第12話 ガラハドの想い

宰相は、セレモニーを行うのは5日後である事を告げると上機嫌で去って行った。


俺は他の勇者達に声をかけて、訓練場に来てもらい、ガラハド達の改ざんを解いた。


「お前はなんと言う事をしてくれた!ガルド団長の気持ちを無駄にしたいのか?」


ガラハドが詰め寄ってくる。


「ガルドのオッサンは最後に俺達に向けて、生きろと言った。ゴネたところで奴隷となり国のコマになるか、この人数でジェノサイダーの餌になりに行くか、どっちかだろう。

俺たちが取る道は、再度勇者召喚させて、それからジェノサイダーを討伐するか、この国から逃げるかだ。

ジェノサイダーを討伐したところで、次の討伐を命じられるだけだし、毎回特攻していては、近い将来俺たちは全員死ぬことになるだろう。それがこの世界における勇者の扱いだ、それにジェノサイダーがこの世界最強でない可能性もあるんだ。

今後どうするか、皆の意見を聞かせてほしい」


 俺の言葉で皆が黙る。


正面からジェノサイダーと戦うなんて自殺行為だとさすがに理解はしているはず。

最初に声を出したのは、ダメ勇者のケリーだった。


「俺はセレモニーの後で、この国から出ようと思う。他の国がどうか判らんが傭兵でもしながら適当に食い繋ぐさ」


確かに、それはアリだな、俺たちのステータスであれば傭兵として生きていけるだろう。


「ワシは、ガルド団長の仇を取りたい。自分の強さでは勝ち目が無いのは分かっているが、このままこの国を去ることなど出来ん。国民を騙して、勇者を再召喚するのは反対だが、今回は甘んじて受けようと思う」


ガラハドと数名の勇者が同じ事を言い出した。


策も何もなく突撃で倒せる相手では無いとまだ理解出来ていないらしい。

ここで黙っていた勇者の1人がボツリと呟いた。


「俺はもう戦いたく無い。召喚されたからって、ステータスが騎士達より強いからって、あいつ等に勝てるわけが無い。なんとかもとの世界に帰りたい」


コイツはもう、心が折れているな。

ジェノサイダーとの戦力差を目の当たりにしているのだから、当然ではあるが、宰相にバレたら奴隷術に掛けられるだろう。


俺はコイツ等の意見を一通り聴いた後、ゆっくりと自分の意見を伝えだした。


「俺は今回負けたのは、力押ししかしなかったからだと分析している。事前に森の中を調査して、奴等の生態や分布を把握していれば、罠を仕掛けたり待ち伏せしたりとやり方は色々あった筈だ。この世界では俺の考え方は邪道で、勝ったところで評価して貰えないらしいが、正直今回の戦い方ではジェノサイダーの方が合理的な戦い方をしていた。

お前等全員が従ってくれるなら、この人数でもジェノサイダーを討伐出来る。

反対する者が1人でもいれば、俺もダメ勇者と同じ様に傭兵でもしながらこの国を出て行く事にする。如何だろうか?」


しばらくの沈黙の後、心が折れた勇者が口を開いた、黒い髪に黒い瞳、東洋系の顔立ち、こいつは俺と同じ日本人かもしれない。


「俺は元々勇者でもなんでもなかったんだ、前に世界の神に、この世界では無双できる力をやると言われて、何も考えずに来たんだ。もう一度あのバケモノと戦うなんて無理だ」


次はダメ勇者であった。


「俺はお前さんが策があると言うなら乗ってもいい、元の世界でも策を使う事自体に忌避感はなかったんでな、ただし、前衛は勘弁して欲しいかな。

体力的なステータスはお前さんより強いが、ジェノサイダー相手では分が悪すぎる」



ガラハドが口を開いた。


「ジルよ、今回貴様のスキルに助けられた事は事実だ。突破口を開いたのも、国王や宰相に対しても助けてもらった事は感謝している。しかし、ワシは元の世界でも勇者であり、今回はガルド団長の仇討ちなのだ。

卑怯な真似をして勝っても、ガルド団長は浮かばれんだろう。

今度召喚される勇者達と力を合わせて、今度こそジェノサイダーを倒すッ!」


残りの勇者はガラハドの熱弁に乗り、正々堂々だとか言い出した。


心が折れている勇者は真っ青になり、ダメ勇者はヤレヤレといった顔をしている。


「判った、自殺志願者には何を言っても無駄な事がよく判ったよ。ジェノサイダーは今回の討伐でガルドのオッサンが2体倒している、ガラハドも奴等に傷を付けている。

アイツ等はきっと俺達のスキルなどを学習しているから、前よりさらに手強くなっているだろう。

俺はセレモニーが終わったら直ぐにこの国を出る。それまで他国の情報などを調べれるだけ調べてみる。

もし気が変わったならセレモニーが終わるまでに声を掛けてくれ。後は皆が自分の進む道を決めたと言う事で、決して邪魔をしない事、それだけだ」


心が折れた勇者に対してはどうしようもない。付いて来たければ受け容れるが、間違いなく足手纏いだろう。

ダメ勇者にはこちらから声を掛けてもいいかもしれない。


ガラハド達は、どうしようもないだろう。勝てる見込みがあると考えている訳でもなく、殉死を覚悟している様子だった。

アイツ等の選択は最悪だと思う。

死ぬんなら自分達だけで死ねば良いのに、次に召喚される勇者達も巻き込んで死ぬつもりなのだ。

召喚される勇者達が不憫で仕方がない。


セレモニーが始まるまであと5日、俺は他の国の情報を書庫や城外に出て収集しはじめた。

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