第15話 偽りのセレモニーと脱出
そしてセレモニー当日の朝が来た。
勇者達は豪華な馬車の上に立ち、人々に手を振る。
後ろの馬車の荷台にはジェノサイダーの幼体が積まれて、戦果の一部として披露された。
いつもは暗い顔をしている人々も、この日は国からの祝いが出ると言うことで皆明るい。
国王と宰相が先頭に並び、城下町の広場で皆にセレモニーの開催と祝いの品物(金と食糧らしい)を受け取りに教会に行き、祈りを捧げるように伝える。
今回の討伐で近隣の脅威は去り、しばらくの安泰が約束されたと言う、嘘の報告が大々的に拡がり、人々は喜び、歓喜をあげた。
俺はなるべく、人々と目を合わさないようにしながら手を振っていたが、
「ジル!」
と言う声に振り向くとそこにはミーアがいた、彼女はこの報告が嘘だと知っている筈だが何故だか嬉しそうな顔をしていた。
俺は引き攣った笑顔を返していた。
パレードは無事に終わり、今回のセレモニーで国庫の資源は少し減ったが、貯まった神力で50人近い勇者を再召喚できるらしく、国王と宰相は大喜びだった。
俺達には5万ギニーの褒章が出た。
セレモニーの夜、貴族や騎士、俺たち勇者で豪華な晩餐会が開かれた。
かなり美味い肉が出てきており、舌鼓を打っていると、これらの肉が今回討伐されたモンスターのものであると聞かされてビックリした。
熊狼も他のモンスターも下処理をちゃんとすれば、かなり美味しくなるらしく、前の世界でも趣味でよく料理をしていた俺は厨房のコックにアレコレと質問攻めをしてしまった。
色々と役に立ったので、俺が前回教えた骨ガラの出汁に加え、更に簡単なソースの作り方をコックに教えてやったら、大変喜ばれた。
野菜屑や骨、屑肉を焼いたあとで煮込んでワインと塩で味付けしただけなんだけどね。
フランス料理でいう、フォンというやつだ。
久し振りにカッツェ侯爵と話をして、自分の今後の動きを伝えておいた。
俺は次の勇者召喚のタイミングでケリーと商隊に紛れ込み、この国を出る事。
自治都市を検討している都市の一つに向かい、そこで1人で傭兵勇者として登録し、当面は生きていく事。
残る勇者やこれから召喚される勇者をできれば守ってやってほしいことを伝えた。
カッツェ侯爵によると、次回の討伐に向けて3日後にでも勇者召喚が行われるらしい。
その後は騎士団と合同で、森のジェノサイダーを討伐し、近隣のモンスターを駆逐する予定だそうだ。
話が済んだところでカッツェ侯爵から、餞別として金貨や銀貨を10万ギニー分もらった。1ギニーは日本でいう10円程度、イキナリ100万円は貰い過ぎだし、悪い気がしたので断ろうとしたが、
「ジルの事は息子のように思っている。本当の息子はとっくに死んでしまい何も出来なかったので、せめてジルにはこれくらいはさせて欲しい。
私の独善なので気にせず受け取ってくれ。
そして、もし良ければ今後はカッツェの性を名乗って欲しい、世継ぎもいないので、私の代で廃嫡となるし、何の効力がある訳ではないが、ジルと私の縁という事で頼む」
と言われ、断ることができなかった。
確認するとステータスの性がカッツェになっていた。
おそらくもう2度と会う事はないだろうという事で、ここで別れの挨拶をしておいた。
翌日、ケリーに次の勇者召喚の日程を伝えると、城下町で様々な買い物を行なった。
武器防具の予備、そして主に食糧であるが、俺には無限収納がある為、遠慮なく食材やワイン、調味料を買い漁った。
肉は超高級らしく、干し肉が少ししか買えなかった。
王城では王族、貴族がどれだけ贅沢をしているのかよく判った。
かなりの量を買い込んだ為、気が付けば3万ギニーも使っていた。
セレモニーの所為で顔が売れていたので、ゴロツキに絡まれる事もなく順調に買い物を済ませ、夕方にミーアのいる娼館に行き、ミーアにも今後のことを話しておいた。
ミーアには、偽りとは言えこの国で久々の戦勝報告とモンスターの素材による物流の再会が見込まれることで感謝された。
もちろん感謝は身体で払ってもらい、俺からの選別として1万ギニーを渡しておいた、この金額では多すぎると驚かれたので確認したら、平民の賃金は1日300ギニーほどで食事は1日2回、麦粥と簡単なおかずということだった。これで朝は日が昇ってから暮れるまで働いているという、ちなみに娼館は待遇がよく食事は1日3食で、娼館にある風呂にも入れるらしいが、賃金は1日500ギニーだという。
出来れば傭兵経験のあるミーアを身請けしたかったが、今の俺では護れる自信もなく、その事は言わなかった。
ただ、またこの国に来た時には宜しく頼むと伝えておいた。
勇者召喚の前日、ケリーと商隊に挨拶に行った。
商隊はアラド商会といい、アトク国とパーメイヤ王国を往復しながら商売しているらしい。
当然護衛の傭兵もいるが、ケリーと俺は別枠としてアラドさんの身の周りで警備をするらしい。
俺は勇者とは言えモンスター相手の接近戦が得意でないこと、この世界について色々教えて欲しいことを伝え、3万ギニーをアラドさんに手渡そうとする。
これにはアラドさんが驚いていたが、次の都市から傭兵ギルドで1人で生きていくことを伝えると、真剣な顔をして了承してくれたが金は受け取ってくれなかった。
せめて少しは役に立ちたいということで、料理ができることを伝え、商隊の食事は自分が手伝う事を伝えるととても喜ばれた、この商隊には料理が得意な人間が居なくて困っていたらしい。
食材はそれなりに積んでいくらしく、それを使って良いと言われたので、食材のチェックと傷まないように一部は【無限収納】に入れておく許可をもらう。
「良い奥さんになれるんじゃない?」
とケリーにからかわれたので、ウイルス増殖でヒーヒー言わせておいた。
全身に大きなアリが集るというのはかなり怖いと思う。
その夜、俺とケリーは城を抜けて、城下町のアラドさんが滞在する宿屋に泊まった。
俺は【無限収納】があり、ケリーは荷物がほとんどなかった為、身軽なものであった。
勇者召喚の日、俺はアラド商会に紛れ城下町の門から出て行った。
門番にはアラド商会の使用人という事で通してもらったが、セレモニーで顔を晒していた為、俺とケリーはマフラーの様に布を巻いて顔を隠していた。
アラドさんが、門番に重そうな袋を渡していたが、見ないフリをしておいた。
カッツェ侯爵やヅラ勇者のガラハド達、娼婦のミーアが気になるが、ようやくこの国から出ることができた。
ただ、前途が明るいとはとても思えない状況だ・・・
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