第14話 セレモニー前日

セレモニーが明日に迫った昼食後、俺の目の前には2人の勇者がいた。


1人はダメ勇者と呼んでいるケリー、こいつの総合ステータスは俺より上だが、元々接近戦より魔法による攻撃をメインにしていたらしい。

魔法よりの魔法剣士といった所か。

訓練場で手合わせをしたが、剣の扱いはステータス任せの攻撃で技術はイマイチだったが、【雷魔法】の制御が秀逸で最初のころは負けていた、今は俺が【ハッキング】を使うことで勝っている。


もう1人は心が折れた勇者で、タイシと言うらしい。

こいつは俺と同じ日本人で22歳、元ニートのだったらしい。元の世界の主神(最初に会った爺さんの事か?)にワガママを言ってステータスを大幅に上げてもらい、この世界では無双出来ると勘違いしたが、実際にはジェノサイダーに手も足も出ず、戦闘そのものが怖くなったらしい。

ちなみにタイシはそこそこの【火魔法】を使えるらしいが、3発ほどで限界らしく、剣のスキルで戦うスタイルだ。


ケリーは本人の言っていた通り、セレモニーが終わり、新たな勇者召喚を行なっているタイミングで行商人に扮してこの国を出るらしい。

同行する商隊にも話をしているらしく、護衛兼商人見習いとなるらしい。

まあ、こいつのステータスなら野盗に負ける事もないし、win-winの関係で上手くやれるだろう。

俺も誘われているが、正直まだ迷っている。


問題はタイシで、元の世界に戻りたいしか言わない。

現状では戻り方が判らないので、この詰んだ世界でどう生きるか考えるべきだと伝えたが、話にならなかった。

戻れないなら自分を守って欲しい、同じ世界の人間なんだから当たり前だと訳の分からない理由をつけられた。

しかも、守ってくれないのなら俺達がこの国を出ようとしていることを宰相に話すと脅してきた。


この様な人間に遠慮する程、俺はいい大人でもなかったので、ここは【改ざん】を使っておいた。

・タイシは元々この世界の選ばれた勇者である

・国王や宰相はタイシに期待している

・俺は異世界から来た最弱勇者であり、タイシが構う様な人間ではない


【改ざん】が終わり、タイシはこちらを一瞥すると、なぜ選ばれた自分が貴様等と一緒にいるのかと怒りながら出て行った。

【改ざん】もかなり使い込んでいるので、数週間は解けないだろう、気が付いた頃は俺はこの国を出ている。


それにステータスはガラハド並みに高いのだから、運が良ければこれからも生き残れるだろう。


商人になるつもりはないが、国を出るときに同行させて欲しいから、商隊に合わせて欲しいとケリーにお願いしたら、簡単に了承してくれた。


ケリーと別れた後、傭兵ギルドで『鷹の目』を訪ね、近くの食堂で話をすることになった。

細マッチョのロン毛は『鷹の目』の団長でスパーダさんという名前だった。なんでも、前回の森の斥候依頼の報酬が支払われておらず、ギルドとどう対処するか悩んでいると言う事だった。


俺は明後日のセレモニーで、モンスター討伐の報告も出るだろうから、その後尋ねれば報酬がもらえるのではないかと言っておいた。


そしてスパーダさんにいくつか確認をしてみた。


「傭兵ギルドに登録したいんですが、俺1人でも登録できますか?」


「それは難しいですね、ギルドは傭兵団単位で管理しているので、どこかの傭兵団に入るほうが確実でしょう、ジルさんの場合は勇者なので前例はありませんが認められる可能性はゼロではないですが、、、」


「じゃあ傭兵団に入るとしても、この国では嫌なので、別の国でお勧めはないですか?」


「傭兵ギルドは町や都市にありますので、こまめに出入りして気に入った傭兵団に入れてもらうのが良いですよ、私の『鷹の目』でも大歓迎ですが、ベースがこの王都なので、、、オススメはパーメイヤの都市ガースですかね、あそこの『頑鉄組』や『黒龍隊』なら大所帯ですね」


「最後に、この傭兵ギルドって信用できますか?正直言って傭兵の事を町の人や貴族は信用していませんよね、それって傭兵ギルドの管理能力が低いからだと思うんですが・・・」


「痛いところを突いてきましたね、私含めて傭兵たちは色んな人間がいて、信用できない傭兵団も沢山あります、だが傭兵ギルドは非常に公正で頼れる組織です。

実際に悪いことをしているのはギルドに登録できなかった傭兵団や、金額が安いからとギルドを通さず依頼する貴族たちだと思います。

少なくともギルドに加入している傭兵団は悪事を働くことはありません、傭兵団は厳格にランク付けされており、違反者は全ギルドに通達されて今後いい依頼を受けることができなくなるので・・・

今回みたいに国や貴族が依頼に対して支払いをしないケースのほうが多くて、困りますね、ちなみに傭兵ギルドの総本部は南のバダン帝国の帝都です、このアトク国はその中間に位置します」


俺はスパーダさんに礼を言い、彼らの食事代もまとめて国が支払うと酒場の店主に伝えると城に戻った。

自分はこれからどうしたいのか?賢神の言うとおりに頑張ってこのダメな世界を救う手伝いをするのか?


方針としてはこのように決めた。

・まずは生き残る力をつける、そのためにパーメイヤ国の傭兵団に加入する

・何とかして元の世界に帰るすべを探す、やはり彼女のことが忘れられない


俺は可能性は低いと思いながらガラハドを誘い、訓練場に来ていた。


ガラハドは妙にすっきりした顔でこちらを見ると口を開いた。


「ジルが出て行くのであれば、一向に構わんよ、今回は自分の矜持の為戦うのであって、無駄に死ぬつもりはない。

新たな召喚勇者にも事前にジェノサイダーの情報は伝えて、戦いたくない奴等は逃がすつもりだ」


「そう言うのを無駄死にって言うんだ!お前は自己満足のためにこの世界に来たのか?お前も闘神に何かを託されて来てるんじゃないのか?」


「ちょっとだけ、昔話をさせてくれ、、、ワシは元の世界では勇者と共に魔王を討ち滅ぼした戦士だった。ワシはいつも隣でいる勇者を羨んでいた。

何故こいつが勇者なのか?

自分ではダメなのか?

魔王を倒す旅の中でも、勇者はいつも途中の村や町で歓迎されていた。当然ワシも一緒にいたが、皆の視線は勇者を見ていたんだ。

魔王を討ち滅ぼした後、一生食っていける褒賞と近衛騎士の部隊長という役職を得たが、ずっと考えていたんだ。

ワシが勇者でも良かった筈なんだと。

元の世界の神から、異世界で勇者が必要だと神託が降りた時、ワシは飛びついたよ、今度こそとな。

しかし実際は誰も守れず20人以上の勇者を死なせてしまった、ワシは所詮勇者ではなかったのだよ。

ワシはあのジェノサイダーというバケモノを倒さないとこの先に進めん、死んだとしても後悔はない」


元の世界でも勇者というのは嘘だったのか。


妙に優しげな眼でこの様に言われてしまい、俺はガラハドに何も言えなくなってしまった。

死ぬ覚悟をした人間とはこいつのことを言うんだろう。


平和な世界で生きてきた俺やタイシには理解出来ないものだと感じ、その夜は勇者達と城下町の酒場へ繰り出し、浴びるほど酒を飲んだが、何故か酔えなかった。

ただ、皆何か吹っ切れた様に楽しみ、自分の過去を語っていた。

タイシは来なかったが、俺の改ざんのせいなので何も言わなかった。

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