第10話 撤退と報告
どれほど時間が過ぎたのかは判らないが、森を抜けた頃には夕方になっていた。
残った勇者は俺を入れて10人、たったそれだけだった。
一緒に森に入った騎士達も全員ジェノサイダーにやられた。
森の入り口に残された馬車には、馬車を守るための騎士が2名おり、簡単に状況を説明した後、キャンプを張った、誰も何も喋らず、ただ無言で食事を済ます。
食事は俺が出したパンと肉、野菜だったが、食べていたら、勇者の数名が泣き出した。
俺にはこいつらの事を笑うことは出来ない、俺も今更になって手足がガクガクと震えだした、簡単に人が死んだ、今までの人生で目の前で人が死ぬなど当然未経験だった、ジェノサイダーの顎に噛み切られ、千切れ飛ぶ手足、勇者や騎士たちの悲鳴、転がる死体。
「こんなにモンスターが強い世界だとは聞いていなかった」
「ガルド団長がやられて、我々はどうなるんだ・・・」
「自分の剣技が通用しないなんて、あんなの勝てるはずがない」
知らねぇよ、あんな恐竜相手に生き残れただけ
そのせいもあり、飛び道具も未だに弓止まりで、クロスボウなどはないそうだ。
ジェノサイダー相手なら大型のクロスボウであるバリスタくらいでないと効かないだろうが、森の中では使えないだろう。
行軍時のように3チームに分かれて見張りをし、交代で仮眠をとった。
俺は嫌われていたが、既にそんな事はどうでも良いらしく、見張りの勇者に絡まれる事もなく朝を迎えた。
誰もちゃんと眠れなかったようで、疲れが残った顔をしている、俺も横にはなったがジェノサイダー達の姿、狩られていくいく勇者を思い出すと恐ろしくなり眠れなかった。
もしかしたら生き残りが居るかも知れないので、森の入り口で少し待ったが誰も来ないので、4台の馬車に分かれて王都に向かった。
そういえば結局、女勇者とライル卿はどうなったんだろうか?
あの状況で2人で逃げれるとも思えないし、おそらくはやられたのだろう。
朝食は食べなかったので、安全な街道まで出てから昼飯を食べた。
もう安全圏なので、昼食は残りのパンと肉を振舞った。
皆少し余裕が出て来たのか、今後について話をしている。
なんせ、勇者団は初陣で壊滅している。
聞いていた内容と違い、150体以上のモンスターは討伐したが、ジェノサイダーに惨敗した。
この10人であのジェノサイダーを討伐しろと言われても、絶対に無理だ。
ガルド団長始めステータスが高い勇者はほとんどやられてしまったうえに、俺とダメ勇者以外は近接スキルしか持っていない。
熊狼などの獣型モンスターなら大丈夫だが、それ以上の恐竜型や鳥型モンスターになると良くて互角だろう。
今後のことを考えると、暗い未来しか浮かばない。そんなことを考えながらも夜には王都についた。
俺たちの惨状に宰相は慌てていたが、詳細報告は明日でいいと言われ、食事をし、体を拭いてベッドに入り込む。
結局、野営は3泊しかしていなかったが、心身ともに疲弊してしまい、すぐに寝てしまった、疲れ切っていたにも関わらず嫌な夢を見た、勇者たちが殺されていく夢だ。
翌朝、宰相に全員呼ばれ、簡単な朝食を摂った後、大きな会議室の様なところに集められた。
基本的な説明は、他の勇者達が行い、俺は黙って聞いていたが、貴族達の反応は最低だった。
「勇者のくせに!なんて情けない!」
「本当に100体以上のモンスターを倒したのか?」
「実は他の勇者たちを放って途中で逃げてきたのではないか?」
「世話役の騎士たちも貴様らが殺したのではないか?」
150体以上討伐した事を信じてもらえず、森で騎士達を殺したのではないかとあらぬ疑いを掛けられたので、俺は城の庭に収納していた全てのモンスターを並べた。
その異様な光景に何人かの貴族は嘔吐していたが、これで騎士殺害の容疑は晴れた。
ジェノサイダーの件についても色々言われたが、2体の幼体を収納していた為、その件も納得したようだ。
ジェノサイダーが近くにいる事が判明した為、騎士団で討伐体を組む案や、勇者を再度向かわせる案など色々出たが、ジェノサイダー全てを駆除できる案はなかった為、先延ばしになった。
そして、今回の戦果である全てのモンスターは国の物として取り上げられ、俺たちには暫く休みが与えられた。
俺は城の書庫に通い、この世界の歴史、モンスターや動植物の知識をいろいろと調べたり、訓練場で自身のスキルの再訓練を行なっていた。
空いている時間にハゲ貴族のカッツェ侯爵と話をし、ジェノサイダーを討伐するには、毒物を使い、罠を使い、できる限りのことをする必要がある事を伝えたが、この世界ではそのような戦い方は許容されない事を言われた。
「つまるところ、全力前進で敵を倒す以外は許されないということ?」
「そうですね、我々の常識では人間同士の戦争ではお互いに名乗りを上げたうえで打
合い、モンスター討伐でも飛び道具や毒物などはたとえ勝てたとしても邪道と罵られます、ジル様の考えで勝てたところで、最悪は処刑されてしまうことになる可能性もあります」
昔、召喚された勇者が正々堂々と戦いモンスターを打倒したことを、闘神、戦神が褒め称えたことから、全ての戦いは正々堂々としているらしい。
驚いたことに盗賊の類ですら闘神の天罰を恐れ、罠や毒は使わないらしい。
昔の日本のように名乗りを上げて、全軍突撃以外は邪道として、たとえ勝ったとしても一切評価されないどころか、厳罰の対象にもなるという。なるほどこれでは人類の生存圏がなくなっていったというのも当然だろう。
「現状では、勝つために戦略が必要ということも私も理解はしますが、他の場所では絶対に発言してはいけません、絶対です」
つまり、俺の考え方は邪道であり、勇者としてあり得ない、という評価になるので他では言わないように言われた。
魔法のように、正面からぶつけるのは良いけど、【ウイルス】みたいなのはダメなので、【ハッキング】スキルも内容は他言無用にするようにキツく言われた。
カッツェ侯爵は俺の事を息子の様に思ってくれて言ってくれたのだろうが、俺のステータスでは生きていけない。
この世界どころか、俺自身の存在がまず詰んでいると言う事が判った。
これってムリゲーじゃないか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます