第9話 壊滅
森の中でモンスターの声がすると勇者達は導かれる様に進んで行く。
恐ろしいほど順調だ。
夕方になり、皆がスキルを惜しまず使っていたことで脳筋軍団の疲労がひどい状況になってしまい、一旦キャンプを張ることになった。
夕方までスキル使い続けれたことが凄いというか、俺の場合はそこまで保たない。
同行している騎士たちが食事の準備をして、今回は勇者団は交代で見張りを行った、俺、ケリー、ガラハドも見張りに組み込まれたが、特に襲い掛かってくるモンスターもなく無事に過ごすことができた。
翌朝、簡単な朝食を摂り、身体の様子を確かめる、疲れはなく心身ともに充実している。
勇者団は更にモンスターを退治しながら森の奥に進む、木々を抜けかなり広い開けた場所にたどり着いた、小学校のグラウンドぐらいの広さはあり、大きな木はなく草が生い茂っており、所々岩がある。
そこには1.5メートル程の2足歩行の恐竜の様なモンスターが10体ほどいた。
「皆の者、突貫だ!」
団長であるガルドの号令で前衛が襲い掛かる。
だが、コイツらは今までと勝手が違っていた。
恐竜型のモンスターは鋭い爪と牙を器用に使い、勇者の攻撃を逸らしていく。
勇者達に疲れた様子もないことから、このモンスターは今までの獣型とは違うと直感した。
このままでは戦いの音で他のモンスターを呼び寄せてしまう危険性もあり、よくない流れだと考え、恐竜型の【スキャン】を掛けてみた。
***
ジェノサイダー(幼体)
称号:
『なし』
スキル:
【格闘適性】
ステータス:
肉体:万全
精神;異常なし
攻撃:15
防御:50
弱点:冷気、水に弱い
***
コイツの見た目だが元の世界のティラノサウルスに近い、もし同じような習性をしているならば、幼体が囮になり成体が狩りをするということがありえる、それにカッツェ侯爵がジェノサイダーに出会ったときは逃げろと言っていた、従軍している騎士は知っているのかと後ろを振り向いたところで、叫び声が聞こえた。
「ぎゃあぁぁぁ~!」
「助けて下さい、勇者様~!」
振り向いた先には、10メートル近い恐竜型のモンスターが騎士達を咥えていた。
それが、彼らの狩りの始まりの合図だった。
本当にこの世界は詰んでいるじゃないか。
しかもコイツ等が3体ずつ、四方から現れた。
ガルド達も気付き、応戦を開始するがジェノサイダー達は驚いたことに連携をとりながら勇者たちを蹂躙し始めた。
咄嗟に【スキャン】を大きなジェノサイダーに使う。
***
ジェノサイダー
称号:
『竜王』
スキル:
【格闘適性】【かみ砕き】【連携】【斬撃耐性】【魔法耐性】
ステータス:
肉体:万全
精神;異常なし
攻撃:300
防御:200
弱点:特になし
***
騎士たちのステータス値が大体5程度、ヅラ勇者のガラハドでも50だった、こいつは俺のステータス値の20倍近い、ステータス値は参考だとしても、スキルを使ったとしてもとても勝てる気はしない。
「な、なんだコイツは!?」
「強いぞ!」
前衛の勇者たちが幼体を放置してジェノサイダーに向かっていくが、幼体も成体と連携して勇者たちを撹乱する。
このままだと全滅だ、俺は手持ちのスキルで何か打開策がないか考える、これは力押しで勝てる相手じゃない、この状況だと撤退しか選択肢はないが、出来るか?
「ぎゃあああぁぁぁっ!」
「俺の腕が!腕がぁぁぁぁっ!」
考えている間に、1人、また1人と奴等の餌になっていく。
ジェノサイダーは疲れて動きが悪くなった勇者を確実に複数で仕留めている。
元素魔法はどうだ?
1体なら何とかなるだろうが、そのあと疲労で動けなくなり、餌になってしまう。
格闘なんかは論外だ、体格が違いすぎる。
「うぉおおぉおおぉおっ!」
「スキルがそろそろ使えなくなる、やばいぞ!」
ヅラ勇者ガラハドは戦斧を振り回しており、ジェノサイダーはガラハドを遠巻きにして他の勇者を攻撃している。
確かにあの斧なら奴等の足を傷付けて逃げることができるが、ジェノサイダーは全部で12体、さらに幼体がまだ5体も残っている。
ジェノサイダーは成体3体ずつで編成を組んでおり、生き残っている幼体は後ろに下がるか、勇者を撹乱している、
女勇者とライル卿の姿はいつの間にか見えない、喰われた可能性が高いだろう。
ダメ勇者は魔法でガラハドのフォローに回っている。
「まだだ!まだ負けん!」
団長であるガルド達脳筋組は既に10人近くが斃れているが、まだスキルと魔法で何とかしようと奮闘している。
いくらガルドたちが強くても、そもそも連携もしていない俺達がジェノサイダー達に勝てるとは思えない。
この状況を打破するには、俺が出来ること、【ハッキング】スキルで検証したものを思い出す。【スキャン】【ウイルス】【ルートキット】【バルナラアタック】確認・発現できたのはこれくらいだ。
この中で今の状況で有効なモノは?
「これだな、【ウイルス】」
思わず声に出していた。
手のひらに10センチ程の黒いアリの様な虫が現れる。
コレはウイルス。
俺のスキル【ハッキング】で出現した虫だ。
この【ウイルス】にはひとつの命令を仕込んで相手に取り付けることが出来る。
試したのは増殖、破壊、誤動作などが可能だった。
増殖は最大100体を相手にまとわりつけることが出来る。現状は100体だが、練度が上がればもっと増えるかもしれない。
破壊は文字通り、取り憑いたウイルスが破裂し対象を破壊するが、ダメージは少ない。せいぜい果物を破裂させる程度だった。
誤動作は本来の動きを阻害する。城にいた頃に絡んで来たヅラ
話を聞いたところ、俺に殴りかかりたかったが身体が違う動きをしたそうだ。
自分にも試したが、右を向こうとしても上を向いたりと散々だった。
ただし効果は約1分程度しか保たない。
とてもジェノサイダーを倒せるスキルではないが、この場から逃げるには使えそうだ。
俺は、ガラハドが相手にしているジェノサイダーに誤動作の命令を仕込んだ【ウイルス】を放った。
【ウイルス】は勢いよくジェノサイダーに飛びつき、ジェノサイダーはイキナリ棒立ちになった。
「ヅラ勇者!後ろ足を狙え!」
「!? おおっ!」
ヅラ勇者ガラハドの戦斧が後ろ足に叩き付けられる。
「ギャオオオオッ!」
足を傷つけられたジェノサイダーの1体が倒れたが、まだ【ウイルス】の誤動作効果で満足に動けていない。
「おいヅラ勇者!撤退だ。後2体を同じ様に誤動作させる!お前と
「ヅラって呼ぶな!ガラハド様と呼べ!ガルド団長!こちらに突破口を開く、一旦撤退して立て直すぞ!このままではジリ貧だぜ!」
既に勇者は半数近くが喰われており、残りも無事な勇者は数が少ない。
「俺らだけで行っちゃって良いんじゃないの?」
いや、俺たち3人じゃこの森から無事に出れるか不安だ。
だいぶ慣れて来たが俺はモンスター共と接近戦なんか出来れば御免被りたい。
「ガルド団長!死んだらここで終わりだ、今は体制を立て直そう!」
俺もガルドに向かって叫んでいた。
「動ける勇者は、全員撤退!ガラハドと共に行け、ワシは団長として
まだ動ける勇者達が7人、こちらに走って来た。
ガラハドはそれを見届けて走り出す。
「森を抜けるぞ!皆ついて来い!」
「ガルドのオッサン!」
「ワシは良い、行けッ!坊主!」
ガルド団長はジェノサイダーの1体を剣のスキルで斃し、残りに威嚇している。
俺は、ガルドに向かっているジェノサイダー1体に破壊の命令を仕込んだ【ウイルス】を放ち、目の位置で破壊させた。
怯んだジェノサイダーにガルドの剣スキルが唸り、更に一体を斃したが、残りのジェノサイダーがガルドに躍り掛かった。
「生きろッ!」
ガルドの声を聞いて、俺たちは後ろを向かずに走って逃げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます