第11話 宰相の企み

そこから10日ほどが経ち、勇者全員が宰相に呼び出され、大きな会議室で話をする事になった。

俺たち勇者のほかには宰相と貴族たち、カッツェ侯爵もいる。

そして宰相のジジイがとんでもない事を言い出した。


「今回の討伐は、多大な犠牲を払ったが、近隣のモンスターを全て討伐したとして大々的にセレモニーを実施する。

ついては勇者の皆はセレモニーに参列し、国民に安堵あんどを与えて欲しい。」


え?全て討伐?俺たちは惨敗し逃げ帰ったのにこのジジイは何を言っているんだ?


「近隣の脅威が無くなったわけではないのに、何故この様な事をするのですか?」


ダメ勇者のケリーがまともな質問をした、ちょっと驚いたが俺も気になるので黙って様子を見る。

他の勇者が同じ考えのようで頷いている。


「ふむ、これについては事情がある。国の方針として、あの森の脅威を取り除く必要があるが、新しい勇者を召喚する神力が足らんのじゃ。

神殿に勇者召喚するための神力を蓄える為には、民に安堵を与え神殿に感謝を捧げる必要がある。

今回の成果で王都は少し潤ったが、神に捧げる民の感謝が足らんのじゃよ。」


だから、国民に嘘をついて感謝させる事で、次の召喚の神力を集めるということか?

こいつらは結局、自国民を騙して、もう一度勇者を召喚し、俺たちと新しい勇者を使ってジェノサイダーを討伐させるつもりだ。


何処まで他人任せで無責任なんだ?なんでこんな奴が宰相なんてやってるんだ?


その日は勇者全員が納得いかないと反発し、会議が終わった。

タコのように真っ赤になって怒る宰相は面白かったが、自分たちの立場がよく判った。

召喚される事で騎士達より強い俺達は、つまり使い捨ての消耗品という事だ。

騎士より強いので叛逆されると面倒になるので、酒や女を当てがい無理やりでも言うことを聞かす、必要最低限の情報しか与えず、さっさと死地に送り込むんだ。


勇者達は贅沢させてやるからこの国の為に死ぬまで戦え、つまりはそういうことなんだ。


そんな事を考えて自室で悶々としていると、カッツェ侯爵が心配になって来てくれた。

俺の性格から、宰相や貴族たちに反発しそうで心配だと言う。

残念ながらこの捻くれた性格は既に35年過ごした相棒であり、今更媚びへつらう真似もできない。


「このまま無駄死にもしたくないし、かといって次の召喚で来る勇者達がガルド団長レベルで強いとも限らない、今後の対応を考える必要がありますね」


「そのことですが、ジル様は勇者としてはステータスが低いことを理由に私の養子として王都から離れませんか?私の領地に来れば少なくとも次に召喚される勇者と一緒に駆り出されることもないでしょうし」


カッツェ侯爵は俺を養子に迎え入れて、この国における勇者としての役割から守ろうとしてくれている、その気持ちはありがたいが、、、


「ガラハドやケリー達を見捨てることになるので、ありがたいのですがそれは出来ないです、次に宰相に呼び出された時に俺も我慢できるか判りませんし、俺と関わっているとカッツェ侯爵に迷惑をかけるかもしれません、もう俺とは会わないほうがいいでしょう」


カッツェ侯爵は寂しそうに項垂うなだれて帰っていった。

ごめんなカッツェ侯爵、あんた良い人だけどこの国はもう詰んでるとしか言いようがない。


その夜、部屋にセクシーグラマーなお姉さんがやって来た。きれいな金髪に緑色の目をしている。


「あらら、可愛いボウヤじゃない、好きにして良いのよ」


と言いながら俺に酒を勧めてきたが、子供だからと断り、お姉さんに話を聴いてみた。

どうやら彼女は宰相の命令で俺のところに来たらしい。他の勇者にも勿論他のお姉さんが行っており、身体で説得しているらしい。


俺は彼女にそんな事を話して大丈夫なのか聴いたが、


「宰相からも聞かれたら正直に答えて良いと言われてるわ。どうせ無理やりでも言う事をきかすつもりみたいだしね」


と教えてくれた。


そもそも拒否権もなく、今日の打合せはポーズだったのか。


「あのね、坊やは知らないかもしれないけど、【奴隷術】っていう怖いスキルがあって、人を言うとおりにさせることができるのよ?」


「【奴隷術】?」


お姉さんからは、【奴隷術】と言うスキルがあり、それを使われたら、自分の意思はなくなり、傀儡になるという、抵抗できるスキルを持っていない場合はどうしようもないと教えられた。


王城内で誰がどのようにして【奴隷術】を使うのかは不明だが、奴隷になんかなりたくない。

こうなったら【奴隷術】を使われないようにいったん従う振りをするしかないか。


ジェノサイダーの時以上に、自分の環境が詰んでいると思うと、もう何も考えたくなかったので、お姉さんに謝って、一緒に酒を飲んでもらい、一夜を共にしました。



朝起きると、お姉さんに


「とても子供とは思えなかったわ、また呼んでよ。私の名前はミーアよ」


などと言われたが、当然である。

中身はそれなりに経験値のある35歳なのだから、しっかりと性的に頂きました。


部屋においてある水桶の水を使いサッパリしたところで、朝食を食べ終わったタイミングで再度宰相から呼び出しを受けた。


内容は昨日と同じで、今回は国王と宰相、そして護衛と思われる黒い鎧の騎士が2名だ。


俺は早々に白旗を上げ、セレモニーに参加しますと伝えたが、ヅラ勇者ガラハドと2名の勇者が猛然と反対をした。


「女をあてがって言う事をきかそうなどと、ゲスの極みだ!俺たちのためにその身を投げ出してくれたガルド団長の為にも、国民に嘘をつくなどは出来ない!」


うん、正論だわ。

しかしこれが良くなかった。


「貴様ら勇者など召喚すればいくらでも替えがきくのだ、自分達の立場を今一度教えてやろう!」


「!?」


国王がそう言うと、黒い全身鎧の騎士姿が2名が、素手でガラハドと2名の勇者を簡単に抑えつけた。


「嘘だろ?勇者以上に強い?」


ガラハドでも騎士の10倍近いステータスを持っているはず。

何がどうなっているのかと考えていると、昨夜のミーアの言葉を思い出した。

そうだ、【奴隷術】に操られた勇者だ。


「貴様等は、これから黒騎士として、余のために働いてもらう、この3人を連れて行け。貴様等はどうする?奴隷となったほうが楽かもしれんぞ?」


「いや、俺達はあんたに従うよ」


皆がなにか言うより先にケリーが返事をする。


さて、ヅラ勇者ガラハド達は諦めてもらおうか?

しかし、俺も全く情がないわけではない、出会いは最悪ではあったがガラハドも悪い奴ではないのだ。


そして俺も森から生還した後、今まで何もしなかったわけではない。

自分のスキルを使いこなす為に検証を繰り返した、今使えそうな【ハッキング】スキル、それは、、、


【改ざん】


これは、記憶の一部や思考を【改ざん】することが出来る。

ウイルスの機能は誤動作や破壊などだが、【改ざん】に関しては細かく本人の思考を書き換えることが出来る。

ただし、部分的なものなので、暫くすると【改ざん】は修正されて元に戻ってしまうので、戦闘時に利用できるものではないが、今のタイミングなら、いけるかもしれない。


俺は国王と宰相に向けて【改ざん】を放つ、俺の指先から半透明な糸のようなものが伸びて2人に接触すると、ビクリとして動きが止まる。


半透明なディスプレイのような画面が2人分現れた、ステータス画面に似ている。

この画面は性格や嗜好、記憶などがタブで分かれており、俺はそれを自分の好きに【改ざん】することができる。

記憶(ログ)のタブを開き、改ざん内容は、『勇者達が服従を誓った為、今回は奴隷術を使用しない』と言う内容に書き換える。


続いて呆然とするガラハド達にも同じ内容で【改ざん】を施した。

黒騎士は全く微動だにしていなかったのと、まったく表情が伺えない目を見たときにゾッとしてしまい、そのまま放置することにした。


「とりあえず、お前らはおとなしくしておいてくれ」

俺は残りの勇者たちに声を掛け、国王に宰相、念のためカラハド達の【改ざん】を済ませる。


「宰相様、大丈夫ですか?」

俺がわざとらしく宰相に声を掛けると、皆がハッとなり我に返る。

すると、咳払いをした後、国王がいい笑顔で話し出した。


「コホン、今回は勇者達全員の合意が取れて余は満足である。宰相よ、後は頼むぞ。」


国王は機嫌よく出て行き、その後を2人の黒騎士が付いていく。

この黒騎士に関しては、殆ど自我がない様に見えた、【奴隷術】とはどのレベルまで服従させることが出来るのだろう?

なんにせよ警戒しなければいけないスキルだ。


その後は簡単にパレードの内容を説明され、宰相も上機嫌で戻っていった。

とりあえず何とかなったようだ。。。


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