第7話 行軍開始
行軍は4台の馬車に勇者達と荷物を乗せて進んだ、騎乗の可能なそれぞれ勇者は馬に乗っていた。
俺は当然騎乗なぞ経験がないので、馬車であるが、馬車の中が最悪だった。
一緒に乗っているのが、ヅラ勇者ガラハド、あと女勇者と真っ青な顔をしているライル卿、そして「まだ休みたい」と言っていたダメ勇者だった。
ガラハドは前にステータスを確認したので、ダメ勇者のステータスを【ハッキング】でスキャンしてみる。
***
ケリー 男 ハーフエルフ 27歳
称号:
『勇者』
スキル:
【言語理解】【剣適性】【雷魔法】【気配感知】
ステータス:
肉体:万全
精神;異常なし
攻撃:30(+3)
防御:35(+1)
弱点:特になし
***
ガラハドには劣るが勇者として平均的なステータスだ、と思ってたらダメ勇者のケリーと目が合った。
「ジル君、俺に何かしてる?変な気配がするんだけど?」
なるほど、【気配感知】が仕事をしたらしい。
「すみません、ステータスを覗きました、ダメゆう、、、ケリーさんは俺なんかより強いですがなんでそんなにやる気がないんですか?」
「ちょっとアンタ!、レディーの私のステータスは覗かないでよ!」
「ん~、たぶんジル君も感じてるだろうけど、このアトク国の国王も宰相もなんか信用できないんだよね~」
いきなりケリーの爆弾発言である、これに対して当然ライル卿がキレた。
「勇者様!国民の願いが神力となり召喚された貴方がそのような不敬な発言をされるなど、ありえませんぞ!このことは戻り次第宰相様に報告させていただく!」
「そもそも勝てるか微妙じゃないですか、いいよ別に、そうなったらこの国から出ていくだけだしね」
「これから命がけの戦いに赴くのだ!無駄話はそこまでにしておけ!」
ヅラ勇者のガラハドが大声を出してその場を収める、おかげでケリーといろいろ話をしたかったが雰囲気的に黙るしかない状態になった。
その後もガラハドは何かにつけて、足手まといだの軟弱坊主だの言ってくるし、女勇者はライル卿に熱く将来のプランを語っている。
ダメ勇者はずっと馬車に酔っていた。
昼食、夕食は数名の騎士が準備したが、麦粥とぬるい水で皆が文句を言っていた。
俺はあらかじめカッツェ侯爵に行軍中は麦粥と干し肉になると聞いていたので、自分の分のパンを無限収納から取り出して肉や少しの野菜を挟んで食べていた。
どうやら収納スキルは珍しいらしく、他の勇者にもパンをせがまれたが、さんざん軟弱ものだと馬鹿にされていたので、そんなに用意をしていないと嘘をつき、こいつらには一切渡さなかった。
麦粥は固くて何とも言えない、もみ殻を外しただけの玄麦を煮込んで塩味をつけただけ、3口ほど食べたらもう食べたくなくなる味だ。城では固いながらもパンが選べていたのでそれほど苦ではなかった、この味にも慣れないとダメなんだろうが、コメが恋しい。
夜は皆で森から少し外れたところで、キャンプを設営した。
自分は他人と寝るほど神経が図太くない為、カッツェ侯爵に用意してもらった一人用のキャンプを建てていた。
翌朝、明るくなる前に5人程の汚い革鎧の集団が馬に乗って合流してきた。
皆身軽な革鎧に弓や剣を装備している、先頭にいるロン毛の細マッチョがおそらく5人のリーダーらしく、どうやら斥候の傭兵だとアタリをつけた。
「斥候を受けられた傭兵の皆さんですか?」
声をかけたところビンゴで、ガルド団長に報告に行くというのでついて行った。
報告は団長のキャンプで行われ、俺は同席を許されなかった為、キャンプの外で傭兵が出てくるのを待って再度声を掛けた。
「すみません、私も勇者団の一員なのですが、モンスターの状況など教えてもらうことは可能でしょうか?」
「口止めはされていないのでそれは構わないが、勇者には君のような子供もいるのか?」
彼等は『鷹の目』という斥候や情報収集を専門とした傭兵団で、俺の姿を見て、子供の勇者もいるのかと同情された。
斥候等を専門にしているということはダメ勇者みたいに【気配感知】を持ってるかもしれないので、【スキャン】はしないようにした。
そして彼らに同情されている事につけ込んで、色々話を聞いてみたがかなりヤバい状況だ。
まず、斥候としての彼らの任務は森の入り口付近のモンスターの調査である事。
森の中までは依頼の対象外らしい。
入り口付近のモンスターは獣系が多かったが、中は何がいるのかわからないとの事。
そして入り口付近のモンスターだけでも50体近くいたという事。
「鷹の目」の予想だと森全体では300体は居るだろうという事だった。
明日からの討伐開始で団長はどんな指示を出すのか?
全部討伐なんて無理だ、1日で判ったが馬車に乗っているだけの行軍だけでかなり疲労する。
全滅させるための長期戦のための準備もしていない、食糧も足りないはず。
自分一人なら1ヶ月分の食糧を準備しているが、この人数なら1日で終わってしまう。
俺は「鷹の目」に礼を言うと、自分のテントに戻り、不安を抱えながら眠りについた。
「鷹の目」からは逃げるのならついて来るかと誘われたが、カッツェ侯爵の顔が浮かんだので、断っておいた。
なんか、モンスター討伐で死んだ息子に似ているそうで、色々と世話をやいてくれたハゲ侯爵に、迷惑は掛けられない。
翌朝は、皆と同じ麦粥を食べた。この先を考えると無限収納の食糧はなるべく残しておくことにした。
周りの勇者達には、もう手持ちの食糧はないと言って誤魔化しておく。
朝食後に皆が準備を済ませ、いよいよ戦闘開始となる。
ガルド団長が頃合を見て、全員に声を掛けた。
「勇者達よ!昨日斥候から聞いた情報では、入り口付近にモンスターが集まっておるらしい!
我々はこれから森に向かい、まずはこれらのモンスターを駆逐する!」
「オオーッ!」
「陣形はステータスの高いものから先頭に奴等を蹂躙するぞッ!」
「オオーッ!」
良かった、やはり最強戦力を前面に出す力押しらしい、最弱ステータスの俺や同じ馬車の勇者達は最後尾だ。
まあ、俺以外は元の世界でも戦いの経験があるだろうし、そのあたりが余裕につながっているんだろうな。
まずは実際にモンスターの戦闘を見てみたい。
なんせこちらは平和な世界から来ており、命を賭けた実戦なぞやった事がなく35年を過ごして来た。
喧嘩とかなら経験はあるが、さすがに命のやり取りは経験がない。
正直怖くて仕方がないんだが、今更逃げることもできないし、神様から貰ったスキルを信じるしかない。
震えながら森の中を行軍していると先頭の勇者たちが武器を構え始めた。
いよいよなのか?
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