第16話 都市ガースへの道
都市ガースまでは、約8週間かかり、大体3日ごとに町や村に寄り商売をしながら進むらしい。
目的のガースは、北のパーメイヤ王国に所属しているが、ガースに住む貴族たちが政治機能を果たしておらず、都市の商人と傭兵ギルドで自治都市化を進めようとしているらしい。
ガースは近隣の村などの治安維持にも力を入れているという事だった。
こんな情報が普通に流れているのに国として何も対処できないとは、パーメイヤもかなり詰んでいるんじゃないだろうか?
ただ、他国はもっと酷い状況らしく、本来民を守るはずの騎士が盗賊化していたり、貴族が盗賊と組んでいたりと散々らしい。
モンスターの脅威にさらされている今、商隊は非常に重宝がられているらしい。
色々な産地の食材や特産品を命懸けで運び、売買をするのは見ていて興味深く、ケリーが傭兵よりも行商をやりたいと言い出した。
ケリーはステータスは高いが、戦闘技術が高いわけでもないし、性格も戦闘向きじゃない。商人が向いてるかも微妙だが、傭兵よりは全然良いと賛成しておいた。
ケリーも元の世界の知識があるだろうから上手くいけば大成するかも知れない。
馬車の中では、このあたりの地形や風土、人々の暮らしなどをアラドさんに教えて貰い2週間は順調に進んだ。
料理は、やはり麦粥がメインでスープかサラダだったが、調味料で味をつけたり、干し肉を少し混ぜたり工夫する事で大変喜ばれた。
そろそろ国境になると言われても、何も目印がないので、いまいちピンとこないが、町や村の状態が悪くなっているのは判る。
大きな都市の周りは警備がしっかりしているが、離れた町や村は自警団くらいしかなく、モンスターだけでなく盗賊などの被害も多いらしい。
傭兵ギルドにはこれらの脅威の排除の依頼も来るらしいが、小さな村では出せる依頼料が少なく、そのまま滅びてしまう事もままあるらしい。
本来なら騎士団が出るべきなのだろうが、あの国王や貴族達がそんな対応をしてくれるわけはないと納得した。
今回商隊が到着したのも、今にも滅びそうな小さな村だった。
到着したのは昼前だったが、村民は皆痩せ衰えており、不作による被害で滅びを待っている状態の様に俺には見えた。
アラドさんは今までもこういう村を見掛けると、何か買えるものはないか物色し、それなりの高値で買い取っている。
また、宿屋や村長にコッソリと食糧や野菜の種などを提供しているようだ。
俺はそんな事をしてアラド商会に利益があるのかと聞いてみたが、
「このような村があるので、安心して商隊を組んで色々なところに行ける。自分の商売はこの人たちで成り立っているので、
この人達が種を育てて実を収穫できれば、それを買取り、需要のある所で売る、それが私の商売なのです」
と説明された。
今回、食糧等の確保で王都の城下町の商会をいくつか周ったが、何処も頑張ってボッタクろうとする様な店ばかりだったのに、こんな人も居るんだな、と感心していた。
この村には一泊し翌朝立つということで、俺も少しは役に立とうと、無限収納から食材を出し、麦粥を大量に作り、商隊や村民に配った。
村の人口が100人足らずなので、炊出しもそんな苦にならず、昼食後は村の子供達と遊んでいた。
どんな世界でも子供は可愛い。
元居た世界を思い出し、順調にいけば俺も結婚して子供ができて、など想像しながら子供達の相手をして、木片で積み木や竹トンボを作って配っていると、大人達がこちらを見て涙を流していた。
話を聞いてみると、この子達の半数は領主に税が払えない替わりに奴隷として売りに出されるらしい。
アトク国に奴隷制度があるのは知っていた。
犯罪者や借金を返せない者が、奴隷として売りに出されるらしい。
全員連れて行くと村が潰れたり、反逆や夜逃げの恐れがあるので、半数の子供達や女性を税の替わりに奴隷として売りに出すという。
この話を一緒に聞いていたアラドさんは苦々しそうに口を開いた。
「今の貴族達は皆この様なものです。モンスターの脅威に対して何も出来ないばかりか、そのツケを領民に押し付けている。
あいつらクズはこの様な状態を知ろうともせず、自分たちの利益を追求し贅沢をしている。
国王も貴族も皆同じなので、何処に行っても救いがない」
俺は城下町を出るまで、その貴族達と同じ生活をしていたので何も言えなかった。
アラドさんにカッツェ侯爵の事を知っているかと尋ねてみたら、この様な答えが返ってきた。
「カッツェ侯爵は領民を思いやり、カッツェ領は比較的安定しているらしいです。
ただ、国王や宰相に政策の見直しなどいろいろ進言したが聞き入れて貰えず、嫡子も騎士として行軍中に死亡してしまったそうです。
他の貴族も養子を出さず、庶民からの養子も国王が許可しなかった為、死後、領地は国の管理になると聞いています。
嫡子もカッツェ侯爵を敵視している他の貴族に行軍中に殺されたと、もっぱらの噂です。
カッツェ侯爵こそ本当の貴族だと思うのですが、彼の様な人はクズ貴族からしたら邪魔でしかなく、今後生き残る事が難しいでしょう。
ジルさんが国を出るにあたり、実は私の方に色々と便宜を図っていただきました。
もっともこの件は本当は内緒にして欲しいと言われたのですがね」
実はケリーもアラドさんもカッツェ侯爵に色々と俺の事を頼まれていたらしい。
「カッツェ侯爵、、、」
俺はこの詰んだ世界にあって、色々な人に助けてもらっていた事を改めて思い知った。
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