尻餅をつきそうになるくらいに後ずさりした。


「ごせんまん! そんな大きな都市が日本にはあるのですね……」


「カクヨム国ならたくさんいますよ。凄いですよね、ほんとに……」


 PVがひとつふたつ増えたくらいではしゃぐ自分が恥ずかしいくらいに、上には上がいるのがカクヨムのランキングだ。

 天文学的な評価と読者数を眺めて、自分の才能のなさを知って嫌になるときがある。って自分がした話に自分で落ち込んでどうするのよ。


「まあ、他人と比べずにマイペースでやって行こうとは常に心がけていますが、いかんせん、上手くいったことはないですねえ」


 なにせ読まれないしなあ。

 そういや、ここに来ちゃったってことは、もう書いている小説も更新できないどころか、続きを書くことすらできないのか。

 そうなっても特に騒ぎにならないのが悲しいというか……。


「ムサシ。そう自分を卑下することはありません」


 俺の肩に手を置くヒビキさま。


「そんな強国の中にあってひとつでも土地を持てるのなら素晴らしいこと、胸を張って良いではありませんか」


「はあ、どうも」


 なぜか異国の姫様に慰められる俺。


「私は確信しました。あなたは勇者にふさわしい人です」


「な、なんでそうなる……?」


 どれだけ自分が勇者にふさわしくないか伝えたかったのに。

 もしかしてこの女王……。

 アホみたいにポジティブなのか?


「あなたは自分の力を冷静に見極め、自分に足りないものがあることを認識し、それでもなお上を目指そうとする、謙遜で向上心のある戦士です。私の国に一番不足している人材です」


「よくそこまで前向きになれますね……」


 しかし女王の耳には入らない。

 それどころか女王は元気よく太陽を指すのだ。


「あなたと私が手を組めば、かつての豊かさを取り戻せるに違いありません! さあ、二人で頑張っていきましょう!」


「いやだから……」

 話が振り出しに戻ってしまったような……。

 

「とりあえず、明日、すべての重役を招いて会議をします。期待しますよ」


 雪のように白い肌を俺の眼前に突きつけ、そっと耳打ちする。


「期待って、何をどうして欲しいんです……?」


「ですから、すべてもろもろです……」


「なんか怖いんですが……」

 

 頼む、誰か俺を追放してくれ……。

 俺は心の中で祈った。

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