第2話 どうやら、神々の娯楽だそうです。
「美琴……?」
部室を出ようとした俺の前には、この世に存在しないはずの美琴が立っていた。俺より一回り小さい身長に、無表情だけど凛とした顔立ち、肩にかかるくらいの少し赤みのあるオレンジの髪。外見は間違いなくおよそ一年前に亡くなったあの美琴だ。
「美琴……どうして……? 」
白先輩が蚊の鳴くような声で美琴に問いかける。それに対し、美琴は俯いて固まっている。
「くくくっあははははっ 」
突然美琴が高い声で笑った。
「いい反応では無いか人間! 流石に笑いを堪えるのにも限界が来てしまったぞ! 」
「え……? 」
急に笑いだす美琴に戸惑う俺達。そんな俺達の事を楽しそうに眺める、美琴の外見をした全くの別人。
「もう良いかのぅ、」
そう言って美琴の顔をした女の子は全身から光を放ち、幼女の姿に変形した。
「わっはっはっ! これが我の姿! どうだ驚いたであろう! 」
幼女は仁王立ちで誇らしそうに笑っていた。愛らしい顔立ちにぴったりの金髪ツインテール、見るからに小学五年生くらいの幼児体型なのに胸が少し膨らんでいる。服はあざと可愛い白色のワンピースを着ている。
「か、可愛い、、」
俺は、この意味のわからない事だらけのこの状況がどうでも良く感じてしまうほどに、この女の子の可愛さに魅了されていた。
「おい、ちょっとまて、なんだこの状況は」
こんな時でも白先輩は冷静に状況を分析しようとしている。
「そんな事どうでもいいじゃないですか先輩! 幼女がこんなに可愛いんですよ! 」
「お前頭大丈夫か? 」
「大丈夫です! 」
そんな俺達の会話に、幼女は首を傾げている。
「空よ、おぬし頭大丈夫か? 」
「なっ!? 」
俺の幼女大好き症候群は、幼女に心配されるレベルらしい。というか、、
「なぜ、俺の名前を? 」
「ふはは! 我は神様なのだから当然なのだ! 」
「神様? 君のような可愛い幼女が? 」
「うーむ、そう言われると思ったから、美琴たんの見た目で出てきてやったというのに、、」
幼女が残念そうに俯く。
「そうだなぁ、もう一回美琴の姿になってくれたら信じるかも」
「そうか!? では仕方ない。もう一回美琴の姿になってやろう! 」
「やったー! 」
困惑する白先輩を他所に、興奮して見せる俺。だが、実は俺も内心は全く穏やかではない。困惑する気持ちを掻き消すため、あえて取り繕うように明るく振る舞うことによって、なんとか自我を保っている。
そんな俺に気づいたのか、白先輩も一歩前に出て、
「ちょっと待ってくれ、」
「どうしたのだ? 」
「どうせなら、美羽がいい」
「ほう、我は一向に構わんが? 」
「えー白先輩それはないですよー 」
「いいから、譲れ」
「んー、わかりました」
割と真面目なトーンで申し出た白先輩に、今回は譲ることにした。
幼女が美羽先輩の姿に変身し、俺達がくまなく全身を見た後、少し経つと白先輩が低い声で「わかったもういい。」 と言ったので、もう一度変身して幼女の姿に戻る。
「これで信じてもらえたかの? 」
「あぁ。それで、神様が俺達になんのようだ? 」
「うむ。説明するの面倒じゃから、貴様らに神々の会話を聞いてもらうとするかの」
そう言って幼女が俺達に指を指し、「それ」 という掛け声と共に、俺達の意識は遠のいていった。
天界アルビスにて
そこは、テレビで見るような楽園。大きな噴水や沢山の木々、花道のあるカフェテラスのような場所に、丸机の周りに四人が囲んで座っている。一人はお爺さん、一人は好青年、一人はセクシーな服を着たモデル体型のお姉さん、一人はさっき俺達の前にいた幼女だ。
まず、お爺さんが話し始める。
「うぅ、残念じゃ、何故こんなことに、、」
お爺さんは長くて白い髭を摩りながら、何かを惜しむように呟いき、ため息を吐く。
「僕も、残念です」
好青年がお爺さんに便乗して呟く。
「私は、空くんの悲しむ顔が見れたから良かったけど。あぁ、空くんの悲しむ顔はぞくぞくするわぁ」
お姉さんは舌舐めずりをして、色っぽく吐息を漏らす。
「ふん、我は全く面白くないのだ! 我の推しである美琴たんが死んでしまっては、これから何を楽しみに生きて行けばいいというのだ! 」
幼女は子どもが駄々をこねた時のように机をバンバン叩き、膨れっ面になる。
「あの、この世界に干渉して美琴たんや美羽たんを生き返らせることはできないんですか? 」
青年の提案に、幼女は首を横に振る。
「ダメじゃ。我が作ったこの世界は、多くの神々が楽しく鑑賞するために作ったもの。我々が都合の良いものに変えてしまっては、リアリティというものが欠如してしまう」
「確かに、そうですが、、」
青年が残念そうに俯く。
「じゃが、例外を設けても良いのではないかね」
お爺さんが幼女に問いかける。
「ふむ、じゃあなぁ、、」
「んー時間を戻すっていうのはどうかしら? 」
お姉さんが提案する。それに対して幼女は困った顔を見せた。
「ふむ。じゃが、それではまた同じものを神々に見せることになってしまうぞ? 」
「なら、空と白に違う行動を取らせるのはどうでしょう? 例えば、美琴たん達が死ぬ前の時間に二人を飛ばして、二人を助ける為に空達が必死になっている様子を、神々に見てもらうとか」
青年の提案に対し、お姉さんがニヤリと笑う。
「それ、私は見てみたいわぁ、うふふ」
「おぬし、さてはまた空が悲しむのを見たいだけじゃなかろうな? 」
「そんなことないわよ」
「まぁそれでま良いが。お爺ちゃんもそれで良いか? 」
「うむ、実に良いではないか! 気に入ったぞ! 」
「そうか。それではさっそく、その意見を採用するとしようかのぅ、」
幼女が立ち上がり、仁王立ちになる。
「ふはは! では、あやつらに会ってくるとするわい! 」
それから幼女は全身から光を放ち、その場から消えた。そこで終わりのようで、意識はまた元に戻る。
「ふはは! 事情はわかったかのぅ? 」
幼女は仁王立ちになって俺達に問いかける。
「うーん、わかったような、わからないような、、というか、なぜ君はあのお爺さんと口調がかぶってるんだ? 」
「今そこなのか!? 」
空の疑問に幼女は思わずツッコミを入れる。
「いや、絶対そこじゃねぇだろ」
「ふはは! 空はやはり面白いやつなのだ! 因みにあれは我の実のお爺ちゃんなのだ! 我は大のお爺ちゃんっ子じゃからのぅ。真似しておるのだ! 」
「へぇ、そうなんだ。でもあんまり顔は似てないね」
「いや、お爺ちゃんと似てないとか普通だろ」
「え、俺は似てますよ? 」
「もういいお前、黙ってろ」
この無駄なやりとりも、実はわざとしている。白先輩も、それを承知で乗っかってきてくれている。
わかった事は沢山ある。まず、人類はこの幼女に作られた、ということ。そして人類は、神々に鑑賞されているということ。そして、俺達が過去に飛んで美琴達を助けようと足掻く姿を、神々が見たがっているということ。だが、これではまるで、俺達が動物園の中の動物のようではないか。
だからこのような無駄なやりとりをしていないと、この行き場のない憤りに呑み込まれそうになる。
「言いたい事は山ほどあるが、、とにかく、美羽を助けられるんだな? 」
白先輩が幼女を睨みつけながら怒りの籠もった声で言った。幼女はニヤリと笑い、
「それはお主ら次第なのじょ! 」
「え? 」
「それはお主ら次第なのじゃ! 」
「あー。噛んだのか。」
「噛みましたね。」
「う、うるさいうるさいうるさーい!! いいからさっさと行ってくるのだぁ! 」
前屈みで手を伸ばし、俺達を押す幼女。その手から光が放たれ、俺たちはまた意識が遠のいた。
あぁ、わけがわからない事だらけだ
でも、これはチャンスだ。
待っててくれよ、美琴。
待っててください、美羽先輩。
……ってか、
幼女の名前、聞くの忘れてたなぁ、、
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