第20話 対決

 パケジが腕時計とにらめっこする。


「遅いですな。何かあったのかも。」


 機動隊もバク騎士団も突入する機会をうかがっている。


「まだか…。」


「夢の世界から出たのかもしれないわね。

 作戦Bに変更ね。」


 リーがつぶやく。


「作戦Bとは?」


 レムが訊くと

 リーは笑顔で言った。


「いってらっしゃい。」


 レムは思った。

 この人は鬼だと。

 私は鬼とバクのハーフなのかもしれない。


 ならば

 やってみせましょう。

 体力が続く限り。


 レムは工場に近づくと喝を入れた。

「ノンノ・レム・ルムレム3世参上!

 夢を頂きに参りました。」


 遠くでサイレンが鳴る。

 侵入者の合図だ。


 ガギは思う。

(どうせ誰も突破できない。

 気にすることはない。)


 爆発音や地響きが続く。


「レムだ。」

 トウマはさっきの冗談を思い出す。


 周りの風景が

 切れかけた蛍光灯のようにチラチラする。


 さっきまでトウマがいた工場の部屋が見えてくる。


 サイレンはずっと鳴りっぱなし。

 トラップ発動による

 大きな耳障りの音もやまない。


 ガギは耳をふさぐ。

 ガギの集中力が途切れていく。


「くっそー。

 バカかあいつは。

 なんであきらめないんだよ。」


 レムはぶっ飛ばされても、

 ぶっ飛ばされても、

 何度も這い上がった。


 もうとっくに限界は超えている。

 体の自由は効かなかった。

 地面に爪をたてて這って進む。


 地面に触れると

 発動する電気ショックを浴びても、

 立ち止まらなかった。


 巨大な鉄球で

 遠くまで飛ばされても這って戻ってきた。

 這うのが無理な時は寝たまま転がった。


 最初は

 不思議そうにレムを見ていたバク騎士団だったが、

 工場の扉に突進したり、

 走り回って音をたてた。


 機動隊もミサイルをうったり、

 自分達が持っている道具を打ち鳴らした。

 お祭りのようだった。


 この騒動は5分位続いている。

 トウマは、おかしいと思った。

 もうアリスが起きてもいいのに起きない。

 目覚ましがなっていない。


 夢だ。

 あの目覚まし時計はガギが見せた夢にちがいない。

 

 トウマは両耳をふさぐガギの足に

 タックルをしかける。


 ガギはそのまま倒れた。


 すると周りの風景が完全に工場に戻る。

 右手に巻き付いていた蛇も消えていた。


 トウマはガギの靴底にくっついたガムをはがすと、

 工場の機械につけた。

 機械音が止まる。


 工場の外ではパケジが合図を出す。


「機械が止まったぞ!

 今だ!突撃!」


 機動隊が工場に向かって走り出す。


 ガギがトウマに言った。


「坊主、すげぇな。

 いつも逃げてたのに、

 よく立ち向かってきたな。」


「みんなが助けてくれたから。

 それに、

 おじさんが見せた悪夢は僕の悪夢じゃない。

 おじさんが見てきた悪夢なんでしょ?」


 ガギは笑った。


「賢い坊主だ。

 これは俺様からのプレゼントだ。」


 ガギは蛇の形のデザインでできているブレスレットを

 渡そうと腕を伸ばした。


「いらない。」


 トウマは首を振る。


「おじさんなら悪夢に勝てるよ。

 いっぱい夢を見て賢いんでしょ?


 いろんな考えを見てるなら

 見てばっかりじゃなくて

 その中のいい考えを使えばいいよ。」


「言ってくれるぜ。

 大人になるとそれが難しいんだよ。」


 ガギはガハハと笑うと、照れくさそうに言った。


「俺がパケジに変装してる時に、

 坊主は俺のことを聞いてくれたよな。

 坊主が真剣に聞いてくれるから、嬉しくてよ。

 本当はもっと話したいことがあった。


 今度は俺の悪夢を止めるのを手伝いに来てくれねぇかな?」


 トウマは頷くとブレスレットを受け取って右手にはめた。


 機動隊は工場に入ってきて、

 二人が話している様子を見て待っていてくれた。

 ガギは両手を挙げて機動隊の元へ行く。

 無事にガギを逮捕した。


 トウマはリーから抱擁とキスのプレゼントを、

 パケジからは頭をもみくちゃにされるほど撫でられた。


 カミュはレムを車いすに乗せて押してきた。

 カミュの方は軽傷ですんだらしい。


 トウマは一つ気がかりなことがあった。

 夢を出る前に解決しないといけない。


 工場を取り戻せたから、

 みんなはまた夢を見られるようになって

 眠ることができる。


 でも、アリスはレムが夢を食べ続ける限り、

 ちゃんと寝ることができない。


「レムにお願いがあるの。

 アリスの夢を食べるのはやめてもらえませんか?」


 レムは、

 カミュに預けていた手紙をトウマに渡す。


「これは、今日のアリス嬢の夢の感想だ。

 記念に持っていきたまえ。」


 トウマはレムに

 アリスの夢を食べないという約束をしてほしかった。


 トウマがもう一度レムにお願いしようとすると、

 レムがその言葉を遮った。


「心配ご無用。

 今日がアリス嬢の夢を食べる最後の日になるから、

 記念に手紙を持って行ってほしいと言っているのだ。」


 トウマの顔が輝く。


「ありがとう。」


 レムはアリスのレーンに貼ってある予約の札をはがす。


「母さんとパケジ警部に交渉をしたのさ。

 トウマ君の仕事のお手伝いをして

 工場を元通りに直すことができたら、

 夢工場直送の夢を少しわけてほしい。

 もし、そうしてくれるなら、

 二度と夢工場の夢を盗み食いしないと誓おうってね。」

 

 トウマは安心して帰ることができた。

 みんなにお別れの挨拶をするとアリスのレーンを滑って行った。


 トウマの姿が見えなくなってから

 カミュがつぶやく。


「トウマ様は

 また夢の世界に来るおつもりでしょうか。」


「どうかな。

 ガギと約束をしていたようだったけど。」


 カミュもレムも

 トウマがつけていた腕のブレスレットが気になっていた。


「しかし約束した以上は

 責任をとって戦わなくてはならない。

 これは私にもいえることだ。

 私も今から私の戦いに行く。」


 そういうとレムは車椅子を漕いだ。


「連れて行ってくれたまえ。歯医者に」

 


 おわり

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目覚ましがなるまでに 筋肉牧師 @35gasuki

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