第18話 レムを救出せよ!

 パトカーでレムがいる場所についた。


 パトカーから降りて最初に目についたのは、

 機動隊と配達員たちがもめていることだった。

 怒号や罵声が聞こえる。


 配達員たちは

 バットや鉄パイプなど凶器になりそうな物を

 持って暴れていた。


 トマトや卵、石などが飛び交っている。


 レムが食べている途中だったのだろう。


 夢がこぼれていて、

 それをバク騎士団たちが群がって食べていた。


 少し離れたところに

 レムのエンブレムがついた馬車が転倒している。


 石を投げられたのだろう。

 馬車の中にも外にも細かいガラスの破片が

 散らばっていた。


 馬車は形がボコボコに変形するまで

 殴られた跡があった。


 カミュが馬車の下敷きになっていた。

 3人で馬車をのけようとしたが重くて無理だった。


「あ。」

 トウマは地面に落ちていた

 レムの片メガネを見つけて拾った。

 胸が痛くなる。


 パケジは大きく息を吸うと

 拡声器を使って穏やかに話す。


「あーあー。

 本日はお日柄もよく…きこえてます?


 機動隊の皆様、お疲れ様です。

 真犯人が見つかりました。

 夢工場の方に集合してください。

 早く捕まえた者順に昇給の話があるとかないとか。

 あ、あとついでにあそこに倒れてるカミュさんを

 病院までよろしくお願いします。」


 機動隊は台風のように移動した。


 拡声器のスイッチを切ると、トウマに言った。


「大人を動かすのはこれの話が1番効く。

 覚えときな。」


 そう言って手で銭マークをした。


 再度、スイッチを入れる。


「バク騎士団のみなさんは

 工場で食中毒完治祝いに夢をたっぷり用意しています。

 食べ放題ですよ。」


 バク騎士団もすごい勢いで移動した。


「あー、もしもし。聞こえるかね?

 社畜…じゃなかった配達員の皆様。

 まもなく工場が直るぞ。

 配達員の君たちもまた仕事に戻れる。

 おめでとう。」


 荒れ狂っていた暴動がぴたりと治まる。


「はけひけいふはん…。」

 配達員に顔を踏まれたままレムが喋る。

 パケジがちらっとレムを見る。


 いつもの純白なタキシードも

 マントもビリビリに破かれ、

 白い部分が残っていないほど汚されていた。

 毛も乱れて、体中に痣ができていた。

 顔は腫れ上がっている。


「それで、重要参考人としてそこの夢ドロボーを

 ワシに預けてほしい。


 君たちの気持ちもよくわかる。

 ワシもその夢ドロボーを相手に

 いつも苦渋を舐めてきたからな。


 だから、そのままなぶり殺すことで、

 君たちの気がすむのなら、

 いっそやってくれ。

 その方がワシも助かる。


 でも、

 その夢ドロボーにしか手伝えない仕事があってな。

 それをその夢ドロボーやってもらえると、

 早く工場が直る。

 どうする?」


 配達員たちが顔を見合わせる。


「それなら、俺たちは刑事さんに引き渡すよ。」


 配達員たちは靴を顔からどけると

 レムを立たせようと両脇に腕を通した。


 レムは怪訝な顔をする。


「失敬な。美食家と言ってもらいたいね。

 パケジ警部さんは

 今3回も私のことを夢ドロボーと言いましたよ。」


(4回だ。バカ。)

 パケジは心の中で言った。


 最も気にする単語の数を正確に数えられないほど

 ダメージを受けている。

 それでも、楯突く元気はある。

 パケジはとっさにレムの状態を分析した。


(気絶してくれてた方がやりやすいのだがな。

 頼む。余計なことは言ってくれるなよ。)


「私は夢を食べてるだけですよ。

 他の罪は知らん。」


 配達員がレムをパケジに渡そうとすると

 抵抗して嫌がった。


「お前、まだそんなことを言うか!」

「しらばっくれる気かよ!」

「俺たちの仕事を返せ!」


 配達員がレムの顔を殴り、

 よろめいたところを続けざまに痛めつける。


「はい、ストップストップ。

 仕事を手伝ってもらう前に

 くたばっちまうと困るんだよ。」


 パケジが配達員の暴行を止めようとするが、

 1回逆上すると、なかなか収まらない。

 そこで、パケジは奥の手を使う。


「3つ数える。それまでに出てこい!

 でなければお前の大事な人を泣かせるぞ!」


 配達員たちの暴行が止まる。

 レムは目がかすんでよく見えない。

 目をこらして見る。


「1」


「警部さん、卑怯ですよ。」


「2」


「トウマ君、あの時私は

 変装したガギだと気付いていながら

 君を行かせてしまった。

 すまなかった。」


「さ……」

 レムはパケジ警部の元に進み出ると、

 足がもつれてそのまま前に倒れそうになる。

 リーが抱きしめるように体で受け止めて、

 両腕をレムの背中に回す。

 レムはリーの肩に顎を乗せて話した。


「母さん…おかえり。無事で良かった。」


 リーは泣きながらレムの頬にキスをする。


「いだだ!虫歯が痛む。触らないで。」


 リーは呆れて言った。


「お前、まだ歯医者にいってなかったの?」


 レムは笑った。


「工場が元に戻ったら行くことにしよう。

 母さんが作ったセキュリティー、すごかった。

 さすがにこたえたよ。」

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