第28話 アンチエイジング①

 下山との昼食後、僕は再び何かを探し当てるために、日々注意深く過ごすことにした。しかし、以前感じたそれとは、少しばかり異なる感覚だった。どこかで失くしてしまったピースを探し求めるかのような感覚は同じだったが、それはまるで、最後の最後に燃えさかるろうそくの炎のように、激しさと儚さが同居したような感覚だった。僕は、暫く足が遠のいていた本屋に立ち寄ってみたり、学生時代に足繁く通っていたとある街のレコード屋に行ってみたりもした。会社帰りに喫茶店に寄り、情報を収集するためにひたすらスマートフォンの画面を操作してネットサーフィンしたり、僕は、自分の身体にぽっかりと空いた空洞(あな)を埋めるために、過去から現在に至る僕の道程辿ったり、思い当たる手段を片っ端から実行していった。

 しかし、僕には手掛かりはおろか、この先の兆しすら掴めずにいた。それでも何か取っ掛かりみたいなものでも掴み取ることができないかと、僕は物思いに耽りながら学生時代から馴染みのある街を歩いていた。しばらく無心で歩いていると、僕は道に迷ってしまっていることに気づいた。いくら歩き倒した街だとはいえ、何年も経てば大抵の街は様変わりする。この街も数多の街と同じように、その姿は大きく変わっていた。

 僕は元いた道に戻るために、差し当たる曲がり角を右に左に曲がっていった。このまま元の道に戻れず、もう二度と同じ日々を過ごせなくなるかのような気分だった。これまで同じ日々からの脱却を求めて試行錯誤を繰り返していたのに、今度は同じ日々を求めるために四苦八苦するなんて、何とも皮肉な話だった。

 しばらくの間、僕は歩き続けていたと思う。もしかしたら、同じところをずっとぐるぐると回っていただけかもしれない。いつからか段々と早歩きになっていた僕の目の前に、いつから存在していたのか分からないような古びた門構えのレコード屋が現れた。僕は、そのまま導かれるようにそのレコード屋に入った。入ってみると店内は、何の変哲もないただのレコード屋だった。ある種の運命のようなものを感じて店に入った僕の心は、思いも寄らぬ形で裏切られたが、僕は気を取り直して店中に広がる段ボール箱とその中に入ったレコードを漁っていった。

 そして狭い店内の中で、レコード特有のホコリとカビが入り混じったような匂いを嗅ぎながら、目に付いたアルファベットの札が刺さった段ボール箱を漁って、まだ見ぬ出会いを掘り起こそうとしていた。シュパシュパとレコードのビニールカバーが擦れる音が響き、程なくして僕は手を止めた。目に付いたところで手を止められず、通り過ぎてしまったレコード盤まで手を戻して取り上げると、足先からレコードを掴んだ指先までノスタルジーが満ち足りていくのを感じた。それは、学生の頃に盤が擦り切れるほど聴いた、ブリティッシュインヴェンションを構成したバンドのアルバムだった。かつて、僕が手に入れたこのアルバムは、盤が擦り切れてしまった後、どこの店に行っても出会うことができず、泣く泣く諦めてCD屋でCDを買ったのだった。こんなところで出会えるなんて。何の変哲もないレコード屋の姿に裏切られていた僕の心は、諦めていたものを取り戻したという歓喜で、良い意味で再び裏切られることになった。

 僕は、単なる偶然に勝手に運命めいたものを感じ、そのままレジに向かい会計を済ませて店を後にした。店を出ると僕はすぐにスマートフォンを取り出し電話をかけた。何度かコール音が鳴った後、受話口のスピーカーから声が聞こえた。

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